第十章:帝国の実態
和平条約締結から、1週間後。
リベラ王宮の情報省。
タイシは、大量の資料に囲まれていた。
帝国からの使者マルクスが持ち込んだ、帝国の詳細データ。
和平条約の一環として、両国は情報を共有することになっていた。
タイシは、資料を読み進めていた。
そして、その内容に、顔を曇らせた。
「これは…」
「ひどい」
情報省長官のリカルドが、隣に座っていた。
「タイシ様」
「帝国の状況は、我々が思っていたよりも遥かに深刻です」
タイシは、資料をまとめ始めた。
「リカルド」
「この情報を、報告書にまとめてください」
「国王陛下と、同盟国の指導者たちに提出します」
リカルドは、頷いた。
「承知しました」
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3時間後。
王宮の会議室。
タイシ、国王、宰相、そして同盟国の代表たちが集まっていた。
魔法通信で、エドワード3世、フィリップ・サウス、ヴィクター・グレイが参加していた。
ゼノビアも、参加していた。
タイシは、報告書を配布した。
「皆様」
「帝国の最新情報を入手しました」
「これから、その内容を報告します」
「率直に言って、帝国の状況は極めて深刻です」
全員が、緊張した。
タイシは、報告を始めた。
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**【グランディア帝国・基礎データ】**
**人口統計:**
- 総人口:3,000万人
- 首都圏:800万人(26.7%)
- 地方都市:1,200万人(40%)
- 農村部:1,000万人(33.3%)
**年齢構成:**
- 0-14歳:450万人(15%)
- 1564歳:2,100万人(70%)
- 65歳以上:450万人(15%)
**職業構成:**
- 貴族・支配層:30万人(1%)
- 軍人:50万人(1.7%)
- 商人・職人:300万人(10%)
- 農民:1,800万人(60%)
- 奴隷:720万人(24%)
- その他:100万人(3.3%)
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タイシは、一度言葉を切った。
全員が、驚愕していた。
エドワード3世が、言った。
「奴隷が、720万人!?」
「人口の4分の1が奴隷だと!?」
タイシは、頷いた。
「はい」
「帝国は、奴隷制度に深く依存しています」
タイシは、続けた。
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**【奴隷制度の実態】**
**奴隷の分類:**
- 戦争捕虜:200万人(27.8%)
- 過去の戦争で捕らえられた敵国民
- 債務奴隷:350万人(48.6%)
- 借金が返せず奴隷化された帝国民
- 犯罪奴隷:100万人(13.9%)
- 犯罪者とその家族
- 生まれつき奴隷:70万人(9.7%)
- 奴隷の子供として生まれた者
**奴隷の労働内容:**
- 農業労働:400万人(55.6%)
- 鉱山労働:150万人(20.8%)
- 建設労働:80万人(11.1%)
- 家事労働:50万人(6.9%)
- その他:40万人(5.6%)
**奴隷の平均寿命:**
- 農業奴隷:45歳
- 鉱山奴隷:35歳
- 建設奴隷:40歳
- 家事奴隷:50歳
- 全体平均:42歳(自由民の平均65歳に比べ23歳短い)
**奴隷の待遇:**
- 1日の労働時間:平均14時間
- 休日:月1日
- 食事:1日2食(粗末なパンと水)
- 住居:共同の納屋(1人当たり2平方メートル)
- 医療:ほぼ無し
- 教育:完全に禁止
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ゼノビアが、怒りを露わにした。
「これは、ひどい」
「人間を、まるで家畜のように扱っている」
フィリップ・サウスも、言った。
「債務奴隷が350万人」
「つまり、借金で奴隷になった人が、それだけいる」
「帝国の経済は、どうなっているんだ?」
タイシは、次のページを開いた。
「それについても、データがあります」
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**【経済状況】**
**GDP(国内総生産):**
- 総額:1億2,000万金貨/年
- 一人当たりGDP:4金貨/年(リベラの10分の1)
**産業構成:**
- 農業:60%(7,200万金貨)
- 工業:20%(2,400万金貨)
- 商業:15%(1,800万金貨)
- その他:5%(600万金貨)
**貧困率:**
- 絶対的貧困層(1日1食以下):1,200万人(40%)
- 相対的貧困層(1日2食):900万人(30%)
- 普通の生活(1日3食):600万人(20%)
- 裕福な生活:270万人(9%)
- 富裕層:30万人(1%)
**貧困層の内訳:**
- 農村部の農民:800万人
- 都市部の日雇い労働者:400万人
