第二十二章:次なる戦場
帝国土地改革から、3ヶ月後。
リベラ王宮の執務室。
タイシは、世界各国の最新報告書を読んでいた。
オペレーション・ライフラインは成功した。
帝国の8万人を救い、土地改革を実現した。
貧困率も18%から12%に改善した。
しかし、タイシは満足していなかった。
「まだ、帝国だけで312万人が貧困だ」
「世界全体では、まだ878万人が貧困に苦しんでいる」
タイシは、報告書を机に置いた。
そして、エドガーを呼んだ。
「エドガー」
「次は、何をする?」
エドガーは、別の報告書を広げた。
「タイシ様」
「帝国の緊急支援は成功しました」
「しかし、他の国にも深刻な問題があります」
エドガーは、3つの報告書を示した。
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**【世界の残存する主要問題(18年後)】**
**1. ノーザン王国の問題**
**貧困率:12%(102万人)**
**主な問題:**
- 人種差別(獣人族への差別)
- 獣人族の失業率:30%(人族の3倍)
- 獣人族の平均年収:150金貨(人族の半分)
- 獣人族の居住区:スラム化
- 獣人族の子供:教育機会なし50%
- 寒冷気候による農業困難
- 食料自給率:70%
- 輸入依存:30%
- 冬季の食料不足
- アルコール依存
- 患者数:5万人
- 寒冷地特有の問題
- 家庭内暴力の原因
**タイシの診断:**
「人種差別が最大の問題だ」
「獣人族40万人(人口の5%)が差別されている」
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**2. 魔族領の問題**
**貧困率:15%(98万人)**
**主な問題:**
- 他国からの差別・偏見
- 貿易制限(イースタンは魔族との取引を制限)
- 移動制限(ノーザンは魔族の入国を制限)
- 雇用差別(人族企業は魔族を雇わない)
- 農業技術の遅れ
- 食料自給率:80%
- 技術水準:50年遅れ
- 灌漑設備:未整備
- 内部対立
- 魔族vsダークエルフvsオーク
- 種族間の不信
- 資源配分の偏り
**タイシの診断:**
「外部からの差別が、貧困の主因だ」
「魔族は、悪くない」
「偏見が、彼らを苦しめている」
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**3. イースタン商業同盟の問題**
**貧困率:10%(160万人)**
**主な問題:**
- 経済格差の拡大
- 上位10%が富の70%を独占
- ジニ係数:0.45(高い不平等)
- 中産階級の衰退
- 債務問題
- 債務者:50万人
- 債務奴隷的労働(違法だが存在)
- 高利貸しの横行
- 労働環境の悪化
- 平均労働時間:1日12時間
- 過労死:年間1,000人
- 労働者の権利:未整備
**タイシの診断:**
「資本主義の暴走だ」
「規制がなければ、弱者は搾取される」
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タイシは、3つの報告書を見た。
「帝国は、土地改革で構造を変えた」
「しかし、これらの問題も、構造的だ」
「どれから手をつけるべきか…」
エドガーが、言った。
「タイシ様」
「3つ全て、同時に進めることも可能です」
「リベラには、資金も人材も技術もあります」
タイシは、考えた。
「いや」
「同時に進めれば、どれも中途半端になる」
「優先順位をつける」
タイシは、決断した。
「まず、ノーザン王国の人種差別問題に取り組む」
エドガーが、尋ねた。
「なぜ、ノーザンを最初に?」
タイシは、答えた。
「なぜなら、最も緊急性が高いからだ」
「帝国の飢餓は、干ばつという一時的要因があった」
「しかし、ノーザンの獣人差別は、構造的で、恒常的だ」
「毎日、獣人が差別され、苦しんでいる」
「放置すれば、いつか暴動が起きる」
「そうなれば、内戦だ」
エドガーは、頷いた。
「分かりました」
「ノーザン王国への支援計画を立案します」
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**【ノーザン王国・獣人差別問題】**
**現状分析:**
**獣人族の人口:**
- 総数:40万人(ノーザン人口850万の5%)
- 分布:主に都市部のスラム
**差別の実態:**
**1. 雇用差別**
- 獣人の失業率:30%
- 人族の失業率:10%
- 獣人雇用禁止の企業:60%
- 理由:「獣人は野蛮」「信用できない」
