第三章:海を渡る交渉
サウザン連邦との同盟締結から、3日後。
タイシの使節団は、再びリベラ王都に戻っていた。
補給と休息のため、3日間の滞在が予定されていた。
王宮の執務室。
タイシは、国王と宰相に報告していた。
「陛下、宰相」
「ノーザン王国、サウザン連邦」
「両国との同盟締結に成功しました」
国王は、喜んだ。
「素晴らしい!」
「タイシ、よくやった!」
宰相も、満足そうに頷いた。
「これで、同盟軍の総兵力は」
「60万人を超えました」
「帝国の50万人を、上回ります」
タイシは、地図を広げた。
「次は、イースタン商業同盟です」
「ただし」
タイシは、地図の東側を指した。
「イースタン商業同盟は、海の向こうです」
「リベラ王都から、海路で600キロメートル」
国王が、尋ねた。
「船は?」
「リベラには、大型船がないはずだが」
タイシは、微笑んだ。
「ゴーレム船を作ります」
全員が、驚いた。
「ゴーレム船!?」
タイシは、説明した。
「はい」
「船体は木製ですが、推進力はゴーレムの魔力です」
「風に頼らず、一定速度で進めます」
「そして、戦闘ゴーレムを搭載すれば」
「海賊にも対抗できます」
宰相が、尋ねた。
「建造には、どれくらいかかる?」
タイシは、答えた。
「1週間です」
「すでに、設計は完了しています」
「建設ゴーレム100体を投入すれば」
「5隻のゴーレム船を建造できます」
国王が、驚いた。
「1週間で5隻!?」
「信じられない速度だな」
タイシは、頷いた。
「ゴーレムは、休まず働きますから」
国王が、決断した。
「よし、すぐに建造を始めろ」
「予算は、いくらでも出す」
タイシは、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
---
1週間後。
リベラ王都の港。
5隻のゴーレム船が、完成していた。
全長50メートル。
幅10メートル。
3層構造の、大型船だった。
各船には、10体の戦闘ゴーレムが搭載されている。
そして、推進用のゴーレム・エンジンが船尾に設置されていた。
タイシは、船を見上げた。
*見事だ*
*わずか1週間で、これほどの船を*
*ゴーレム技術の力だ*
エドガーが、タイシに近づいた。
「タイシ様」
「準備が整いました」
「使節団全員、乗船できます」
タイシは、頷いた。
「分かりました」
「では、出発しましょう」
---
その日の午後。
5隻のゴーレム船団は、リベラの港を出発した。
各船には、6名の使節団メンバーが乗っている。
合計30名。
第二章と同じメンバーだった。
タイシは、旗艦の船首に立っていた。
風が、タイシの髪を揺らした。
青い海。
白い波。
タイシは、日本での記憶を思い出していた。
*太平洋*
*あの広大な海を、何度も眺めたな*
*まさか、異世界でも海を渡ることになるとは*
エドガーが、隣に来た。
「タイシ様」
「初めての海は、いかがですか?」
タイシは、答えた。
「美しいですね」
「前世でも、海は見ましたが」
「この世界の海は、また格別です」
エドガーは、微笑んだ。
「そうですね」
「私も、海は好きです」
護衛隊長のガレスが、タイシに報告した。
「タイシ様」
「ゴーレム・エンジン、正常に稼働しています」
「速度は、時速40キロメートル」
「予定通り、15時間でイーストポートに到着します」
タイシは、頷いた。
「ご苦労様です」
「引き続き、警戒を怠らないでください」
ガレスが、敬礼した。
「はい!」
---
6時間後。
船団の見張りが、叫んだ。
「船影!」
「前方、5キロメートル!」
「数は…10隻!」
タイシは、望遠鏡を取り出した。
前方に、確かに船団が見えた。
だが、黒い旗ではなく、白い旗を掲げていた。
タイシは、微笑んだ。
「マリア海運の船団だ」
エドガーが、尋ねた。
「マリア海運?」
タイシは、頷いた。
「はい」
「マリア海運の社長、マリアは」
「元海賊でしたが、今は立派な海運業者です」
「1年前、私がイースタンへの処女航海の時に出会いました」
「彼女と彼女の仲間たちを、リベラに招きました」
「今では、リベラの重要な仲間です」
エドガーは、感心した。
「首相は、本当に誰でも受け入れるのですね」
---
30分後。
二つの船団が、並んで停泊していた。
