第三十章:永遠の遺産
引退から、5年後。
タイシは、52歳になっていた。
戦争終結から、30年が経過していた。
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春の朝。
タイシは、庭で畑仕事をしていた。
5年間、毎日続けてきた作業だ。
トマト、キュウリ、レタス、ニンジン。
畑は、豊かに実っていた。
タイシは、収穫したトマトを手に取った。
「今年も、いい出来だ」
その時、背後から声がした。
「父さん!」
タイシは、振り返った。
5人の子供たちが、立っていた。
エリア(23歳)、レオ(22歳)、グレイス(21歳)、シェイド(20歳)、マリナ(24歳)。
全員、大人になっていた。
タイシは、驚いた。
「みんな、どうした?」
「今日は、平日だろう?」
エリアが、微笑んだ。
「父さん」
「今日は、特別な日なの」
「だから、みんなで来たの」
タイシは、首を傾げた。
「特別な日?」
レオが、言った。
「父さん、忘れたの?」
「今日は、戦争終結30周年だよ」
タイシは、はっとした。
「ああ…そうか」
「30年か…」
マリナが、言った。
「今日、王宮で式典があるの」
「父さんを讃える式典」
「来てほしいの」
タイシは、首を横に振った。
「いや、私はもう引退した」
「式典は、遠慮する」
グレイスが、言った。
「でも、父さん」
「みんな、父さんに会いたいって言ってるの」
「世界中の人が」
シェイドが、言った。
「父さん、お願い」
「来てよ」
タイシは、5人を見た。
そして、ため息をついた。
「分かった」
「行くよ」
5人は、嬉しそうに笑った。
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午後。
リベラ王宮の大広間。
10万人が集まっていた。
リベラ国民だけでなく、世界中から人々が来ていた。
帝国皇帝、ノーザン国王、サウザン連邦議長、イースタン商業同盟議長、魔王ゼノビア。
各国の代表が、全員集まっていた。
タイシが、会場に入ると、全員が立ち上がった。
そして、拍手が起きた。
鳴り止まない拍手。
タイシは、恥ずかしそうに手を振った。
壇上に、エリアが立った。
宰相として、式典の司会を務める。
「皆さん」
「今日は、戦争終結30周年記念式典にお越しいただき」
「ありがとうございます」
「30年前、世界は戦争をしていました」
「しかし、今、世界は平和です」
「これは、全て一人の男のおかげです」
「私の父、タイシです」
会場が、再び拍手に包まれた。
エリアは、続けた。
「父は、21歳で宰相になりました」
「そして、26年間、世界のために働きました」
「奴隷720万人を解放しました」
「世界貧困率を、21.8%から0.8%にしました」
「1,672万人の命を救いました」
「そして、5年前に引退しました」
「今日は、父の功績を讃えるために」
「世界中から、人々が集まりました」
エリアは、タイシを見た。
「父、ありがとう」
「あなたがいなければ、今の世界はありません」
タイシは、涙を流した。
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各国の代表が、スピーチした。
帝国皇帝が、壇上に立った。
「タイシ様」
「30年前、私の国は絶望の中にありました」
「奴隷720万人、貧困率70%」
「しかし、今」
「貧困率は0.5%です」
「これは、全てあなたのおかげです」
「あなたは、私の国を救いました」
「そして、私の国民を、幸せにしました」
「本当に、ありがとうございました」
帝国皇帝は、深々と頭を下げた。
ノーザン国王が、壇上に立った。
「タイシ様」
「30年前、私の国には獣人差別がありました」
「暴行事件が、年間5,000件」
「しかし、今」
「暴行事件は、年間10件以下です」
「99.8%減少しました」
「獣人と人族が、共に暮らしています」
「これも、あなたのおかげです」
「ありがとうございました」
イースタン議長が、壇上に立った。
「タイシ様」
「そして、エリア宰相」
「5年前、私の国は経済危機に陥りました」
「しかし、エリア宰相が救ってくれました」
「これは、タイシ様の教えのおかげです」
「タイシ様、あなたは世界を変えただけでなく」
「次世代にも、その精神を受け継がせました」
「本当に、素晴らしいです」
「ありがとうございました」
ゼノビアが、壇上に立った。
涙を流しながら。
「タイシ様」
「30年前、魔族は差別されていました」
「1,000年の偏見がありました」
「しかし、あなたが、その偏見を無くしてくれました」
「今、魔族は世界中で受け入れられています」
「これは、奇跡です」
ゼノビアは、続けた。
「5年前の引退パーティーで」
