第五章:海賊マリアとの遭遇
タイシは、21歳になっていた。
リベラ共和国は、順調に発展していた。
GDP は、2,000万金貨を超えた。
人口も、550万人に増加していた。
そして、ゴーレム船の開発が、完了した。
王都の造船所。
巨大なゴーレム船が、完成していた。
全長50メートル。
幅15メートル。
3本のマストを持つ、美しい船だった。
だが、帆は飾りだった。
魔力で動くため、風は不要だった。
タイシが、船を見上げた。
「素晴らしい」
開発主任のドワーフ技師、ゴルムが言った。
「タイシ首相」
「この船は、通常の船の3倍の速度が出ます」
「そして、魔物にも耐えられる強度です」
タイシは、船に乗り込んだ。
操舵室。
ゴーレムが、舵を取っていた。
「ゴーレムが操縦するのですか?」
ゴルムは、頷いた。
「はい」
「人間の船員は、10名だけで十分です」
「残りは、全てゴーレムが担当します」
タイシは、感心した。
「では、処女航海をしましょう」
「イースタン商業同盟へ」
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1週間後。
ゴーレム船「リベラ号」が、出航した。
乗組員:
- タイシ(首相)
- エドガー(護衛隊長)
- グレン(外務次官、獣人)
- マルコ(イースタン商人)
- 船員10名
- 戦闘ゴーレム20体
- 操船ゴーレム30体
船は、驚異的な速度で進んだ。
通常なら10日かかる航路を、3日で到達する計算だった。
出航から2日目。
海は穏やかだった。
タイシは、甲板に立って海を眺めていた。
*美しい*
*海は、こんなに広いのか*
エドガーが、近づいてきた。
「タイシ首相」
「順調ですね」
タイシは、頷いた。
「ゴーレム船は、大成功だ」
「これで、海上交易が革命的に変わる」
その時。
見張りゴーレムが、警報を鳴らした。
「警告!」
「前方に、複数の船を確認!」
「海賊の可能性あり!」
タイシとエドガーは、緊張した。
「海賊?」
船長が、双眼鏡で確認した。
「間違いありません」
「5隻の海賊船です」
「こちらに向かってきます」
タイシは、命じた。
「戦闘準備」
「ゴーレムを配置」
戦闘ゴーレム20体が、甲板に並んだ。
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海賊船が、近づいてきた。
最大の船から、女性の声が響いた。
「おい、そこの船!」
「止まれ!」
「止まらなければ、撃つぞ!」
タイシは、前に出た。
「私はリベラ共和国の首相だ」
「攻撃すれば、戦争になるぞ」
海賊の女性が、笑った。
「首相?」
「知ったことか!」
「その面白い船、頂いていくぞ!」
海賊船が、リベラ号に接近した。
鉤縄が投げられ、海賊たちが乗り込んできた。
約50名の海賊。
全員、武装していた。
そして、最後に乗り込んできたのは。
一人の女性。
長い黒髪。
鋭い目。
2本の剣を持っている。
海賊女王、マリア。
悪名高い海賊だった。
マリアは、タイシを見た。
「お前が、首相か」
「若いな」
「20歳くらいか?」
タイシは、答えた。
「21歳だ」
マリアは、笑った。
「21歳で首相とは」
「面白い」
「だが、残念だったな」
「この船は、私のものだ」
タイシは、冷静に答えた。
「そうはさせない」
マリアは、剣を抜いた。
「では、実力で奪う」
「かかってこい、首相様」
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タイシは、杖を構えた。
エドガーが、前に出ようとした。
「首相、私が」
だが、タイシは制した。
「いい」
「私が戦う」
マリアは、興味深そうに見た。
「首相自ら戦うのか」
「度胸があるな」
「では」
マリアが、突進してきた。
信じられない速度。
剣が、タイシに迫る。
だが、タイシは冷静だった。
「シールド」
魔法の盾が、剣を弾いた。
マリアは、驚いた。
「魔法使いか!」
「面白い!」
マリアは、連続攻撃を繰り出した。
剣が、嵐のように襲いかかる。
だが、タイシのシールドは、全てを防いだ。
「ウィンドブラスト!」
タイシの魔法が、マリアを吹き飛ばした。
マリアは、空中で体勢を立て直し、着地した。
「やるな」
「だが」
マリアの剣が、青く光り始めた。
「これならどうだ!」
「ソードスキル:ライトニングスラッシュ!」
雷を纏った斬撃が、タイシに迫った。
タイシは、避けた。
雷が、マストに当たり、爆発した。
「強い」
タイシは、認めた。
「あなたは、相当の実力者だ」
マリアは、笑った。
「お前は強いな」
「相当の実力者だ」
タイシは、杖を構えた。
「本気を出す」
「ファイアストーム!」
巨大な炎の竜巻が、マリアに襲いかかった。
マリアは、必死で防いだ。
だが、炎の熱で服が焦げた。
「くそっ!」
「強すぎる!」
タイシは、魔法を止めた。
「降伏しろ」
「これ以上戦っても、無駄だ」
マリアは、悔しそうに剣を下ろした。
「くそ...負けた」
海賊たちも、戦意を失った。
リベラ号の戦闘ゴーレムが、海賊たちを取り囲んでいた。
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タイシは、マリアに尋ねた。
「なぜ、海賊になった?」
マリアは、答えなかった。
タイシは、続けた。
「あなたほどの実力があれば」
「正規の軍隊で、高位につけたはずだ」
「なぜ、海賊に?」
マリアは、怒りを込めて言った。
「お前に、何が分かる」
