第十九章:残された課題
戦争終結から、18年後。
リベラ王宮の情報省。
タイシは、エドガー情報省長官と共に、世界各国の最新調査報告を検討していた。
18年間で、世界は大きく変わった。
奴隷制度は完全に廃止された。
リベラの支援により、各国の経済は成長した。
しかし、まだ多くの問題が残っていた。
エドガーが、分厚い報告書を開いた。
「タイシ様」
「3年かけた世界詳細調査が、完了しました」
「全ての国の、全ての地域を調査しました」
タイシは、頷いた。
「ご苦労様、エドガー」
「結果は?」
エドガーは、真剣な表情になった。
「改善は、確実に進んでいます」
「しかし、まだ深刻な問題が残っています」
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**【世界詳細調査報告(戦争終結18年後)】**
**調査期間:3年間**
**調査対象:全6カ国、総人口8,600万人**
**調査項目:**
1. 貧困率
2. 識字率
3. 医療アクセス
4. 食料安全保障
5. 犯罪率
6. 差別・偏見
7. インフラ整備
8. 教育水準
9. 労働環境
10. 社会保障
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## 【1. リベラ共和国】
**総人口:1,950万人**
**貧困率:0.3%(6万人)**
- 18年前:0.5%
- 改善:40%減少
**貧困の内訳:**
- 高齢者(80歳以上):2万人(33%)
- 重度障害者:2万人(33%)
- 孤児:1万人(17%)
- その他:1万人(17%)
**対策状況:**
- 高齢者:年金月額100金貨支給
- 障害者:障害年金月額150金貨支給
- 孤児:国立養護施設で全面支援
- 生活保護:月額80金貨支給
**残存問題:**
- 社会的孤立(一人暮らし高齢者10万人)
- 精神疾患(うつ病患者5万人)
- 引きこもり(若年層1万人)
**識字率:99.5%**
- 未識字者:約1万人(高齢者中心)
**医療アクセス:100%**
- 全国民が無料医療を受けられる
- 平均寿命:80歳(18年前:78歳)
**犯罪率:2件/1,000人**
- 18年前:3件/1,000人
- 改善:33%減少
- 殺人事件:年間10件(人口比0.0005%)
- 窃盗:年間3万件
- 暴行:年間5,000件
**社会問題:**
- 離婚率:15%(18年前:8%)
- 自殺率:10人/10万人
- アルコール依存:2万人
- ギャンブル依存:1万人
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## 【2. グランディア帝国】
**総人口:2,600万人**
**貧困率:18%(468万人)**
- 18年前:28%
- 改善:36%減少
- しかし、まだ世界最悪
**貧困の原因:**
- 産業構造の遅れ(農業70%)
- 教育水準の低さ
- 旧貴族による土地独占(上位1%が国土の60%を所有)
- 汚職・腐敗(政府高官の30%が汚職関与)
**飢餓人口:200万人(8%)**
- 18年前:700万人(28%)
- 改善:71%減少
**識字率:58%**
- 18年前:45%
- 改善:13ポイント上昇
- 未識字者:1,092万人
**医療アクセス:45%**
- 医師数:2,600人(人口1万人あたり1人)
- 病院数:260カ所
- 農村部の70%が医療施設なし
**平均寿命:65歳**
- 18年前:60歳
- リベラとの差:15歳
**犯罪率:25件/1,000人**
- リベラの12.5倍
- 殺人事件:年間5,000件
- 窃盗:年間50万件
- 汚職:蔓延
**社会問題:**
- 児童労働:50万人(18歳未満)
- 人身売買:年間5,000人(違法だが根絶できず)
- 家庭内暴力:100万世帯
- 麻薬中毒:10万人
**インフラ:**
- 舗装道路:20%
- 上下水道普及率:30%
- 電力普及率:40%
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## 【3. ノーザン王国】
**総人口:850万人**
**貧困率:12%(102万人)**
- 18年前:25%
