第二十九章:受け継がれる炎
引退から、2年後。
タイシは、49歳になっていた。
戦争終結から、27年が経過していた。
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ある日の午後。
タイシは、王宮から緊急の呼び出しを受けた。
エリアから、直接の呼び出しだった。
タイシは、急いで王宮に向かった。
宰相の執務室。
扉を開けると、エリアが深刻な顔で座っていた。
「エリア、どうした?」
エリアは、タイシに書類を差し出した。
「父さん」
「大変なことになったの」
タイシは、書類を読んだ。
**【イースタン商業同盟・緊急報告】**
**経済危機発生**
**原因:新興企業の急成長と旧来企業の崩壊**
**失業者:50万人(人口の3%)**
**貧困率:1.0%→3.5%(半年で2.5%上昇)**
**社会不安:暴動発生(3都市)**
タイシは、書類を読み終えた。
「これは…深刻だな」
エリアは、頷いた。
「ええ」
「イースタン議長から、支援要請が来ているわ」
「でも、私には…」
「どうすればいいか、分からないの」
タイシは、エリアの肩に手を置いた。
「エリア」
「落ち着いて」
「まず、状況を整理しよう」
タイシは、椅子に座った。
「この問題、原因は何だと思う?」
エリアは、考えた。
「新興企業の急成長で」
「旧来企業が競争に負けた」
「それで、多くの人が職を失った」
タイシは、頷いた。
「そうだね」
「これは、『創造的破壊』だ」
「新しい技術が、古い産業を壊す」
「資本主義では、よくあることだ」
エリアは、尋ねた。
「じゃあ、どうすればいいの?」
タイシは、答えた。
「3つの対策が必要だ」
「第一:短期的救済」
「失業者に、すぐに支援を」
「第二:職業訓練」
「新しい産業で働けるように」
「第三:社会保障の強化」
「こういう危機に備えて」
エリアは、メモを取った。
「分かったわ」
「でも、予算は…」
タイシは、考えた。
「予算は、10億金貨必要だろう」
「リベラが、5億金貨支援する」
「イースタンも、5億金貨出す」
「これで、対応できる」
エリアは、不安そうに言った。
「でも、議会が承認するかしら…」
タイシは、微笑んだ。
「エリア」
「お前は、宰相だ」
「議会を説得するのも、お前の仕事だ」
「私は、もう引退した」
「お前が、やるんだ」
エリアは、決意の表情になった。
「分かったわ」
「私、やってみる」
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1週間後。
エリアは、議会で演説した。
議員100人が、集まっていた。
エリアは、壇上に立った。
「議員の皆様」
「今日は、イースタン支援について」
「お話しします」
エリアは、状況を説明した。
イースタンの経済危機。
50万人の失業者。
貧困率の急上昇。
そして、暴動。
「このままでは」
「イースタンは、崩壊します」
「そして、世界経済にも影響します」
ある議員が、手を挙げた。
「しかし、宰相」
「なぜ、私たちが支援しなければならないのですか?」
「イースタンの問題は、イースタンが解決すべきです」
エリアは、答えた。
「確かに、そうです」
「しかし、考えてください」
「27年前、私たちの父、タイシは」
「世界中を支援しました」
「なぜですか?」
「それは、世界が繋がっているからです」
「一つの国が苦しめば」
「全ての国に影響します」
「だから、支援するのです」
別の議員が、言った。
「でも、5億金貨は、大金です」
「我が国の予算の4%です」
エリアは、頷いた。
「はい、大金です」
「しかし、考えてください」
「もし、イースタンが崩壊すれば」
「私たちの輸出先が失われます」
「経済的損失は、5億金貨どころではありません」
「10億、20億になるかもしれません」
「だから、今、支援するのです」
「予防のために」
議員たちは、ざわめいた。
エリアは、続けた。
「そして、何より」
「私たちは、人間です」
「同じ世界に住む、仲間です」
「困っている人を、助ける」
「それが、正しいことです」
「父、タイシは、そう教えてくれました」
エリアは、深呼吸した。