マリアが、タイシの船に乗り込んできた。
長い黒髪の、30歳の女性。
かつては海賊女王と呼ばれていた。
だが、今の彼女の目には、希望と誇りがあった。
「タイシ!」
マリアは、タイシを抱きしめた。
「久しぶりだな!」
タイシは、笑った。
「マリア、久しぶり」
「元気そうだね」
マリアは、胸を張った。
「ああ!」
「マリア海運は、順調だ!」
「今では、船が20隻もある!」
「従業員も200名だ!」
タイシは、嬉しそうに言った。
「素晴らしい」
「君の努力の成果だ」
マリアは、真剣な表情になった。
「タイシ」
「今回の航海、私たちが護衛する」
「この海域は、私が海賊だった頃の縄張りだ」
「誰も手は出させない」
タイシは、頷いた。
「ありがとう、マリア」
「頼りにしている」
マリアは、船員たちに言った。
「聞け、みんな!」
「タイシ首相の船団を、全力で守る!」
「私たちの恩人だ!」
「命に代えても、守り抜け!」
船員たちが、一斉に叫んだ。
「はい!」
---
その後、二つの船団は、並んで航海を続けた。
マリア海運の船が、周囲を警戒している。
タイシは、甲板に立って、マリアの船を見ていた。
エドガーが、隣に来た。
「首相」
「マリアさんは、良い仲間になりましたね」
タイシは、頷いた。
「ああ」
「彼女は、元奴隷だった」
「主人から逃げて、海賊になった」
「生きるために、仕方なく」
「だが、リベラに来て、人生が変わった」
「今では、立派な実業家だ」
エドガーは、感動した。
「それが、リベラの精神ですね」
「誰にでも、チャンスを与える」
タイシは、微笑んだ。
「そうだ」
「過去は関係ない」
「大切なのは、これからだ」
---
マリア海運の護衛のおかげで、航海は順調だった。
他の海賊船が近づくこともあったが、マリアの旗を見て引き返していった。
マリアの船から、信号が送られてきた。
「前方、イーストポート!」
「あと1時間で到着!」
タイシは、安堵した。
「ありがとう、マリア」
---
6時間後。
タイシの船団は、イースタン商業同盟の首都、イーストポートに到着した。
イーストポートは、巨大な港町だった。
人口は、500万人。
イースタン商業同盟の5都市の中で、最大の都市だ。
港には、数百隻の船が停泊していた。
商船、漁船、軍艦。
様々な国の船が集まっていた。
タイシは、港の様子を見て驚いた。
*これは…*
*まるで、現代の貿易港だ*
*この世界にも、ここまでの商業が発展している場所があったのか*
使節団が上陸すると、イースタン商業同盟の使者が迎えに来た。
「リベラ共和国使節団の皆様」
「ようこそ、イーストポートへ」
「評議会長が、お待ちです」
タイシは、挨拶した。
「ありがとうございます」
「リベラ共和国使節団長、タイシと申します」
使者は、タイシを見て驚いた。
「あなたが、あの有名なタイシ様!」
「噂は、海を越えて届いています」
「リベラの奇跡を起こした天才と」
タイシは、謙遜した。
「過分なお言葉です」
使者は、言った。
「さあ、評議会へご案内します」
---
イースタン商業同盟、評議会議事堂。
巨大な円形の建物だった。
中央には、大きな円卓。
その周りに、5人の評議員が座っていた。
5つの都市国家の代表たちだ。
中央に座る男が、立ち上がった。
「ようこそ、タイシ殿」
「私は、評議会長のヴィクター・グレイです」
ヴィクターは、55歳。
痩せた体格の、鋭い目をした商人だった。
タイシは、深く礼をした。
「お会いできて光栄です、評議会長」
ヴィクターは、タイシに近づいた。
「さて、タイシ殿」
「我々は、あなたの噂を聞いています」
「ノーザン王国、サウザン連邦と同盟を結んだと」
タイシは、驚いた。
「もう、お聞きになっていましたか」
ヴィクターは、笑った。
「情報は、商人の命です」
「海を越えた情報も、すぐに届きます」
タイシは、感心した。
「さすがです」
「では、話が早い」
ヴィクターは、円卓に座るよう促した。
「座ってください」
「さて、単刀直入に聞きましょう」
「イースタン商業同盟に、何を求めていますか?」
タイシは、答えた。
「同盟です」
「そして、貿易協定」
ヴィクターは、興味を示した。
「ほう?」
「詳しく聞かせてください」
タイシは、説明した。
「まず、軍事同盟」