- 改善:52%減少
**貧困の原因:**
- 寒冷気候による農業の困難
- 産業の未発達
- 教育機会の不足(農村部)
**識字率:72%**
- 18年前:60%
- 改善:12ポイント上昇
**医療アクセス:60%**
- 都市部:90%
- 農村部:30%
**平均寿命:68歳**
**犯罪率:15件/1,000人**
- 主に窃盗と暴行
- 殺人事件:年間500件
**社会問題:**
- 人種差別(獣人族への差別)
- アルコール依存:5万人(寒冷地特有)
- 家庭内暴力:10万世帯
**インフラ:**
- 舗装道路:40%
- 上下水道普及率:50%
- 電力普及率:60%
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## 【4. サウザン連邦】
**総人口:1,300万人**
**貧困率:5%(65万人)**
- 18年前:10%
- 改善:50%減少
**貧困の原因:**
- 地域格差(都市部と農村部)
- 高齢化(エルフは長寿)
**識字率:92%**
- 18年前:85%
- 改善:7ポイント上昇
**医療アクセス:85%**
- 都市部:100%
- 農村部:70%
**平均寿命:125歳(エルフの長寿)**
**犯罪率:5件/1,000人**
- 非暴力犯罪が中心
**社会問題:**
- 世代間格差(若年層と高齢層の対立)
- 環境破壊(森林伐採)
- 過疎化(農村部の人口減少)
**インフラ:**
- 舗装道路:70%
- 上下水道普及率:80%
- 電力普及率:90%
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## 【5. イースタン商業同盟】
**総人口:1,600万人**
**貧困率:10%(160万人)**
- 18年前:20%
- 改善:50%減少
**貧困の原因:**
- 経済格差(富裕層と貧困層の二極化)
- 失業(自動化による)
- 債務問題
**識字率:85%**
- 18年前:70%
- 改善:15ポイント上昇
**医療アクセス:70%**
- 都市部:95%
- 農村部:45%
**平均寿命:72歳**
**犯罪率:12件/1,000人**
- 経済犯罪が多い(詐欺、横領)
**社会問題:**
- 経済格差(ジニ係数0.45)
- 労働環境の悪化(長時間労働)
- ギャンブル依存:8万人
- 債務奴隷的労働(違法だが存在)
**インフラ:**
- 舗装道路:80%
- 上下水道普及率:75%
- 電力普及率:85%
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## 【6. 魔族領】
**総人口:650万人**
**貧困率:15%(98万人)**
- 18年前:30%
- 改善:50%減少
**貧困の原因:**
- 農業技術の遅れ
- 他国からの差別による貿易の困難
- 教育機会の不足
**識字率:85%**
- 18年前:80%
- 改善:5ポイント上昇
**医療アクセス:55%**
- 都市部:80%
- 農村部:30%
**平均寿命:92歳(魔族の長寿)**
**犯罪率:8件/1,000人**
**社会問題:**
- 人種差別(他国からの偏見)
- 内部対立(魔族とダークエルフ、オークなど)
- 若年層の流出(他国への移住)
**インフラ:**
- 舗装道路:50%
- 上下水道普及率:45%
- 電力普及率:55%
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## 【世界全体の統計(18年後)】
**総人口:8,600万人**
- 18年前:8,400万人
- 増加:200万人(2.4%増)
**平均貧困率:10.2%(878万人)**
- 18年前:21.8%(1,831万人)
- 改善:53%減少
**貧困率の内訳:**
- リベラ:0.3%
- サウザン:5%
- イースタン:10%
- ノーザン:12%
- 魔族領:15%
- **帝国:18%**(最悪)
**平均識字率:78%**
- 18年前:73%
- 改善:5ポイント上昇
**世界GDP:166億金貨**
- 18年前:157億金貨
- 増加:9億金貨(6%増)