「私は、まだ20歳です」
「宰相として、未熟です」
「でも、父の教えを信じています」
「人を助けることが、正しいと」
「だから、お願いします」
「イースタン支援を、承認してください」
議場が、静まり返った。
そして、一人の議員が立ち上がった。
「私は、賛成します」
別の議員も、立ち上がった。
「私も、賛成します」
次々と、議員が立ち上がった。
最終的に、85人が賛成した。
賛成多数で、承認された。
エリアは、涙を流した。
「ありがとうございます…」
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議会の後。
タイシは、エリアを待っていた。
王宮の庭。
エリアが、走ってきた。
「父さん!」
「承認されたわ!」
タイシは、エリアを抱きしめた。
「よくやった、エリア」
「本当に、よくやった」
エリアは、泣きながら言った。
「父さんの教えのおかげよ」
「人を助けることが、正しい」
「それを、議員に伝えられたの」
タイシは、微笑んだ。
「いや」
「お前の力だ」
「お前が、議員を説得したんだ」
「私は、何もしていない」
エリアは、タイシを見た。
「でも、父さんがいなかったら」
「私は、ここまで来られなかった」
タイシは、エリアの頭を撫でた。
「エリア」
「お前は、もう一人前だ」
「私を超えた」
エリアは、驚いた。
「超えた?」
タイシは、頷いた。
「ああ」
「私が20歳の時」
「こんな演説は、できなかった」
「お前は、私より優秀だ」
エリアは、涙を流した。
「ありがとう、父さん…」
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3ヶ月後。
イースタンの危機は、解決に向かっていた。
エリアの支援プログラムが、功を奏した。
**【イースタン支援プログラム・3ヶ月報告】**
**総予算:10億金貨**
**短期的救済(3億金貨):**
- 失業者50万人に、月20金貨支給
- 生活の安定化
**職業訓練(4億金貨):**
- 訓練センター:100カ所開設
- 訓練生:30万人
- 内容:新技術、新産業のスキル
**社会保障強化(3億金貨):**
- 失業保険制度確立
- 月30金貨、最長6ヶ月支給
- 対象:全労働者
**結果:**
- 失業者:50万→20万人(60%減)
- 貧困率:3.5%→1.8%(半減)
- 暴動:完全に鎮静化
- 経済回復:GDP成長率+3%
イースタン議長が、リベラを訪れた。
エリアと会談した。
「エリア宰相」
「本当に、ありがとうございました」
「あなたのおかげで、私の国は救われました」
エリアは、微笑んだ。
「いいえ」
「私たちは、仲間です」
「困った時は、助け合う」
「それが、当然です」
議長は、涙を流した。
「あなたは、父上に似ていますね」
「タイシ様と同じ、優しさを持っています」
エリアは、少し照れた。
「ありがとうございます」
「でも、私はまだ未熟です」
「父には、遠く及びません」
議長は、首を横に振った。
「いいえ」
「あなたは、素晴らしい宰相です」
「タイシ様を超える日も、遠くないでしょう」
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その夜。
タイシの家で、家族全員が集まった。
5人の妻と、5人の子供たち。
合計11人。
食卓を囲んでいた。
エリアが、今日の出来事を話した。
イースタン議長の訪問。
感謝の言葉。
そして、「タイシ様を超える日も遠くない」という言葉。
レオが、言った。
「姉さん、すごいな」
「もう、父さんを超えそうだ」
グレイスが、言った。
「私も、負けてられないわ」
「ゴーレム技術で、父さんを超える」
シェイドが、言った。
「俺も、魔法理論で、父さんを超える」
マリナが、言った。
「私も、外交で、父さんを超える」
タイシは、5人を見た。
そして、涙を流した。
「みんな…」
エレノアが、タイシに言った。
「タイシ」
「あなたの夢が、叶いつつあるわね」
「子供たちが、あなたを超える」
タイシは、頷いた。
「ああ」
「これが、私の願いだった」
「子供たちが、私を超える」