「私は、あなたに告白しました」
「あなたは、私の気持ちを受け入れることはできないと言いました」
「でも、友人でいてくれると言ってくれました」
「その言葉が、私を救いました」
ゼノビアは、タイシを見た。
「タイシ様」
「あなたは、私の大切な友人です」
「そして、魔族全員の恩人です」
「30年間、本当にありがとうございました」
「そして、これからも、友人でいてください」
会場が、拍手に包まれた。
タイシは、立ち上がった。
そして、ゼノビアに歩み寄った。
タイシは、ゼノビアの手を取った。
「ゼノビア」
「こちらこそ、ありがとう」
「あなたは、素晴らしい魔王だ」
「そして、私の大切な友人だ」
「これからも、よろしく頼む」
ゼノビアは、涙を流しながら微笑んだ。
「はい」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
会場が、再び拍手に包まれた。
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次に、タイシの番だった。
エリアが、タイシを壇上に呼んだ。
「父、お願いします」
タイシは、壇上に立った。
10万人が、タイシを見つめていた。
タイシは、深呼吸した。
「皆さん」
「今日は、ありがとうございます」
「30年…長かったですね」
タイシは、これまでの30年を振り返った。
「21歳の時、私は宰相になりました」
「何も分からない、若者でした」
「でも、国王が、私を信じてくれました」
「そして、22歳の時、戦争が起きました」
「私は、超大魔法で、15万人を殺しました」
会場が、静まり返った。
タイシは、続けた。
「その罪は、今でも私の心に残っています」
「でも、私は決めました」
「殺した命の分だけ、命を救おうと」
「そして、26年間、働きました」
「結果、1,672万人を救うことができました」
「でも、これは私一人の力ではありません」
「国王、大臣たち、妻たち、子供たち」
「そして、皆さん」
「全ての人の力です」
タイシは、会場を見渡した。
「今、世界は平和です」
「貧困率は0.8%」
「奴隷は0人」
「差別は、ほぼ無くなりました」
「これは、素晴らしいことです」
「でも、まだ終わりではありません」
「72万人が、まだ貧困です」
「0.8%とはいえ、72万人です」
「この72万人も、救わなければなりません」
タイシは、子供たちを見た。
「でも、それは私の仕事ではありません」
「次世代の仕事です」
「エリア、レオ、グレイス、シェイド、マリナ」
「お前たちの仕事です」
「そして、お前たちなら、できる」
「私は、信じています」
5人の子供たちは、涙を流した。
タイシは、会場に向かって言った。
「皆さん」
「私は、もう52歳です」
「引退して、5年経ちました」
「これからは、静かに暮らしたいと思います」
「でも、もし、世界が困った時は」
「いつでも、呼んでください」
「私は、いつでも、助けに来ます」
「それが、私の使命です」
タイシは、深々と頭を下げた。
「30年間、ありがとうございました」
会場が、割れんばかりの拍手に包まれた。
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式典の後。
タイシは、家族と一緒に王宮の庭を歩いていた。
5人の妻と、5人の子供たち。
合計11人。
夕陽が、美しかった。
エリアが、タイシに言った。
「父さん」
「今日のスピーチ、素晴らしかったわ」
レオが、言った。
「俺、感動した」
グレイスが、言った。
「私も、泣いちゃった」
シェイドが、言った。
「父さん、かっこよかった」
マリナが、言った。
「私も、父さんみたいになりたい」
タイシは、5人を見た。
「みんな」
「お前たちは、もう立派な大人だ」
「私を超える日も、近い」
「いや、もう超えているかもしれない」
エリアが、首を横に振った。
「まだまだよ、父さん」
「私たち、まだまだ未熟」
タイシは、微笑んだ。
「いや、お前たちは十分に立派だ」
「私は、誇りに思っている」
エレノアが、タイシの手を握った。
「タイシ」
「あなたは、本当によくやったわ」
「30年間、お疲れ様」
ルナが、言った。
「これからは、ゆっくり休んでね」
グレタが、言った。
「そして、私たちと、もっと時間を過ごそう」
シャドウが、言った。
「私たち、あなたと一緒にいたいの」
マリアが、言った。
「これから、私たちの時間よ」
タイシは、涙を流した。
「みんな、ありがとう…」
「本当に、ありがとう…」
11人で、夕陽を見た。
美しい、オレンジ色の空。
タイシは、思った。
「これが、幸せだ」
「これ以上の幸せは、ない」
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夜。