**GDP内訳:**
- リベラ:108億金貨(65%)
- イースタン:20億金貨(12%)
- サウザン:15億金貨(9%)
- 帝国:10億金貨(6%)
- ノーザン:8億金貨(5%)
- 魔族領:5億金貨(3%)
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タイシは、報告書を読み終えた。
そして、深いため息をついた。
「エドガー」
「18年間、支援を続けてきた」
「年間9億金貨を投入してきた」
「しかし、まだ878万人が貧困に苦しんでいる」
エドガーは、頷いた。
「はい」
「特に、帝国の468万人が深刻です」
「貧困率18%は、世界最悪です」
タイシは、拳を握った。
「なぜ、改善が遅いんだ?」
エドガーは、説明した。
「いくつか理由があります」
**【帝国の貧困が解消されない理由】**
**1. 構造的問題:**
- 旧貴族が土地の60%を独占
- 農民は小作農として搾取される
- 土地改革が進まない(貴族の抵抗)
**2. 汚職・腐敗:**
- リベラの支援金の30%が汚職で消える
- 政府高官が私腹を肥やす
- 賄賂が横行
**3. 教育の遅れ:**
- 識字率58%では、技術習得が困難
- 世代を超えた貧困の連鎖
**4. インフラの未整備:**
- 農村部の70%が孤立
- 物流が機能しない
- 市場へのアクセスなし
**5. 文化的要因:**
- 「貧困は運命」という諦め
- 変化への抵抗
- 旧来の身分制度の残存
タイシは、考え込んだ。
「つまり、お金だけでは解決できない」
「構造を変えなければならない」
エドガーは、頷いた。
「その通りです」
「特に、土地改革が必要です」
「しかし、これは帝国の内政問題です」
「リベラが直接介入することは困難です」
タイシは、立ち上がった。
「いや、方法はある」
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**【タイシの新戦略】**
**1. 土地改革支援プログラム**
- 帝国政府に条件付き融資
- 条件:土地改革の実施
- 貴族から土地を買い上げ、農民に分配
- リベラが買い上げ資金を融資(無利子)
**2. 汚職撲滅プログラム**
- リベラの監査チームを派遣
- 支援金の使途を完全追跡
- 汚職発覚時は支援停止
**3. 教育改革プログラム**
- 識字率を10年で80%に
- ティーチャーゴーレム1,000体派遣
- 学校建設:1,000校
- 教師育成:1万人
**4. インフラ整備プログラム**
- 道路建設:1万km
- 上下水道整備:主要都市100カ所
- 電力網整備:全国カバー
**5. 産業育成プログラム**
- 農業技術指導
- ゴーレム農機の無償提供:1万台
- 中小企業支援:融資枠10億金貨
**必要予算:年間20億金貨×10年=200億金貨**
**資金源:**
- リベラ鉱山収益:年間23億金貨
- うち20億金貨を投入
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1週間後。
リベラ王宮の大広間。
タイシは、世界各国の首脳を招集していた。
帝国皇帝、ノーザン国王、サウザン連邦議長、イースタン商業同盟代表、魔王ゼノビア。
タイシは、壇上に立った。
「本日、皆様をお招きしたのは」
「世界の貧困を、10年以内に完全に解消するためです」
各国首脳が、驚いた。
帝国皇帝が、尋ねた。
「タイシ様」
「完全に解消とは?」
タイシは、答えた。
「貧困率を、全ての国で1%以下にします」
「そのために、リベラは今後10年間」
「年間20億金貨、合計200億金貨を投入します」
会場がざわめいた。
ノーザン国王が、言った。
「200億金貨!?」
「それは、リベラのGDP 2年分です!」
タイシは、頷いた。
「はい」
「しかし、これは投資です」
「世界から貧困がなくなれば」
「消費が増え、経済が成長します」
「結果的に、リベラにも利益が返ってきます」
サウザン連邦議長が、尋ねた。
「具体的には、どのような支援を?」
タイシは、5つのプログラムを説明した。
そして、最後に言った。
「ただし、条件があります」
帝国皇帝が、緊張した。
「条件とは?」
タイシは、真剣な表情で答えた。
