第二十章:最終選択
世界貧困撲滅条約の締結から、1週間後。
リベラ王宮の執務室。
タイシは、一人で窓の外を見ていた。
夜。
静かな夜だった。
しかし、タイシの心は、静かではなかった。
帝国の報告書が、机の上に置かれていた。
貧困率18%。
飢餓人口200万人。
汚職で消える支援金30%。
旧貴族による土地独占60%。
児童労働50万人。
人身売買年間5,000人。
タイシは、拳を握った。
「18年間、支援を続けてきた」
「年間9億金貨を投入してきた」
「これから10年、年間10億金貨を投入する予定だ」
「しかし…」
タイシは、呟いた。
「本当に、改善するのか?」
「汚職で30%が消える」
「貴族は土地改革に抵抗する」
「根本的な構造が変わらない限り…」
タイシは、ある考えが頭をよぎった。
恐ろしい考え。
しかし、合理的な考え。
「もし…」
「帝国を、滅ぼしたら?」
タイシは、自分の考えに驚いた。
「いや、何を考えているんだ」
「戦争は、もう終わったはずだ」
しかし、考えは消えなかった。
帝国を滅ぼし、リベラが直接統治する。
そうすれば、汚職はなくなる。
土地改革も、すぐに実行できる。
貧困も、数年で解消できる。
「だが…」
「それは、正しいのか?」
タイシは、決めた。
「相談しよう」
「信頼できる人たちに」
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翌日。
リベラ王宮の秘密会議室。
タイシは、数人の側近を集めていた。
国王。
リカルド(国防大臣)。
レイチェル(財務大臣)。
クリス(外務大臣)。
エドガー(情報省長官)。
そして、タイシの5人の妻。
エレノア、ルナ、グレタ、シャドウ、マリア。
合計11人。
タイシは、全員が着席したのを確認した。
「本日、皆様をお集めしたのは」
「極めて重要な、そして困難な問題について」
「相談があるからです」
国王が、真剣な表情で尋ねた。
「タイシ、何があった?」
タイシは、深呼吸した。
「単刀直入に言います」
「帝国を、滅ぼすべきではないでしょうか」
会議室が、静まり返った。
全員が、驚愕した。
リカルドが、声を上げた。
「タイシ様!」
「何を言っているのですか!」
「戦争は、18年前に終わったはずです!」
タイシは、冷静に答えた。
「分かっています」
「しかし、聞いてください」
タイシは、説明を始めた。
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**【帝国問題の現状】**
**リベラの支援額(18年間):**
- 過去:9億金貨/年×4年=36億金貨
- 今後予定:10億金貨/年×10年=100億金貨
- **合計:136億金貨**
**支援の効果:**
- 貧困率:28%→18%(10ポイント改善)
- しかし、まだ468万人が貧困
**支援金の行方:**
- 実際に貧困層に届く:70%
- 汚職で消える:30%
- 36億金貨×30%=**10億8,000万金貨が汚職で消えた**
**構造的問題:**
- 旧貴族が土地の60%を独占
- 土地改革への抵抗(貴族が皇帝に圧力)
- 世襲的な身分制度
- 腐敗した官僚機構
**タイシの試算:**
「もし、リベラが帝国を直接統治したら?」
**A案:現在の支援継続**
- 投資額:136億金貨(10年間)
- 汚職損失:40億8,000万金貨(30%)
- 実質投資:95億2,000万金貨
- 貧困解消期間:**20年**
- 最終貧困率:5%(構造問題で限界)
**B案:帝国を滅ぼし、直接統治**
- 戦争費用:10億金貨
- 復興・統治費用:50億金貨(5年間)
- 合計投資:60億金貨
- 汚職損失:0円(リベラ直接統治)
- 貧困解消期間:**5年**
- 最終貧困率:0.3%(リベラと同水準)
**比較:**
- A案:136億金貨、20年、貧困率5%
- B案:60億金貨、5年、貧困率0.3%
- **B案が圧倒的に効率的**
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タイシは、説明を終えた。
「つまり、数字だけで見れば」
「帝国を滅ぼして直接統治する方が」
「費用も安く、早く、効果的に貧困を解消できます」
会議室は、重苦しい沈黙に包まれた。
レイチェルが、静かに言った。
「タイシ様」
「数字は、確かにその通りです」
「しかし…」
レイチェルは、言葉を詰まらせた。
クリスが、続けた。