「私の過去に、何が分かる」
タイシは、静かに言った。
「話してくれ」
「聞くだけなら、できる」
マリアは、しばらく黙っていた。
そして、ゆっくりと話し始めた。
「私は」
「元奴隷だった」
タイシは、驚いた。
「奴隷?」
マリアは、頷いた。
「10歳の時」
「村が襲われた」
「両親は殺され」
「私は、奴隷として売られた」
「主人は、残酷だった」
「毎日、殴られ、働かされた」
「食事もろくに与えられなかった」
マリアの声が、震えた。
「15歳の時」
「逃げた」
「主人を殴り倒して、逃げた」
「そして、海賊になった」
「海賊なら、自由だから」
「誰にも支配されない」
「自分の力で、生きていける」
タイシは、深く頷いた。
「辛かったんだな」
マリアは、涙を堪えた。
「同情など、いらない」
タイシは、言った。
「同情ではない」
「理解だ」
「あなたの痛みを、理解する」
マリアは、タイシを見た。
「お前に、何が分かる」
「首相のくせに」
タイシは、答えた。
「私も、元は村の少年だった」
「15歳まで、村で暮らしていた」
「貧しくはなかったが」
「周りには、貧困で苦しむ人々がいた」
「病気でも医者にかかれない人々」
「学校に行けない子供たち」
「そして、奴隷として扱われる人々」
「私は思った」
「これは、間違っている」
「だから、王都に来た」
「そして、戦った」
「奴隷制度を廃止するために」
「貴族制度を廃止するために」
「全ての人が、自由に生きられる社会を作るために」
マリアは、驚いた。
「お前が...そんな過去を」
タイシは、マリアに近づいた。
「マリア」
「リベラに来ないか?」
マリアは、戸惑った。
「何?」
タイシは、提案した。
「リベラでは」
「誰もが自由に生きられる」
「元奴隷も、獣人も、誰もが平等だ」
「あなたも、自由に生きられる」
「海賊ではなく」
「正当な商人として」
「あなたの力を、良いことに使わないか?」
マリアは、信じられないという表情だった。
「お前...本気で言っているのか?」
タイシは、頷いた。
「本気だ」
「あなたには、才能がある」
「それを、犯罪に使うのは勿体ない」
「正しいことに使えば」
「多くの人を幸せにできる」
マリアは、涙を流した。
「私を...受け入れてくれるのか?」
「海賊の私を?」
タイシは、微笑んだ。
「過去は、関係ない」
「大切なのは、これからだ」
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マリアは、部下たちと相談した。
1時間後。
マリアが、タイシの前に来た。
「タイシ首相」
「一つ、条件がある」
タイシは、尋ねた。
「何だ?」
マリアは、答えた。
「私の部下たち、50名も」
「受け入れてくれるか?」
「彼らも、元奴隷や貧困層だ」
「海賊になるしか、生きる道がなかった」
タイシは、即答した。
「もちろんだ」
「全員、歓迎する」
マリアは、深く頭を下げた。
「ありがとう」
「私たちは」
「あなたに従う」
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リベラ号は、予定を変更した。
まず、リベラに戻る。
マリアたちを、正式に受け入れるために。
3日後。
リベラ号は、王都の港に到着した。
マリアと50名の元海賊が、上陸した。
多くの市民が、好奇の目で見ていた。
タイシが、宣言した。
「市民の皆さん」
「彼らは、新しい仲間です」
「元海賊ですが」
「これからは、正当な市民として」
「共に暮らします」
市民の一人が、不安そうに言った。
「海賊を、受け入れるのですか?」
タイシは、答えた。
「はい」
「彼らは、環境が悪かっただけです」
「正しい環境を与えれば」
「必ず立派な市民になります」
「それが、リベラの精神です」
「誰にでも、チャンスを与える」
市民たちは、納得した。
そして、マリアたちに拍手を送った。
マリアは、涙を流した。
*こんな国が、あったのか*
*私たちを、受け入れてくれる国が*
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1ヶ月後。
マリアたちは、リベラに馴染んでいた。
マリアは、タイシに呼ばれた。
「マリア」
「あなたに、仕事を頼みたい」
マリアは、緊張した。
「何でしょうか?」
タイシは、提案した。
「ゴーレム船の運航を」
「あなたに任せたい」
マリアは、驚いた。
「私に?」
タイシは、頷いた。
「あなたは、海を知っている」
「航海の専門家だ」
「ゴーレム船を運航する会社を作ってほしい」
「マリア海運」
「どうだ?」
マリアは、感動した。
「私に...会社を?」
「海賊だった私に?」
タイシは、微笑んだ。
「過去は、関係ない」
「あなたは、もう海賊ではない」
「立派な市民だ」
「そして、優秀な船長だ」
マリアは、深く頭を下げた。
「ありがとうございます」
「必ず、成功させます」
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マリア海運が、設立された。
マリアが社長。
元海賊50名が、船員。
ゴーレム船10隻が、就航した。
リベライースタン航路。
リベラノーザン航路。
海上交易が、急速に発展した。
そして、マリアは誓った。
*今度は、海を守る側だ*
*海賊から、商人たちを守る*
*それが、私の新しい使命だ*
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