第2話:楽園を目指す旅団
~迷宮街フュージア・酒場「グランバレル」~
迷宮が新たに発見されると、迷宮から発見される遺物などを求めて、そこに冒険者たちが集まる。彼らに武具や食料を売る商人がさらにそこに集まり、冒険者や商人の為の宿屋が建てられていく。こうして、迷宮を中心に出来上がっていく街は、迷宮街と呼ばれ、世界にいくつも存在している。ここ、「迷宮街フュージア」も、方解石の迷宮が発見によりできた迷宮街の1つだ。
「なぁ、アレス。そろそろ俺ら、この街で有名になってもいいんじゃないか?」
「まだ言ってるのかノアル。そんなに有名になりたいか?」
「たりめーだ、その為に冒険者やってんだよ。この前なんて下層で発見された赤竜の特異個体の討伐なんてやってのけたんだぞ!ギルド支部とか行ったら『あれがこの街でも一二を争う凄腕冒険者のノアルさんか!』みたいな反応があってもいいんじゃないか?」
「はぁ。」
剣士と槍使い、2人の冒険者が酒場の奥のテーブルで会話をしていた。そこに、1人の女が近づいていく。
「あの〜、ノアルさん、ですか?」
「お、おう!確かに俺がノアルだ!」
声を掛けられた槍使いが、剣士の方をチラチラ見ながら返事をする。口にはしてないが「おいおいアレス、ついに俺の時代が来たみたいだぜ!」とでも言いたげである。
「バベルブリゲードのメンバー募集を見て来ました、ウチをクランに入れてください!」
「クラン?あ、あぁ、クランね。どうしてうちのクランに?」
どうやら彼のファンではなかったらしい。
「ウチも探してるものがあって、拠点を転々としながら活動しているんです!だからクランには加入してなかったんですけど、このクランなら拠点移動の周期とかもウチにあってると思うんです!」
「ふむ、よし採用。」
~冒険者クラン「バベルブリゲード」仮拠点~
「と、言うことで、新メンバーのシズクさんだ。」
「シズク・カンナヅキ、剣士です。よろしくお願いします!」
「アイザック・ディセンバーだぜ、魔法剣士だ!オレの事はアイクって呼んでくれ!」
「ミラ・アプリールです、魔法使いです、防壁魔法と回復魔法が得意です。」
こうして、冒険者クラン「バベルブリゲード」のメンバーたちが自己紹介をしていく。シズクを連れてきた2人を除き、一通り自己紹介が終わる。
「そして、この俺がバベルブリゲードのマスター!槍使い、ノ」
「んでこいつがノアル・フェブリエだ。僕はアレス・ゼプレンバル、ここのサブマスターで前衛剣士だよ。」
待ってましたとばかりのノアルの渾身の自己紹介は、呆気なく隣のサブマスターに妨害された。
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「と、いう感じで、俺たちは『楽園』っていう場所を目指してる。辿り着いた者はあらゆる願いを叶えられるらしいんだ。」
自己紹介を決めれなかったショックから立ち直ったノアルにより、クランの全体目標が説明される。クラン単位で目指す目標、そのクランの意義が全体目標である。
「ま、最近はあんま進展もないけどね。あくまで僕らは旅をしながら各地で冒険者として活動してるだけ、くらいの認識で構わないよ。」
アレスの補足が入り、2人の話を聞いているシズクが頷いている。
一通り、クラン関連の説明が終わる。
「ノアルさん、アレスさん、今日は親切にありがとう!それじゃあ、これからよろしくね!」
手を振りながらバベルブリゲードの仮拠点からシズクが立ち去る。
「今回のクランは、随分チョロそうね。」
その呟きに、誰も気づかずに。
~方解石の迷宮・第4層~
ウチが加入したクラン、バベルブリゲード。小規模のBランククランで、総員はウチを含めて12人らしい。この街に滞在しているメンバーはそのうち9人。いずれもよくいる中級冒険者。こいつらを除いて。
「シズク、そっちの1体は任せるぞ、《撃槍》!」
狼型魔物を5体ほど相手に、俊敏に立ち回りながら各個撃破していく槍使い、ノアル・フェブリエ。風属性魔力を纏う事で高い機動力をもち、それを活かした一撃離脱を得意としている。
「ノアル、こっちは僕1人じゃ時間がかかりそうだよ。片付いたら手伝って。」
狼型魔物のリーダー格、一回り大きなソレを1人で食い止めているのが前衛剣士、アレス・ゼプテンバル。かつては騎士志望だったらしく、護剣術を修めている。
ノアルとアレス、この2人の実力は、他のメンバーとは一線を画している。Aランククランのエース級にも匹敵する程だ。そして、
「《剣撃》、『火球』っ!」
接近してきた魔物を豪快に斬り飛ばし、少し離れた場所で様子を伺っていた魔物へ魔法『火球』を放ったのが、魔法剣士、アイザック・ディセンバー。剣術、魔術共に実力はBランク相応だが、それを両方ともある程度習得している冒険者はBランクにはほぼ居ない。それらをどちらも使えて初めて成立する魔法剣は、最上級魔法並と言える程だ。
「『光縛杭』、『光矢』」
光の杭で魔物を地に維い付け、拘束された魔物の頭を光の矢で撃ち抜いたのが、魔法使い、ミラ・アプリール。魔法攻撃、特に光属性に対して絶大な防御力を誇る障壁魔法『反射障壁』を得意としている。習得難易度が高く使い手の非常に少ない魔法で、竜のブレスすら軽々と受けきれるらしい。障壁魔法以外は平凡な中級冒険者並。
「やぁっ!」
一閃、ノアルに任された魔物を斬り飛ばす。ノアルはというと、いつの間にか5体の魔物を葬り、アレスに加勢していた。そっちもすぐに決着がつきそうだ。この迷宮の4層で発生する白い狼型魔物「方解狼」、こいつらの爪の納品が今回このパーティが受けた依頼だ。新メンバーのウチの実力を見るのにちょうど良さそうな依頼だとノアルが持ってきた。
「ノアルさん、そっち手伝う?」
「大丈夫、もう終わる。《穿撃》!」
光の槍が方解狼の親玉を貫き、親玉はそのまま倒れた。
「武技も使わずに地味に硬ぇコイツらを真っ二つとは、驚いたな。」
「あははぁ、見てたんだ。」
「ヤバそうだったら、こっちはアレスに任せて助けに行こうと思ってたけど、必要なかったな。」
「僕もチラっと見てたけど、凄い技だね。極東の、確かサンブックだっけ?あそこの剣技だよね。」
サンブック皇国に伝わる、「刀」と呼ばれる特殊な曲剣を用いる切断に特化した剣技、この辺ではあまり知名度は高くないはず。アレスは随分と博識らしい。
このクランは小規模だが、Bランクには見合わない実力者がいる。ここなら、ウチの目的も果たせるかもしれない。