「しかし、それは正しいのでしょうか」
「確かに、効率的です」
「しかし、他国の主権を奪うことは」
「侵略ではないのでしょうか」
エドガーが、補足した。
「さらに、国際的な反発も予想されます」
「ノーザン、サウザン、イースタン、魔族領」
「全てが、リベラの膨張を警戒するでしょう」
「最悪の場合、新たな同盟が形成され」
「第二次大戦争になる可能性があります」
リカルドが、軍事的観点から言った。
「タイシ様の力なら、帝国を滅ぼすことは容易です」
「しかし、その後の統治が問題です」
「2,600万人の帝国民を統治するには」
「軍事力だけでは不十分です」
「反乱、テロ、ゲリラ戦」
「これらに、何年も苦しめられる可能性があります」
国王が、タイシを見た。
「タイシ」
「お前の気持ちは、分かる」
「468万人を救いたい」
「効率的に、確実に」
「その思いは、理解できる」
国王は、続けた。
「しかし、王として言わせてもらう」
「力による支配は、長続きしない」
「帝国民が、心から受け入れない限り」
「真の平和は訪れない」
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グレタが、立ち上がった。
「タイシ」
「私は、ドワーフだ」
「ドワーフは、実用主義だ」
「数字を重視する」
グレタは、タイシを見た。
「確かに、お前の計算は正しい」
「B案の方が、効率的だ」
「しかし…」
グレタは、拳を握った。
「私は、お前がそんな男だと思っていない」
「お前は、数字だけで判断する男じゃない」
「お前は、人の心を大切にする男だ」
エレノアが、優しく言った。
「タイシ」
「私は、エルフです」
「エルフは、長い時間を生きます」
「だから、分かります」
「急いで得たものは、すぐに失われます」
「時間をかけて育てたものだけが、永遠に続きます」
ルナが、言った。
「タイシ」
「獣人は、本能で生きる」
「私の本能が言ってる」
「それは、間違ってるって」
シャドウが、静かに言った。
「タイシ」
「ダークエルフは、差別されてきた」
「力で支配されてきた」
「だから、分かる」
「力による支配の苦しさを」
「帝国民に、同じ苦しみを与えないで」
マリアが、涙を流しながら言った。
「タイシ」
「私は、元海賊だった」
「お前に負けて、人生が変わった」
「お前は、私を支配しなかった」
「お前は、私に選択肢をくれた」
「帝国民にも、選択肢を与えてあげて」
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タイシは、5人の妻の言葉を聞いた。
そして、涙を流した。
「みんな…」
「ありがとう」
タイシは、立ち上がった。
「私は、間違っていた」
「数字に囚われていた」
「効率に囚われていた」
タイシは、全員を見回した。
「帝国を滅ぼすことは、しない」
「それは、私の理念に反する」
「私は、全ての人が幸せに暮らせる世界を作りたい」
「力で支配された世界ではない」
「自由で、平等で、みんなが幸せな世界だ」
タイシは、決意した。
「136億金貨かかっても、20年かかっても」
「正しい方法で、帝国を救う」
「汚職と戦う」
「貴族の土地独占と戦う」
「構造を変える」
「時間はかかる」
「でも、それが正しい道だ」
国王が、微笑んだ。
「タイシ」
「お前は、本当に立派になったな」
「18年前、お前は若かった」
「魔法は強かったが、心は未熟だった」
「しかし、今のお前は違う」
「真の指導者だ」
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**【タイシの新決断】**
**帝国改革の新アプローチ:**
**1. 段階的改革(20年計画)**
**第1段階(1-5年):意識改革**
- 教育の普及(識字率80%へ)
- 民主主義の啓蒙
- 人権意識の向上
- リベラからティーチャーゴーレム1,000体派遣
**第2段階(6-10年):制度改革**
- 土地改革の準備
- 貴族との対話
- 段階的な土地再分配
- 補償金の支給(リベラが融資)
**第3段階(11-15年):経済改革**
- 産業育成
- インフラ整備
- 雇用創出
- 中産階級の形成
**第4段階(16-20年):完成**
- 貧困率1%以下達成
- 民主的な政治体制確立
- 自立した経済
**総投資額:200億金貨(20年間)**
- 年間10億金貨
**リベラの関与:**
- 資金援助
- 技術支援
- 教育支援
