第3話︰傾国姫
~冒険者クラン「バベルブリゲード」仮拠点~
「なぁミラ、あいつら一体どうしたんだ?最近なんか変なんだよ。」
俺たちのクランの仮拠点として借りている、宿屋の他より大きめな一室。その隅っこ、窓際の椅子に座る少女に話しかける。彼女は特に用事がない時は大体ここにいて、いつも同じ万華鏡を覗いている。
「シズクさんが来てから、みんなちょっとずつおかしくなってきてるの。みんな、あの子に気に入られたくて無理してるっぽいし、あの子を巡ってよくケンカしてるの。」
それでだろうか、この頃クランの雰囲気があまり良くないように感じるのは。人の気持ちや場の雰囲気にかなり鈍感な俺でも感じる程に、だ。きっとかなりギスギスしているのだろう。
「女が1人入ったくらいでそんなに変わるもんかね、ほぼ男ばっかなクランとはいえ、ずっとミラだっていたのに、今までそんな事なかったよな。」
「え、えっと、ほら。私はなんっていうか、地味だし、暗いし、シズクさんみたいに可愛くないから…」
「ミラもじゅーぶん可愛いと思うぞ?」
「っ!」
目を逸らされてしまった。気にでも触っただろうか。あまり女の子相手に「可愛い」とか言うのは気持ち悪がられるのかもしれない、以後気をつけよう。
「あ、あー、女絡みの問題だったらアレスのやつが詳しそうだなー!そういやアレスは?」
かなり棒読みだった気がするが何とか話題を戻す。
「あ、うん。アレスさんならいつもの賭博場だと思うよ。」
「あそこかぁ。分かった、ちょっと行ってくる。」
~迷宮街フュージア・賭博場~
「レイズっ!」
勢いのいい男の声が響き渡る。
おーアレスのやつ、今日は随分と気前がよさそうだなぁ!
高額依頼の報酬でも入ったんじゃない?
今日こそ負けんなよー!
ギャラリーたちの声を他所に、男は勝負に集中する。手札の5枚のカードの役の強さで戦うゲーム。掛け金を大幅に上乗せした彼は、自らの手札を見ながら自信ありげに笑む。
「コール」
「「オープン」」
ゲームマスターがコールし、互いの手札を公開する。そして、
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この街の裏路地にある小さな下り階段、その先の扉を空け、中に入る。
「くそっ!もう1回だ!」
聞き覚えのある声が聞こえた。この街唯一の賭博場、アレスは暇と金さえあればこの賭博場に入り浸っては、高い確率で大負けしている。どうやら今日もそうらしい。
「ようアレス、今日の調子は?」
「ノアルか。珍しいな、お前がここに来るなんて。待ってろよ、あと少しで勝てそうなんだ。」
数分後、冒険者アレス・ゼプテンバルの全財産は0となった。
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「どうした、あと少しで勝てるんじゃなかったのか?」
「はぁ、毎回悪いなノアル。」
アレスは事ある毎にギャンブルで金を溶かし、俺から金を借りていく。そこそこの額になる事も多いが、これでもそこそこ高位の冒険者というだけあって、奴は毎回軽く完済していく。帰ってこなかった事は一度も無いから、俺もあまり気にせず貸しているが、これだけ負けまくっていて、ギャンブルを辞める気にならないのが不思議だ。奴曰く、「次こそは大勝ちできるはずなんだ」そうだ。意味が分からない。
「で、わざわざここまで来て、僕に何か用があったんじゃないのか?」
「シズクの事だ。」
アレスに例の話をした。
「うーん、クランに女性が入って荒れたって話は聞くことがあるが、これ程早くそうなるのは異常だな。分かった。僕の方で少し調べてみるよ。」
「助かる。」
~迷宮街ヒュージア・酒場「グランバレル」~
「あの女の正体が分かったよ。」
アレスに呼び出され、いつもの酒場で話を聞く。
「いくつかの情報屋や情報通の冒険者から話を聞けたよ。シズクと言う名の桃色の髪の女剣士で、クラン内で不和を引き起こす存在、間違いない。彼女は、男性割合の高いクランに入っては、男たちをその気にさせては片っ端から貢がせる。そのうち彼女の取り合いでクランは崩壊する。こうして、数多くのクランを崩壊へと導いてきた彼女は、【傾国姫】と呼ばれ、情報通の冒険者たちからは危険人物として恐れられている。」
「それが、あのシズクだってのか?」
「あぁ。」
彼女がそんな危険人物だったとは。だとすると、やはり間違いなくここ最近のクラン内の不和は彼女の仕業だろう。
「それで、どうするんだい?」
「うーん、とりあえず彼女と会って話をしよう。きっと、何か理由があるはずだ。」
~迷宮街フュージア・宿屋~
「ノアルさんにアレスさん、今日はどうしたの?」
この街で2番目に安い宿屋、その入口前。シズクは突然の来客に笑顔で対応する。
「シズク・カンナヅキ、お前の事は調べさせてもらった。」
「調べた?いったい何のことかな~?」
「【傾国姫】なんて、随分と物騒な二つ名を持ってるみたいだな、あんた。」
「……ふぅん、バレちゃったんだ。」
随分あっさり認めたもんだ。いったいどういうつもりなのだろうか。
「それで、どうするの?」
ニヤリ、と笑いながら聞いてくる。どうする?どうするだって?
「そりゃあ、もうこんなことはやめてもらうに決まってるだろう!」
「ふぅん、嫌よ。」
「は?」
「なら、ウチを追放でもしてみる?きっと荒れるわよ。みんなウチのことが大好きだもの。」
なるほど、それがこの女があまり焦ってない理由か。
彼女はこの短期間で、この街に滞在しているクランメンバーの大半を落としたらしい。まったく惚れ惚れする手腕である。だが、
「追放はしない。お前のような優秀な仲間をそう簡単に手放してたまるものか。」
「へぇ。ウチの事、調べたんでしょ?だったら、このままだとこのクラン、壊れちゃうの、分からないの?」
「いいや、壊させはしないさ。見てな、すぐにでも俺がアイツらの目を醒まさせてやる。」
「やってみなよ、出来るものならね。」
彼女の手口は、だいたい察しがついた。そして、その対処法も。
バベルブリゲードを、舐めるなよ。




