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険しきを冒す者たち  作者: 村松 柊榎
第一章:紅の終止符
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第3話︰傾国姫

 ~冒険者クラン「バベルブリゲード」仮拠点~



「なぁミラ、あいつら一体どうしたんだ?最近なんか変なんだよ。」


俺たちのクランの仮拠点として借りている、宿屋の他より大きめな一室。その隅っこ、窓際の椅子に座る少女に話しかける。彼女は特に用事がない時は大体ここにいて、いつも同じ万華鏡を覗いている。


「シズクさんが来てから、みんなちょっとずつおかしくなってきてるの。みんな、あの子に気に入られたくて無理してるっぽいし、あの子を巡ってよくケンカしてるの。」


それでだろうか、この頃クランの雰囲気があまり良くないように感じるのは。人の気持ちや場の雰囲気にかなり鈍感な俺でも感じる程に、だ。きっとかなりギスギスしているのだろう。


「女が1人入ったくらいでそんなに変わるもんかね、ほぼ男ばっかなクランとはいえ、ずっとミラだっていたのに、今までそんな事なかったよな。」

「え、えっと、ほら。私はなんっていうか、地味だし、暗いし、シズクさんみたいに可愛くないから…」

「ミラもじゅーぶん可愛いと思うぞ?」

「っ!」


目を逸らされてしまった。気にでも触っただろうか。あまり女の子相手に「可愛い」とか言うのは気持ち悪がられるのかもしれない、以後気をつけよう。


「あ、あー、女絡みの問題だったらアレスのやつが詳しそうだなー!そういやアレスは?」


かなり棒読みだった気がするが何とか話題を戻す。


「あ、うん。アレスさんならいつもの賭博場だと思うよ。」

「あそこかぁ。分かった、ちょっと行ってくる。」



 ~迷宮街フュージア・賭博場~



「レイズっ!」


勢いのいい男の声が響き渡る。

おーアレスのやつ、今日は随分と気前がよさそうだなぁ!

高額依頼の報酬でも入ったんじゃない?

今日こそ負けんなよー!

ギャラリーたちの声を他所に、男は勝負に集中する。手札の5枚のカードの役の強さで戦うゲーム。掛け金を大幅に上乗せした彼は、自らの手札を見ながら自信ありげに笑む。


「コール」

「「オープン」」


ゲームマスターがコールし、互いの手札を公開する。そして、


~~~~~~~~~~


この街の裏路地にある小さな下り階段、その先の扉を空け、中に入る。


「くそっ!もう1回だ!」


聞き覚えのある声が聞こえた。この街唯一の賭博場、アレスは暇と金さえあればこの賭博場に入り浸っては、高い確率で大負けしている。どうやら今日もそうらしい。


「ようアレス、今日の調子は?」

「ノアルか。珍しいな、お前がここに来るなんて。待ってろよ、あと少しで勝てそうなんだ。」


数分後、冒険者アレス・ゼプテンバルの全財産は0となった。


~~~~~~~~~~


「どうした、あと少しで勝てるんじゃなかったのか?」

「はぁ、毎回悪いなノアル。」


アレスは事ある毎にギャンブルで金を溶かし、俺から金を借りていく。そこそこの額になる事も多いが、これでもそこそこ高位の冒険者というだけあって、奴は毎回軽く完済していく。帰ってこなかった事は一度も無いから、俺もあまり気にせず貸しているが、これだけ負けまくっていて、ギャンブルを辞める気にならないのが不思議だ。奴曰く、「次こそは大勝ちできるはずなんだ」そうだ。意味が分からない。


「で、わざわざここまで来て、僕に何か用があったんじゃないのか?」

「シズクの事だ。」


アレスに例の話をした。


「うーん、クランに女性が入って荒れたって話は聞くことがあるが、これ程早くそうなるのは異常だな。分かった。僕の方で少し調べてみるよ。」

「助かる。」



 ~迷宮街ヒュージア・酒場「グランバレル」~



「あの女の正体が分かったよ。」


アレスに呼び出され、いつもの酒場で話を聞く。


「いくつかの情報屋や情報通の冒険者から話を聞けたよ。シズクと言う名の桃色の髪の女剣士で、クラン内で不和を引き起こす存在、間違いない。彼女は、男性割合の高いクランに入っては、男たちをその気にさせては片っ端から貢がせる。そのうち彼女の取り合いでクランは崩壊する。こうして、数多くのクランを崩壊へと導いてきた彼女は、【傾国姫(スカーレットピリオド)】と呼ばれ、情報通の冒険者たちからは危険人物として恐れられている。」

「それが、あのシズクだってのか?」

「あぁ。」


彼女がそんな危険人物だったとは。だとすると、やはり間違いなくここ最近のクラン内の不和は彼女の仕業だろう。


「それで、どうするんだい?」

「うーん、とりあえず彼女と会って話をしよう。きっと、何か理由があるはずだ。」



 ~迷宮街フュージア・宿屋~



「ノアルさんにアレスさん、今日はどうしたの?」


この街で2番目に安い宿屋、その入口前。シズクは突然の来客に笑顔で対応する。


「シズク・カンナヅキ、お前の事は調べさせてもらった。」

「調べた?いったい何のことかな~?」

「【傾国姫(スカーレットピリオド)】なんて、随分と物騒な二つ名を持ってるみたいだな、あんた。」

「……ふぅん、バレちゃったんだ。」


随分あっさり認めたもんだ。いったいどういうつもりなのだろうか。


「それで、どうするの?」


ニヤリ、と笑いながら聞いてくる。どうする?どうするだって?


「そりゃあ、もうこんなことはやめてもらうに決まってるだろう!」

「ふぅん、嫌よ。」

「は?」

「なら、ウチを追放でもしてみる?きっと荒れるわよ。みんなウチのことが大好きだもの。」


なるほど、それがこの女があまり焦ってない理由か。


彼女はこの短期間で、この街に滞在しているクランメンバーの大半を落としたらしい。まったく惚れ惚れする手腕である。だが、


「追放はしない。お前のような優秀な仲間をそう簡単に手放してたまるものか。」

「へぇ。ウチの事、調べたんでしょ?だったら、このままだとこのクラン、壊れちゃうの、分からないの?」

「いいや、壊させはしないさ。見てな、すぐにでも俺がアイツらの目を醒まさせてやる。」

「やってみなよ、出来るものならね。」


彼女の手口は、だいたい察しがついた。そして、その対処法も。

バベルブリゲードを、舐めるなよ。

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