「グランディア帝国に対抗するためです」
「そして、貿易協定」
「リベラの製品を、イースタンの販売網で売る」
「その利益を、分配します」
ヴィクターは、頷いた。
「サウザン連邦と同じ条件ですね」
タイシは、頷いた。
「はい」
「ただし」
タイシは、書類を取り出した。
「イースタンは、5つの都市国家の連合です」
「販売網も、サウザンより広大です」
「そのため、利益配分は」
「イースタン65%、リベラ35%」
「イースタンの方が、より多くの利益を得られます」
評議員たちが、ざわめいた。
ヴィクターは、驚いた。
「65対35?」
「それは…本当ですか?」
タイシは、頷いた。
「はい」
「イースタンの販売網の価値を、正当に評価しています」
ヴィクターは、他の評議員たちと目を合わせた。
そして、タイシに言った。
「タイシ殿」
「あなたの提案は、非常に魅力的です」
「だが、軍事同盟については」
ヴィクターは、真剣な表情になった。
「我々は、傭兵に頼っています」
「帝国と戦えば、莫大な費用がかかります」
「その費用を、どうするのですか?」
タイシは、答えた。
「リベラが、負担します」
評議員たちが、再びざわめいた。
ヴィクターは、目を見開いた。
「何ですって?」
「傭兵の費用を、リベラが?」
タイシは、頷いた。
「はい」
「15万人の傭兵」
「年間費用は、約1,500万金貨」
「この半分、750万金貨をリベラが負担します」
ヴィクターは、驚愕した。
「750万金貨…」
「そんな大金を?」
タイシは、真剣な表情で言った。
「帝国と戦うためです」
「そして、同盟を強固にするためです」
「この投資は、必ず報われます」
ヴィクターは、深く考えた。
他の評議員たちと、小声で相談し始めた。
10分後。
ヴィクターは、タイシに言った。
「タイシ殿」
「評議員全員で協議しました」
「結論は」
ヴィクターは、立ち上がった。
「イースタン商業同盟は」
「リベラ共和国との同盟に、同意します」
タイシは、安堵した。
「ありがとうございます!」
ヴィクターは、手を差し出した。
「これからは、盟友です」
「共に、帝国と戦いましょう」
タイシは、その手を握った。
「必ず、勝利します」
評議会議事堂に、拍手が響いた。
5人の評議員全員が、立ち上がって拍手した。
歴史的な瞬間だった。
---
その夜。
イーストポートの迎賓館。
タイシは、使節団のメンバーと会議をしていた。
エドガーが言った。
「タイシ様」
「3つの国との同盟、成功です」
「素晴らしい!」
ガレスも、喜んだ。
「これで、同盟軍の総兵力は」
「75万人を超えました!」
タイシは、頷いた。
「はい」
「リベラ、ノーザン、サウザン、イースタン」
「4カ国の同盟」
「人口は、合計4,850万人」
「軍事力は、75万人以上」
「帝国を、圧倒しています」
エドガーが、尋ねた。
「では、これで十分でしょうか?」
タイシは、首を横に振った。
「いいえ」
「まだ、足りません」
全員が、驚いた。
「足りない?」
タイシは、地図を広げた。
「帝国には、魔導師団がいます」
「1万人の魔導師」
「彼らは、通常の兵士の10倍の戦闘力を持ちます」
「つまり、実質的には60万人の軍隊です」
「我々の75万人と、ほぼ互角です」
ガレスが、言った。
「では、どうすれば?」
タイシは、地図の北西部を指した。
「魔族領です」
「魔王ゼノビアと同盟を結びます」
「魔族の兵力は、10万人」
「だが、魔族の1人は、人間の5人分の戦闘力があります」
「つまり、実質50万人の増強です」
「これで、帝国を完全に上回れます」
エドガーが、心配そうに言った。
「だが、魔族は…」
「本当に信用できるのでしょうか?」
タイシは、答えた。
「ゼノビアは、人間・魔族共存を望んでいます」
「彼女は、賢明な指導者です」
「必ず、理解し合えます」
タイシは、決意を込めて言った。
「明日、魔族領へ向かいます」
「これが、最後の外交ミッションです」
---
翌朝。
タイシの使節団は、イーストポートを出発した。
目的地は、魔族領。
イーストポートから、西へ800キロメートル。
陸路での移動。
ゴーレム馬車で、3日間の旅。
だが、この旅は危険だった。
途中には、無法地帯がある。
盗賊、野獣、そして敵対的な魔族。
様々な危険が待っていた。