- 奴隷:720万人(全員が貧困層)
- その他:180万人
**失業率:**
- 全体:25%(750万人)
- 都市部:30%
- 農村部:20%
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ヴィクター・グレイが、言った。
「失業率25%!?」
「4人に1人が、仕事がない!?」
タイシは、頷いた。
「はい」
「しかも、働いている人の多くも、十分な収入を得られていません」
国王が、尋ねた。
「食料は、足りているのか?」
タイシは、次のページを開いた。
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**【食料事情】**
**食料生産量:**
- 穀物生産:年間900万トン
- 必要量:年間1,200万トン
- 不足量:年間300万トン(25%不足)
**食料充足率:**
- 富裕層(1%):200%(食べきれないほど)
- 普通の生活層(20%):100%(十分)
- 相対的貧困層(30%):70%(不足)
- 絶対的貧困層(40%):50%(慢性的飢餓)
- 奴隷(24%):40%(餓死寸前)
**飢餓状況:**
- 慢性的飢餓人口:1,200万人(40%)
- 栄養失調人口:1,800万人(60%)
- 年間餓死者:約10万人
**食料不足の原因:**
1. 生産性の低さ(リベラの3分の1)
2. 貴族による食料の独占
3. 軍への優先配給
4. インフラの未整備(腐敗・損失が多い)
5. 農民の搾取(生産物の80%が地主に取られる)
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全員が、沈黙した。
あまりの悲惨さに、言葉が出なかった。
タイシは、さらに続けた。
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**【治安状況】**
**犯罪率:**
- 年間犯罪件数:150万件
- 人口1,000人当たり:50件(リベラの10倍)
**犯罪の種類:**
- 窃盗:80万件(53.3%)
- 強盗:30万件(20%)
- 暴行:20万件(13.3%)
- 殺人:5万件(3.3%)
- その他:15万件(10%)
**犯罪の原因:**
1. 貧困(90%の犯罪が貧困に起因)
2. 失業
3. 食料不足
4. 社会的不満
5. 警察力の不足
**刑罰制度:**
- 軽犯罪:鞭打ち刑
- 窃盗:手の切断
- 強盗:両手の切断
- 殺人:死刑
- 政治犯:一族全員を奴隷化
**投獄者数:**
- 囚人総数:50万人(人口の1.7%)
- 刑務所の収容率:200%(定員の2倍)
- 囚人の年間死亡率:15%
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**【軍事力】**
**軍隊の構成:**
- 正規軍:50万人
- 歩兵:35万人(70%)
- 騎兵:10万人(20%)
- 魔導師:5万人(10%)
- 予備役:50万人
- 総動員可能兵力:100万人
**軍の待遇:**
- 兵士の給料:年間20金貨(一般労働者の2倍)
- 食料配給:1日3食保証
- 住居:兵舎
- 医療:軍医による治療
- 年金:退役後、月1金貨
**軍への志願理由:**
- 食料が確保できる:60%
- 給料が良い:25%
- 社会的地位:10%
- その他:5%
**軍事費:**
- 年間軍事費:4,800万金貨
- 国家予算の40%
- 一人当たり:96金貨/年
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タイシは、資料を置いた。
「以上が、帝国の実態です」
「まとめると」
タイシは、黒板に書き始めた。
**【帝国の問題点まとめ】**
1. **奴隷制度**
- 人口の24%(720万人)が奴隷
- 非人道的な扱い
- 平均寿命42歳
2. **貧困**
- 貧困率70%(2,100万人)
- 失業率25%
- 1日1食以下が40%
3. **食料不足**
- 必要量の25%不足
- 年間10万人が餓死
- 飢餓人口1,200万人
4. **治安悪化**
- 犯罪率がリベラの10倍
- 囚人50万人
- 刑罰が極めて残酷
5. **軍事優先**
- 国家予算の40%が軍事費
- 軍隊が唯一のまともな就職先
- 国民生活は二の次
6. **格差**
- 上位1%が富の60%を独占
- 下位70%が富の10%しか持たない
- 社会階層が完全に固定
エドワード3世が、言った。
「これは…」
「国家というより、地獄だ」
フィリップも、頷いた。
「貧困率70%」
「飢餓人口1,200万人」
「これでは、国民が生きていけない」
ゼノビアが、言った。
「なぜ、革命が起きないのですか?」
「これだけひどい状況なら、民衆が蜂起してもおかしくない」
タイシは、答えた。
「それについても、データがあります」
タイシは、次のページを開いた。