タイシは、一人で書斎にいた。
日記を書いていた。
30年間、毎日書き続けてきた日記。
タイシは、ペンを取った。
**【日記・戦争終結30周年】**
今日、式典があった。
10万人が集まった。
世界中から、人々が来た。
みんな、私に感謝してくれた。
でも、私は思う。
感謝されるべきは、私ではない。
国王、大臣たち、妻たち、子供たち。
そして、全ての人々。
みんなの力で、世界は変わった。
私は、ただのきっかけに過ぎない。
30年。
長い戦いだった。
でも、やり遂げた。
奴隷720万人を解放した。
世界貧困率を21.8%から0.8%にした。
1,672万人の命を救った。
でも、まだ72万人が貧困だ。
これは、次世代の仕事だ。
エリア、レオ、グレイス、シェイド、マリナ。
お前たちなら、できる。
私は、信じている。
そして、私は思う。
これが、私の遺産だ。
金や、権力ではない。
次世代に、正しい心を伝えること。
それが、私の遺産だ。
エリアは、困っている人を助ける。
レオは、弱い者を守る。
グレイスは、技術で人を幸せにする。
シェイドは、知識を広める。
マリナは、世界を繋ぐ。
これが、私の遺産だ。
そして、これは永遠に続く。
子供たちから、孫たちへ。
孫たちから、ひ孫たちへ。
永遠に、受け継がれる。
これが、私の遺産だ。
「永遠の遺産」
私は、幸せだ。
本当に、幸せだ。
タイシは、ペンを置いた。
そして、窓の外を見た。
満天の星。
美しい夜空。
タイシは、微笑んだ。
「ありがとう…」
「みんな、本当にありがとう…」
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**【最終データ(戦争終結30年後)】**
**世界人口:9,500万人**
**世界貧困率:0.8%(76万人)**
**世界奴隷:0人**
**リベラ共和国:**
- 人口:2,400万人
- GDP:135億金貨/年
- 一人当たりGDP:563金貨/年
- 世界GDP比:70%
**タイシ・リベラ:**
- 年齢:52歳
- 宰相在任:26年間(21歳~47歳)
- 引退後:5年間
**タイシの功績:**
- 奴隷解放:720万人
- 貧困削減:1,672万人
- 世界支援:230.6億金貨
- 世界貧困率:21.8%→0.8%
- 戦争勝利:超大魔法で帝国軍撃破
- 次世代育成:5人の子供たちを世界のリーダーに
**タイシの家族:**
- 妻:5人(エレノア、ルナ、グレタ、シャドウ、マリア)
- 子供:5人(エリア23歳、レオ22歳、グレイス21歳、シェイド20歳、マリナ24歳)
**子供たちの現状:**
- エリア:宰相6年目、イースタン危機解決
- レオ:軍大尉、3,000人部隊指揮官
- グレイス:ゴーレム技術の第一人者、新型10機種開発
- シェイド:魔法理論の権威、5つの新理論発表
- マリナ:外交官、5カ国大使歴任
**世界の評価:**
- 「世界平和の父」
- 「史上最高の宰相」
- 「全ての人の恩人」
- 「永遠の英雄」
**タイシの言葉:**
「私の遺産は、金や権力ではない」
「次世代に、正しい心を伝えること」
「それが、永遠の遺産だ」
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**【第五部 完結】**
**全体テーマ:戦争から平和へ、そして次世代へ**
**第一章~第九章:戦争編**
- 帝国の脅威
- 同盟軍結成
- 大魔法での勝利
- 15万人を殺した罪
**第十章~第十八章:復興編**
- 奴隷720万人解放
- 4都市建設
- 経済発展
- 鉱山開発
**第十九章~第二十七章:世界改革編**
- 世界貧困撲滅条約
- 各国支援(230.6億金貨)
- 差別撲滅
- 目標達成(貧困率0.8%)
- タイシ引退
**第二十八章~第三十章:次世代継承編**
- 引退後の静かな生活
- エリアの成長
- 5人の子供たちの飛躍
- 30周年式典
- 永遠の遺産
**最終メッセージ:**
タイシ・リベラは、21歳で宰相となり、26年間世界のために戦った。
奴隷720万人を解放し、1,672万人の命を救い、世界貧困率を21.8%から0.8%にした。
そして、5人の子供たちに「正しい心」を受け継がせた。
これが、タイシの「永遠の遺産」である。
金や権力ではなく、「人を助ける心」が、世代を超えて受け継がれていく。
それこそが、真の遺産である。
タイシは52歳。
家族と共に、静かに暮らしている。
そして、満天の星空を見上げながら、微笑んでいる。
「幸せだ…本当に、幸せだ…」
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