- 監査・監視
- **ただし、主権は尊重**
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1週間後。
タイシは、再び帝国皇帝と会談していた。
今度は、違うアプローチだった。
タイシは、正直に話した。
「皇帝陛下」
「実は、1週間前」
「私は、帝国を滅ぼすことを考えました」
帝国皇帝は、驚愕した。
「何ですと!?」
タイシは、続けた。
「数字だけで見れば、その方が効率的でした」
「60億金貨で、5年で貧困を解消できました」
「しかし…」
タイシは、真剣な目で皇帝を見た。
「私は、それをしません」
「なぜなら、それは正しくないからです」
「力で支配された平和は、真の平和ではありません」
タイシは、手を差し出した。
「皇帝陛下」
「私は、あなたを信じます」
「帝国民を信じます」
「20年かかっても、正しい方法で改革しましょう」
「リベラは、全力で支援します」
「ただし、条件があります」
帝国皇帝は、尋ねた。
「条件とは?」
タイシは、答えた。
「本気で、改革してください」
「汚職と戦ってください」
「貴族と対決してください」
「それができるなら、リベラは200億金貨を投資します」
「あなたの改革を、全力で支援します」
帝国皇帝は、涙を流した。
「タイシ様…」
「あなたは、私を滅ぼすこともできた」
「しかし、あなたは私を信じてくれた」
皇帝は、立ち上がった。
「分かりました」
「本気で、改革します」
「貴族と対決します」
「たとえ命を狙われても」
「帝国を、変えます」
二人は、握手した。
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その夜。
タイシは、家族と夕食を取っていた。
5人の妻と、5人の子供。
賑やかな食卓だった。
娘のマリナが、尋ねた。
「パパ、帝国の人たち、幸せになるの?」
タイシは、頷いた。
「ああ」
「時間はかかるけど、必ず幸せになる」
息子のレオが、言った。
「でも、20年もかかるんでしょ?」
「もっと早くできないの?」
タイシは、微笑んだ。
「早くする方法もあったよ」
「でも、それは正しくなかった」
「正しい道は、時に遠回りだ」
「でも、それが一番確実なんだ」
娘のエリアが、言った。
「パパ、かっこいい!」
グレイスが、言った。
「私も、パパみたいになりたい!」
シェイドが、静かに言った。
「パパ、尊敬する」
タイシは、子供たちを見た。
そして、思った。
「この子たちが大人になる頃には」
「世界は、もっと良くなっている」
「貧困も、差別も、戦争もない」
「そんな世界を、残してあげたい」
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**【リベラ共和国・最新データ(18年後)】**
**総人口:1,950万人**
**経済:**
- GDP:111億金貨/年
- 一人当たりGDP:569金貨/年
**タイシの決断:**
- 帝国侵攻案を却下
- 正しい方法での改革を選択
- 20年間、200億金貨の支援を決定
**理由:**
「数字よりも、人の心を大切にする」
「力による支配は、真の平和ではない」
「時間がかかっても、正しい道を進む」
**タイシの家族:**
- 年齢:40歳
- 妻:5人
- 子供:5人(7-11歳)
**タイシの成長:**
- 18年前:若く、魔法は強いが心は未熟
- 現在:真の指導者、効率よりも正義を選ぶ
- 国王「お前は、本当に立派になったな」
**タイシの理念:**
「全ての人が幸せに暮らせる世界」
「自由で、平等で、みんなが幸せな世界」
「それを、正しい方法で実現する」
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**【本章の教訓】**
**効率 vs 正義**
- 効率的な方法(60億金貨、5年)
- 正しい方法(200億金貨、20年)
- タイシは正しい方法を選んだ
**力 vs 信頼**
- 力で支配することは容易
- しかし、真の平和は信頼から生まれる
- タイシは信頼を選んだ
**短期 vs 長期**
- 短期的には侵攻が効率的
- 長期的には対話が確実
- タイシは長期を選んだ
**数字 vs 人間性**
- 数字は侵攻を推奨
- 人間性は対話を推奨
- タイシは人間性を選んだ
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