「それが、進化だ」
ルナが、言った。
「あなたは、本当に素晴らしい父親よ」
グレタが、言った。
「そして、素晴らしい夫だ」
シャドウが、言った。
「私たち、あなたと一緒になれて、幸せよ」
マリアが、言った。
「これからも、ずっと一緒ね」
タイシは、みんなを見た。
「ああ」
「これからも、ずっと一緒だ」
11人で、乾杯した。
「乾杯!」
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深夜。
タイシは、一人で屋上にいた。
星空を見上げていた。
妻のエレノアが、やってきた。
「タイシ」
「また、一人で?」
タイシは、微笑んだ。
「ああ」
「少し、考え事をしていた」
エレノアは、タイシの隣に立った。
「何を考えているの?」
タイシは、答えた。
「エリアのことだ」
「今日、イースタン議長が言った」
「『タイシ様を超える日も遠くない』と」
「本当に、嬉しかった」
エレノアは、微笑んだ。
「ええ」
「エリアは、素晴らしい子に育ったわ」
タイシは、続けた。
「27年前」
「私は、戦争をした」
「15万人を殺した」
「それが、ずっと心に残っていた」
「でも、今」
「子供たちが、人を助けている」
「世界を、より良くしている」
「それが、私の贖罪だと思う」
エレノアは、タイシを抱きしめた。
「タイシ」
「あなたは、十分に償ったわ」
「1,672万人を救った」
「それが、あなたの功績よ」
タイシは、涙を流した。
「ありがとう、エレノア…」
二人は、星空を見上げた。
「これから、子供たちの時代だ」
「私たちは、見守るだけでいい」
エレノアは、頷いた。
「ええ」
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**【リベラ共和国・最新データ(戦争終結27年後)】**
**総人口:2,300万人**
**経済:**
- GDP:130億金貨/年
- 一人当たりGDP:565金貨/年
**タイシの家族:**
- 年齢:49歳
- 妻:5人
- 子供:5人(17~21歳)
**子供たちの成長:**
- エリア(20歳):宰相3年目、イースタン危機を解決
- レオ(19歳):軍中尉、部隊指揮官
- グレイス(18歳):ゴーレム技術者、新型開発中
- シェイド(17歳):魔法研究者、新理論発表
- マリナ(21歳):外交官、3カ国大使を歴任
**世界の現状:**
- 世界人口:9,200万人
- 貧困率:0.8%
- イースタン危機:エリアの支援で解決
**エリアの功績:**
- イースタン支援:10億金貨
- 失業者:50万→20万人
- 貧困率:3.5%→1.8%
- 暴動鎮静化
- 議会説得成功(85人賛成)
**タイシの心境:**
「子供たちが、私を超え始めた」
「これが、私の願いだった」
「子供たちが、人を助けている」
「それが、私の贖罪だ」
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**【本章のテーマ:次世代の飛躍】**
**エリアの成長:**
- イースタン経済危機に直面
- 父タイシに相談
- 独自の判断で対応策を立案
- 議会を説得(感動的な演説)
- 危機解決に成功
**演説のポイント:**
「世界は繋がっている」
「一つの国が苦しめば、全ての国に影響する」
「困っている人を助ける、それが正しいこと」
「父、タイシの教え」
**タイシの評価:**
「お前は、もう一人前だ」
「私を超えた」
「私が20歳の時、こんな演説はできなかった」
**5人の子供たち全員が決意:**
「父さんを超える」
- エリア:政治で
- レオ:軍事で
- グレイス:技術で
- シェイド:学術で
- マリナ:外交で
**タイシの贖罪:**
「27年前、15万人を殺した」
「でも、子供たちが人を助けている」
「それが、私の贖罪だ」
**世代交代の完成:**
- タイシ:見守る立場
- 子供たち:世界を動かす立場
- 「これから、子供たちの時代だ」
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