第二章:貴族制度の終焉
タイシは、19歳になっていた。
国民投票の準備が、進められていた。
議題は、2つ。
1. 貴族制度の廃止
2. 共和制への移行
これは、リベラ王国史上、最大の変革だった。
王宮の会議室。
タイシ、国王、宰相、そして主要な大臣たちが集まっていた。
「国民投票の日程を決めます」
タイシが言った。
「3ヶ月後」
「それまでに、全国で説明会を開きます」
宰相エドワードが、尋ねた。
「国民は、理解できるでしょうか?」
「貴族制度廃止は、理解できても」
「共和制は、難しいのでは?」
タイシは、答えた。
「だからこそ、説明会が必要です」
「共和制とは何か」
「どのような利点があるのか」
「丁寧に説明します」
国王が、言った。
「タイシ」
「お前が、全国を回るのか?」
タイシは、頷いた。
「はい」
「私自身が説明します」
「国民の疑問に、直接答えます」
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タイシの全国行脚が、始まった。
最初の訪問地は、北部の都市。
人口5万人の、中規模都市だ。
中央広場に、2万人の市民が集まった。
タイシが、演壇に立った。
「皆さん」
「今日は、重要なお話をします」
「3ヶ月後、国民投票が行われます」
「議題は、貴族制度の廃止と共和制への移行です」
市民たちは、真剣な表情で聞いていた。
「まず、貴族制度について」
「貴族は、生まれによって特権を持ちます」
「税金が免除され」
「法律も、一般人とは違う扱いを受けます」
「これは、公平でしょうか?」
市民の一人が、叫んだ。
「不公平だ!」
「私たちは、重い税金を払っているのに!」
タイシは、頷いた。
「その通りです」
「貴族制度は、不平等の象徴です」
「ですから、廃止します」
「貴族も、一般人と同じ権利と義務を持ちます」
市民たちから、歓声が上がった。
「次に、共和制について」
「共和制とは、国民が選んだ代表者が国を治める制度です」
「王や貴族ではなく」
「皆さんが選んだ人たちが」
「皆さんのために政治を行います」
市民の一人が、尋ねた。
「では、国王陛下は?」
タイシは、答えた。
「国王陛下は、象徴として残られます」
「政治の実権は持ちませんが」
「国民統合の象徴として」
「そして、これまでのご功績に敬意を表して」
市民たちは、納得した様子だった。
別の市民が、質問した。
「共和制になったら」
「私たちの生活は、良くなるのですか?」
タイシは、真剣な表情で答えた。
「はい」
「なぜなら、皆さんが政治に参加できるからです」
「代表者を選び」
「その代表者が、皆さんの声を反映した政治を行います」
「不満があれば、次の選挙で別の人を選べます」
「これが、民主主義です」
市民たちの目が、輝き始めた。
*自分たちで、国を変えられる*
*それが、共和制なのか*
タイシは、続けた。
「共和制では」
「全ての国民が平等です」
「貴族も、平民も、区別はありません」
「法の下に、完全に平等です」
市民の一人が、叫んだ。
「素晴らしい!」
「それが、本当の国だ!」
歓声が、広場に響いた。
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タイシは、3ヶ月間で20の都市を回った。
どこでも、同じように説明した。
そして、どこでも、熱烈な支持を受けた。
特に、元奴隷や貧しい人々からの支持が圧倒的だった。
*ついに、平等な国ができる*
*私たちも、人間として扱われる*
だが、反対する者もいた。
当然ながら、保守派貴族たちだ。
保守派貴族の秘密会合。
デュラン公爵邸。
20名の貴族が集まっていた。
「これは、許せない!」
マルクス伯爵が怒鳴った。
「貴族制度の廃止だと!?」
「我々の特権が、奪われる!」
デュラン公爵が、言った。
「落ち着け」
「だが、確かに深刻な事態だ」
別の貴族が、言った。
「国民投票など、認められない!」
「王が勝手に決めるべきだ!」
だが、デュラン公爵は首を振った。
「無理だ」
「国王は、既にタイシの側だ」
「我々には、勝ち目がない」
マルクス伯爵が、尋ねた。
「では、どうする?」
「このまま、黙って特権を失うのか?」
デュラン公爵は、深く考え込んだ。
「国民投票で、反対票を投じるしかない」
「そして、我々の支持者にも投票を呼びかける」
だが、別の貴族が言った。
「無理です」
「タイシの人気は、圧倒的です」
「国民の9割が、改革を支持しています」
「国民投票は、確実に可決されます」
マルクス伯爵が、拳を握った。
「くそっ!」
「タイシめ!」
デュラン公爵が、言った。
「諦めるしかない」
「だが」
「共和制になっても」
「我々は生き残る方法を探す」
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3ヶ月後。
国民投票の日。
リベラ王国全土で、投票が行われた。
投票権を持つのは、18歳以上の全国民。
人口500万人のうち、約300万人が投票権を持っていた。
投票率は、驚異的だった。
95%。
国民の関心の高さを示していた。
開票。
王宮の大ホールで、開票作業が行われた。
タイシ、国王、宰相、そして多くの国民が見守っていた。
集計官が、結果を発表した。
「第一議題」
「貴族制度の廃止」
「賛成:270万票(95%)」
「反対:15万票(5%)」
「圧倒的多数で、可決!」
大ホールに、歓声が響いた。
「第二議題」
「共和制への移行」
「賛成:255万票(90%)」
「反対:30万票(10%)」
「可決!」
再び、歓声。
国王が、立ち上がった。
「国民の意思が、示された」
「私は、これを尊重する」
「今日をもって」
「リベラ王国は」
「リベラ共和国となる」
大ホールが、興奮に包まれた。
*歴史的瞬間だ*
*王国が、共和国に変わった*
*平等な社会が、実現する*
タイシは、深く頭を下げた。
*ついに、ここまで来た*
*だが、これは始まりに過ぎない*
*本当の戦いは、これからだ*
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その夜。
王宮で、祝賀会が開かれた。
だが、タイシは一人で庭を歩いていた。
星空が、美しかった。
エドガーが、近づいてきた。
「タイシ殿」
「祝賀会に、参加されないのですか?」
タイシは、微笑んだ。
「少し、一人になりたかった」
エドガーは、隣に立った。
「偉大な変革を、成し遂げましたね」
タイシは、首を振った。
「まだ、何も成し遂げていない」
「これから、憲法を作らなければならない」
「議会を設立しなければならない」
「そして、真の平等な社会を実現しなければならない」
エドガーは、言った。
「ですが、最も困難な部分は終わりました」
「貴族制度の廃止」
「これは、誰もが不可能だと思っていました」
「ですが、あなたは成し遂げた」
タイシは、空を見上げた。
「多くの人々の協力があったからだ」
「国王陛下」
「宰相」
「エドガー、あなたも」
「そして、何より」
「国民の力だ」
エドガーは、頷いた。
「これからも、私はあなたを支えます」
タイシは、エドガーを見た。
「ありがとう」
「頼りにしている」
二人は、しばらく無言で星空を見上げた。
新しい時代が、始まろうとしていた。
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