「土地改革を実施してください」
「貴族が独占している土地を、農民に分配してください」
「汚職を撲滅してください」
「これらを実施しない国には、支援を行いません」
帝国皇帝は、黙り込んだ。
土地改革は、貴族の猛反発を招く。
しかし、200億金貨の支援は魅力的だ。
帝国皇帝は、決断した。
「分かりました」
「土地改革を実施します」
「貴族には、私が説得します」
タイシは、微笑んだ。
「ありがとうございます」
「では、契約書に署名をお願いします」
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**【世界貧困撲滅条約】**
**目標:**
- 10年以内に、全ての国の貧困率を1%以下に
**リベラの支援:**
- 年間20億金貨×10年=200億金貨
- 内訳:
- 帝国:10億金貨/年
- ノーザン:4億金貨/年
- 魔族領:3億金貨/年
- イースタン:2億金貨/年
- サウザン:1億金貨/年
**各国の義務:**
- 土地改革の実施(帝国、ノーザン)
- 汚職撲滅(全ての国)
- 教育改革の実施(全ての国)
- インフラ整備への協力(全ての国)
- 進捗報告(年4回)
**監視体制:**
- リベラ監査チーム派遣
- 四半期ごとに進捗確認
- 未達成国は支援減額
**署名国:**
- リベラ共和国
- グランディア帝国
- ノーザン王国
- サウザン連邦
- イースタン商業同盟
- 魔族領
**署名日:戦争終結18年後**
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その夜。
タイシは、王宮のバルコニーに立っていた。
5人の妻が、タイシの周りに集まっていた。
エレノア、ルナ、グレタ、シャドウ、マリア。
そして、5人の子供たちも。
エリア(10歳、人族×エルフ)
レオ(9歳、人族×獣人)
グレイス(8歳、人族×ドワーフ)
シェイド(7歳、人族×ダークエルフ)
マリナ(11歳、人族)
マリアが、タイシに尋ねた。
「タイシ」
「200億金貨って、すごい金額だよね」
「本当に、大丈夫なの?」
タイシは、微笑んだ。
「大丈夫だよ」
「リベラの鉱山収益は、年間23億金貨」
「20億を支援に使っても、3億残る」
「それに、農業、工業、商業の収益もある」
グレタが、言った。
「でも、10年間も支援を続けるのは、大変だぞ」
タイシは、頷いた。
「ああ」
「でも、やらなければならない」
「878万人が、貧困に苦しんでいる」
「私には、彼らを救う力がある」
「だから、救わなければならない」
娘のマリナが、タイシを見上げた。
「パパ」
「世界から、貧しい人がいなくなるの?」
タイシは、マリナの頭を撫でた。
「ああ」
「10年後には、きっとなくなる」
「みんなが、幸せに暮らせる世界になる」
マリナは、笑顔になった。
「すごい!」
「パパ、がんばって!」
タイシは、家族を見回した。
そして、決意した。
「必ず、実現する」
「世界から貧困を、完全に無くす」
「それが、私の使命だ」
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**【リベラ共和国・最新データ(18年後)】**
**総人口:1,950万人**
**経済:**
- GDP:111億金貨/年(前年比3%増)
- 農業:21億金貨
- 工業:36億金貨
- 商業:31億金貨
- 鉱業:23億金貨
**世界支援:**
- 過去支援額:9億金貨/年×4年=36億金貨
- 今後支援額:20億金貨/年×10年=200億金貨
- 合計支援額:236億金貨
**タイシの家族:**
- 年齢:40歳(戦争時22歳→18年後)
- 妻:5人
- 子供:5人(7~11歳)
**タイシの功績(18年間):**
- 人口:500万→1,950万人(3.9倍)
- GDP:5億→111億金貨(22.2倍)
- 1,000万人の奴隷を解放
- 世界の貧困率:21.8%→10.2%(53%削減)
- 次の目標:貧困率1%以下
**世界への影響:**
- 世界GDP:166億金貨
- うちリベラ:111億金貨(67%)
- リベラが世界経済の3分の2を占める
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