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**【帝国の支配体制】**
**秘密警察:**
- 人数:10万人
- 予算:年間1,000万金貨
- 役割:反政府活動の監視・弾圧
**密告制度:**
- 密告者への報奨金:1件10金貨
- 年間密告件数:50万件
- 密告による逮捕者:年間20万人
**弾圧の実態:**
- 反政府発言:即逮捕
- 集会の禁止:3人以上の集まりは要許可
- 言論統制:書籍、新聞は全て検閲
- 移動制限:農民は村から出ることを禁止
**見せしめ処刑:**
- 年間公開処刑数:1万件
- 目的:民衆への恐怖の植え付け
- 処刑方法:絞首刑、斬首刑、火刑
**洗脳教育:**
- 「皇帝は神の化身」と教える
- 批判的思考の禁止
- 読み書きは支配層のみ
- 識字率:15%(リベラは95%)
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タイシは、資料を閉じた。
「これが、帝国の実態です」
「奴隷制度、貧困、飢餓、弾圧」
「全てが、民衆を苦しめています」
宰相が、言った。
「タイシ」
「これを知って、どうするつもりだ?」
タイシは、真剣な表情で答えた。
「国王陛下」
「皆様」
「私は、提案があります」
全員が、タイシを見た。
タイシは、言った。
「帝国の民衆を、救いたい」
「和平条約は結びましたが」
「それだけでは、帝国の民衆は救われません」
「私たちは、帝国に改革を促すべきです」
エドワード3世が、尋ねた。
「どのように?」
タイシは、答えた。
「まず、貿易です」
「帝国に食料を輸出します」
「そして、技術を提供します」
「農業の生産性を上げる技術を」
「次に、奴隷制度の廃止を要求します」
「これは、貿易の条件とします」
「奴隷を解放しなければ、貿易を停止する」
フィリップが、言った。
「しかし、それは内政干渉では?」
タイシは、首を横に振った。
「いいえ」
「奴隷制度は、人道に反する制度です」
「私たちは、人道的な観点から、廃止を求めます」
「それに」
タイシは、続けた。
「帝国が奴隷制度を続ける限り」
「いつか、また戦争が起こります」
「抑圧された民衆は、いつか爆発します」
「そして、その矛先が我々に向かう可能性もあります」
「帝国を安定させることは、我々の安全保障でもあります」
国王が、頷いた。
「なるほど」
「確かに、その通りだ」
ゼノビアが、言った。
「タイシ」
「あなたは、優しいですね」
「敵国の民衆まで、救おうとしている」
タイシは、微笑んだ。
「ゼノビア様」
「私は、全ての人が幸せになれる世界を作りたい」
「それが、私の夢です」
「敵も味方もありません」
「全ての人が、平和に暮らせる世界」
「それを、実現したいんです」
全員が、タイシの言葉に感動した。
エドワード3世が、言った。
「タイシ殿」
「あなたの提案に、賛成します」
「ノーザン王国も、協力します」
フィリップも、言った。
「サウザン連邦も、賛成です」
ヴィクター・グレイも。
「イースタン商業同盟も、協力します」
ゼノビアも。
「魔族領も、支援します」
国王が、立ち上がった。
「では、決定だ」
「リベラ共和国および同盟国は」
「グランディア帝国の改革を支援する」
「奴隷制度の廃止」
「貧困の解消」
「食料不足の解決」
「そして、民主化」
「これらを、実現させる」
タイシは、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「皆様の協力に、感謝します」
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**【グランディア帝国・完全データ】**
**人口:3,000万人**
- 貴族・支配層:30万人(1%)
- 自由民:2,250万人(75%)
- 奴隷:720万人(24%)
**経済:**
- GDP:1億2,000万金貨/年
- 一人当たりGDP:4金貨/年
- 貧困率:70%(2,100万人)
- 失業率:25%(750万人)
**食料:**
- 生産量:900万トン/年
- 必要量:1,200万トン/年
- 不足率:25%
- 餓死者:10万人/年
**治安:**
- 犯罪件数:150万件/年
- 犯罪率:50件/1,000人
- 囚人数:50万人(1.7%)
**軍事:**
- 正規軍:50万人
- 予備役:50万人
- 軍事費:4,800万金貨/年(国家予算の40%)
**奴隷制度:**
- 奴隷数:720万人(24%)
- 平均寿命:42歳
- 労働時間:14時間/日
- 休日:月1日
**支配体制:**
- 秘密警察:10万人
- 密告件数:50万件/年
- 公開処刑:1万件/年
- 識字率:15%
**主な問題:**
1. 奴隷制度(720万人)
2. 極度の貧困(70%)
3. 食料不足(25%)
4. 高犯罪率(リベラの10倍)
5. 弾圧体制(秘密警察10万人)
6. 格差(上位1%が富の60%独占)
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