タイシは、護衛を強化していた。
戦闘ゴーレム:30体
護衛兵:20名
魔法使い:5名
総勢、80名の使節団。
タイシは、馬車の中で考えていた。
*魔王ゼノビア*
*彼女は、どのような人物なのか*
*情報省の報告では、聡明で冷静*
*だが、魔族の王だ*
*人間とは、根本的に異なる価値観を持っているかもしれない*
*だが*
タイシは、決意した。
*理解し合えるはずだ*
*魔族も人間も、平和を望んでいる*
*その気持ちは、同じはずだ*
---
1日目の夜。
使節団は、森の中で野営していた。
焚き火の周りに、メンバーが集まっていた。
突然、警備兵が叫んだ。
「敵襲!」
「盗賊です!」
森の中から、50人ほどの盗賊が現れた。
剣を持ち、弓を構えている。
盗賊の頭が、叫んだ。
「金を出せ!」
「さもないと、命はないぞ!」
タイシは、冷静に立ち上がった。
「戦闘ゴーレム、起動」
30体のゴーレムが、一斉に動き出した。
盗賊たちは、驚いた。
「ゴーレム!?」
「こ、こんなに!」
タイシは、言った。
「立ち去りなさい」
「これ以上近づけば、容赦しません」
盗賊の頭は、恐怖に震えた。
「ひ、退却だ!」
「逃げろ!」
盗賊たちは、慌てて森の中に消えていった。
ガレスが、安堵した。
「助かりました、タイシ様」
「ゴーレムがいて良かった」
タイシは、頷いた。
「はい」
「だが、油断はできません」
「まだ、2日間の旅が残っています」
---
2日目。
使節団は、無法地帯を通過していた。
荒れ果てた大地。
枯れた木々。
人の気配のない、不気味な場所だった。
突然、大地が揺れた。
「地震か!?」
だが、違った。
地面から、巨大な魔獣が現れた。
全長10メートル。
6本の足を持つ、巨大なトカゲのような生物。
アースドラゴンだった。
アースドラゴンは、使節団を睨んだ。
そして、咆哮した。
「グルルルル!!!」
魔法使いの一人が、叫んだ。
「アースドラゴン!」
「危険です!」
タイシは、命令した。
「戦闘ゴーレム、前進!」
「魔法使い、支援魔法!」
30体のゴーレムが、一斉にアースドラゴンに向かった。
魔法使いたちは、強化魔法をゴーレムにかけた。
アースドラゴンは、尾を振り回した。
ゴーレム3体が、吹き飛ばされた。
だが、残りのゴーレムたちは怯まなかった。
一斉に、アースドラゴンの足に攻撃を仕掛けた。
アースドラゴンは、バランスを崩した。
タイシは、魔法使いに命令した。
「今です!」
「氷結魔法!」
5人の魔法使いが、一斉に魔法を唱えた。
「アイスランス!」
巨大な氷の槍が、5本。
アースドラゴンに命中した。
アースドラゴンは、苦しみながら倒れた。
そして、動かなくなった。
ガレスが、叫んだ。
「やった!」
「倒しました!」
タイシは、安堵した。
「よくやりました」
「だが、負傷者は?」
魔法使いの一人が、報告した。
「ゴーレム3体、損傷」
「人間の負傷者は、なしです」
タイシは、頷いた。
「ゴーレムは、修理できます」
「進みましょう」
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3日目の夕方。
使節団は、ついに魔族領の境界に到着した。
境界には、巨大な門があった。
黒い石で作られた、威圧的な門。
門の前には、魔族の兵士が10人立っていた。
タイシは、馬車から降りた。
そして、魔族の兵士に近づいた。
「私は、リベラ共和国使節団長、タイシと申します」
「魔王ゼノビア陛下に、お会いしたいのですが」
魔族の兵士は、タイシを見た。
そして、驚いた表情になった。
「タイシ…様?」
「あなたが、あの有名なタイシ様ですか?」
タイシは、頷いた。
「はい」
魔族の兵士は、深く礼をした。
「お待ちしていました!」
「ゼノビア様から、指示を受けています」
「どうぞ、中へ」
門が、ゆっくりと開いた。
その先には、魔族領の都、ダークキャッスルが見えた。
黒い城。
だが、不思議と美しい。
タイシは、思った。
*ついに、魔族領に入る*
*ゼノビアとの会談*
*これが、最後の外交ミッションだ*
*必ず、成功させる*
使節団は、ダークキャッスルへと進んでいった。
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