**2. 賃金格差**
- 獣人の平均年収:150金貨
- 人族の平均年収:300金貨
- 同じ仕事でも、獣人は半分の給料
**3. 居住差別**
- 獣人居住区:スラム化
- 上下水道:未整備
- ゴミ回収:なし
- 治安:最悪(犯罪率は一般地区の5倍)
**4. 教育差別**
- 獣人の子供の就学率:50%
- 人族の子供の就学率:95%
- 理由:学費が払えない、学校が受け入れない
**5. 医療差別**
- 獣人を診療する病院:30%のみ
- 医療費:獣人は2倍請求される
- 平均寿命:獣人60歳、人族68歳
**6. 社会的差別**
- レストラン:獣人入店禁止60%
- 公共施設:獣人専用トイレ(隔離)
- 結婚:人族と獣人の結婚は社会的に非難される
**暴力事件:**
- 獣人への暴行:年間5,000件
- 警察の対応:消極的(加害者の90%が不起訴)
**差別の歴史:**
- 100年前:獣人は奴隷だった
- 50年前:奴隷制廃止
- しかし、差別は残った
- 「元奴隷」という偏見
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タイシは、報告書を読み終えた。
そして、拳を握った。
「これは…ひどすぎる…」
「獣人は、人間だ」
「なぜ、こんな扱いを受けなければならないんだ」
タイシは、妻のルナを思い出した。
ルナは、獣人族だ。
もし、ルナがノーザンで生まれていたら…
この差別を受けていたら…
タイシは、怒りに震えた。
「絶対に、この差別を無くす」
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1週間後。
タイシは、ノーザン王国の首都を訪れていた。
国王エドワード3世との会談。
タイシは、単刀直入に言った。
「エドワード陛下」
「獣人差別を、今すぐやめてください」
エドワード3世は、困った顔をした。
「タイシ様」
「私も、差別はよくないと思います」
「しかし、これは国民感情の問題です」
「法律で禁止しても、人々の心は変わりません」
タイシは、答えた。
「では、変えましょう」
「人々の心を」
エドワード3世は、首を横に振った。
「無理です」
「100年続いた差別意識を、変えることはできません」
タイシは、言った。
「できます」
「私が、証明します」
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**【ノーザン王国・獣人差別撲滅プログラム】**
**タイシの戦略:3段階アプローチ**
**第1段階:法的整備(即日実施)**
**1. 獣人差別禁止法の制定**
- 雇用差別の禁止
- 獣人雇用を拒否した企業:罰金100万金貨
- 同一労働同一賃金の義務化
- 賃金差別の禁止
- 同じ仕事で賃金差別:罰金50万金貨
- 居住差別の禁止
- 獣人の入居拒否:罰金10万金貨
- 教育差別の禁止
- 獣人の入学拒否:罰金50万金貨
- 学費免除制度(獣人の子供)
- 医療差別の禁止
- 診療拒否:医師免許剥奪
- 医療費差別:罰金100万金貨
- 暴力行為の厳罰化
- 獣人への暴行:懲役10年
- 差別発言:罰金10万金貨
**2. 獣人権利委員会の設置**
- 差別事案の調査・摘発
- 被害者への法的支援
- リベラから法律家10人派遣
**第2段階:経済支援(1年計画)**
**1. 獣人居住区の再開発**
- スラムの取り壊し
- 新住宅の建設:2万戸
- 上下水道の整備
- 学校の建設:50校
- 病院の建設:10カ所
- 公園・娯楽施設の建設
- 費用:10億金貨(リベラが負担)
**2. 職業訓練プログラム**
- 訓練施設:20カ所建設
- 対象:失業中の獣人12万人
- 訓練内容:技術職、事務職、専門職
- 訓練期間:6ヶ月
- 訓練中の生活費支給:月50金貨
- 費用:2億金貨
**3. 獣人雇用促進制度**
- 獣人を雇用する企業に補助金
- 1人あたり:年間50金貨×3年間
- 対象企業:1,000社
- 対象獣人:10万人
- 費用:15億金貨
**4. 獣人起業支援**
- 無利子融資:1人最大100万金貨
- 経営指導:リベラから専門家派遣
- 対象:1,000人
- 費用:10億金貨
**第3段階:意識改革(5年計画)**
**1. 教育プログラム**
- 学校での人権教育
- 教科書改訂:獣人の歴史を正しく記載
- 教師研修:差別意識の除去
- 対象:全ての学校
**2. メディアキャンペーン**
- テレビ、新聞、広告で啓発活動
- 「獣人も人間だ」キャンペーン
- 成功した獣人の紹介
- 費用:1億金貨/年×5年
**3. 異人種間交流プログラム**
- 人族と獣人の共同イベント
- スポーツ大会、文化祭、音楽祭
- 学校間交流
- 費用:5,000万金貨/年×5年
**4. リベラモデルの紹介**
- リベラの異人種間結婚率:25%
- タイシの家族(5人種の妻)を紹介
- 「多様性は強さ」というメッセージ
**総費用:**
- 第1段階:1,000万金貨(法整備)
- 第2段階:37億金貨(経済支援)
- 第3段階:7億5,000万金貨(意識改革)
- **合計:44億5,000万金貨(5年間)**
**資金源:**
- リベラが全額負担
**目標:**
- 5年後、獣人差別を90%削減
- 獣人の失業率:30%→10%
- 獣人の平均年収:150金貨→300金貨
- 獣人の子供就学率:50%→95%
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エドワード3世は、計画書を読んだ。
そして、驚愕した。
「44億金貨!?」
「そんな巨額を…」
タイシは、頷いた。
「はい」
「リベラが、全額負担します」
「条件は、1つだけ」
エドワード3世は、尋ねた。
「条件とは?」
タイシは、答えた。
「本気で、差別を無くしてください」
「法律を作るだけではダメです」
「実際に、摘発してください」
「差別企業に、罰金を科してください」
「差別する国民を、処罰してください」
「それができますか?」
エドワード3世は、黙った。
そして、言った。
「…難しいです」
「国民の反発が…」
タイシは、遮った。
「国民の反発が怖いですか?」
「それとも、40万人の獣人の人権が大切ですか?」
「どちらですか?」
エドワード3世は、長い沈黙の後、答えた。
「…獣人の人権です」
「分かりました」
「本気で、取り組みます」
タイシは、微笑んだ。
「ありがとうございます」
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しかし、タイシは気づいていた。
法律だけでは、心は変わらない。
差別意識は、根深い。
だから、タイシは決めた。
「私自身が、動く」
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翌日。
タイシは、ノーザン王国最大の獣人スラムを訪れた。
場所:首都の南部。
人口:5万人(全員獣人)。
タイシは、スラムの中を歩いた。
そこは、地獄だった。
泥だらけの道。
崩れかけた家々。
ゴミの山。
下水が、道に溢れている。
子供たちは、裸足で、汚れた服を着ている。
大人たちは、絶望した顔をしている。
タイシは、ある家の前で立ち止まった。
そこに、一人の獣人の少年が座っていた。
10歳くらい。
犬の耳と尾を持つ、犬獣人。
少年は、地面に何かを書いていた。
文字の練習をしているようだった。
タイシは、少年に話しかけた。
「こんにちは」
少年は、驚いて顔を上げた。
「…こんにちは」
タイシは、しゃがんだ。
「何をしているの?」
少年は、恥ずかしそうに答えた。
「文字の…練習です…」
「学校に…行けないから…」
「自分で…勉強してます…」
タイシは、尋ねた。
「なぜ、学校に行けないの?」
少年は、下を向いた。
「お金が…ないんです…」
「それに…」
「獣人は…学校に…入れてくれません…」
タイシは、心が痛んだ。
「君の名前は?」
「ケン…です…」
「ケン君」
「君は、何になりたい?」
ケンは、目を輝かせた。
「医者に…なりたいです!」
「病気の人を…助けたいです!」
タイシは、ケンの頭を撫でた。
「ケン君」
「君は、必ず医者になれる」
「私が、保証する」
ケンは、信じられないという顔をした。
「本当…ですか…?」
タイシは、頷いた。
「本当だ」
「今から、このスラムを変える」
「学校を作る」
「病院を作る」
「君たちが、人間として扱われる場所を作る」
タイシは、立ち上がった。
そして、スラムの中心に立った。
「アースコンストラクション・マッシブアーバンリニューアル!」
タイシの魔法が、発動した。
地面が、光り始めた。
そして、スラム全体が、変化し始めた。
泥だらけの道が、舗装された綺麗な道路になった。
崩れかけた家々が、取り壊された。
そして、その場所に、新しい住宅が建ち始めた。
2階建ての、清潔な家。
各戸に、上下水道が完備されている。
ゴミの山が、消えた。
下水道が、整備された。
そして、スラムの中心に、大きな建物が3つ出現した。
1つ目:学校。
2つ目:病院。
3つ目:コミュニティセンター。
全てが、わずか1時間で完成した。
獣人たちは、信じられないという顔で見ていた。
ある老人が、涙を流した。
「これは…夢か…?」
タイシは、答えた。
「夢ではありません」
「現実です」
「あなたたちは、今日から」
「人間として扱われます」
獣人たちは、一斉に泣き始めた。
そして、タイシに駆け寄ってきた。
「ありがとうございます!」
「神様!」
「救世主!」
タイシは、言った。
「私は、神でも救世主でもありません」
「ただの人間です」
「あなたたちと、同じです」
タイシは、ケンを見た。
「ケン君」
「明日から、学校に来てください」
「学費は、無料です」
「そして、いつか」
「医者になってください」
ケンは、涙を流しながら、頷いた。
「はい!」
「必ず…医者になります!」
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タイシは、1ヶ月かけて、ノーザン王国の10の獣人スラムを再開発した。
合計人口:20万人。
全てのスラムに、住宅、学校、病院、コミュニティセンターを建設した。
費用:10億金貨。
しかし、これは始まりに過ぎなかった。
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**【ノーザン王国・獣人差別撲滅プログラム・3ヶ月後の進捗】**
**法的整備:**
- 獣人差別禁止法:制定・施行
- 違反企業:50社摘発、罰金合計5,000万金貨
- 暴行事件:加害者200人逮捕
- 獣人権利委員会:設置完了
**経済支援:**
- 獣人居住区再開発:10カ所完了
- 新住宅:2万戸完成
- 学校:50校完成
- 病院:10カ所完成
- 職業訓練開始:受講者8万人
- 獣人雇用:5万人が新規就職
**成果:**
- 獣人の失業率:30%→20%(3ヶ月で10ポイント改善)
- 獣人の平均年収:150金貨→200金貨(33%向上)
- 獣人の子供就学率:50%→75%(25ポイント改善)
- 獣人への暴行事件:年間5,000件→500件(90%減少)
**国民の反応:**
- 支持:40%
- 反対:30%
- 中立:30%
**反対の理由:**
「獣人に金を使いすぎだ」
「人族を優先すべきだ」
「獣人は信用できない」
**しかし、変化も:**
- 獣人を雇用した企業:「予想以上に真面目だ」
- 獣人と交流した人族:「偏見が間違いだった」
- ケンのような優秀な獣人の子供が注目される
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その夜。
タイシは、妻のルナと話していた。
ルナは、涙を流していた。
「タイシ…」
「ありがとう…」
「あなたは、私の同族を救ってくれた…」
タイシは、ルナを抱きしめた。
「当然のことをしただけだよ」
「獣人も、人族も、エルフも、ドワーフも」
「みんな、同じ人間だ」
「差別される理由なんて、ない」
ルナは、タイシを見た。
「でも、まだ反対する人がいる」
「30%の人が、反対している」
タイシは、頷いた。
「ああ」
「でも、3ヶ月前は、90%が差別主義者だった」
「今は、30%まで減った」
「これは、進歩だ」
「時間はかかる」
「でも、必ず変わる」
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**【リベラ共和国・最新データ(19年後)】**
**総人口:1,950万人**
**経済:**
- GDP:111億金貨/年
**世界支援(直近1年):**
- 帝国緊急支援:8億金貨
- 帝国土地改革融資:50億金貨
- ノーザン獣人差別撲滅:10億金貨
- **合計:68億金貨**
**タイシの活動:**
- ノーザン王国で1ヶ月に10スラム再開発
- 20万人の獣人の生活環境を改善
- 8万人に職業訓練を提供
- 5万人の雇用を創出
**タイシの家族:**
- 年齢:41歳
- 妻:5人(人族、エルフ、獣人、ドワーフ、ダークエルフ)
- 子供:5人(8-12歳)
**次の課題:**
1. ノーザン獣人差別撲滅の継続(あと4年)
2. 魔族領への偏見解消
3. イースタン経済格差是正
**タイシの方針:**
「一つ一つ、確実に解決する」
「同時進行ではなく、集中して取り組む」
**ノーザン王国の変化:**
- 獣人差別:減少傾向
- 獣人の失業率:30%→20%
- 獣人の平均年収:150金貨→200金貨
- 獣人への暴行:90%減少
- しかし、まだ30%が差別主義
**目標:**
- 5年後、差別を90%削減
- 獣人の完全な社会統合
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