第五章:粛清という選択
決戦まで、あと1日。
王宮の改革委員会室。
緊急会議が開かれていた。
出席者は
国王アルバート三世。
宰相。
タイシ。
マイケル。
エドガー。
ダリウス。
そして、改革派貴族の代表たち10名。
全員が、深刻な表情で座っていた。
エドガーが、偵察の報告をした。
「マルクス伯爵の動きを、24時間監視しています」
「屋敷には、武装した私兵が200名以上」
「他の保守派貴族の屋敷も、同様です」
「合計で、約1000名の私兵が集結しています」
ダリウスが続けた。
「帝国軍5000名は、すでに国境から50キロの地点まで進軍しています」
「明日の夜には、王都に到達する予定です」
「帝国大使館には、『影の刃』の精鋭30名が潜伏しています」
国王が、苦渋の表情で尋ねた。
「タイシ、本当に勝算はあるのか?」
「敵は、合計6000名以上だぞ」
タイシは、冷静に答えた。
「陛下、私のゴーレム軍は現在450体」
「明日の朝までに、500体に到達します」
「人型ゴーレム50体も、スミス商会に配置済みです」
「そして」
タイシは、テーブルに地図を広げた。
「戦術としては、こうです」
「ゴーレム軍500体で、帝国軍5000名を国境付近で迎え撃ちます」
「1体のゴーレムは、10名の兵士と互角です」
「つまり、500体で5000名分の戦力」
「互角に戦えます」
「ですが」
改革派貴族の一人が反論した。
「互角では、勝てません」
「帝国軍には、高レベルの騎士もいるはずです」
「そうです」
タイシは頷いた。
「ですから、人型ゴーレム50体も投入します」
「人型ゴーレムは、1体でA級騎士相当」
「50体あれば、帝国軍の精鋭にも対応できます」
宰相が尋ねた。
「では、王都内の蜂起は?」
「保守派貴族の私兵1000名」
「それに、裏切り者の騎士たちも」
「それは」
タイシは、全員を見渡した。
「『自由の翼』300名で対応します」
「エドガーの指揮の下、街を防衛します」
エドガーが頷いた。
「我々は、市街戦の準備を整えています」
「民衆も、協力してくれます」
「だが」
マイケルが心配そうに言った。
「『影の刃』30名は、どうするんです?」
「レベル500以上の精鋭ですよ」
タイシは、静かに答えた。
「それは、私が直接対応します」
沈黙。
国王が、タイシを見つめた。
「タイシ…一人で30名を?」
「はい」
タイシは頷いた。
「私のレベルは658」
「超能力魔法も、全てレベルアップしました」
「空間掌握と瞬間連続移動のスキルもあります」
「30名を、各個撃破できます」
改革派貴族の一人が、不安そうに言った。
「ですが…万が一、タイシ様が倒れたら」
「全てが終わってしまいます」
「危険すぎます」
タイシは、テーブルを見つめた。
そして
静かに、だが明確に、言った。
「では、別の方法もあります」
全員が、タイシを見た。
「別の方法?」
タイシは、顔を上げた。
その目は、冷たく光っていた。
「保守派貴族たちが、コソコソと陰謀を画策している」
「帝国と結び、王国を裏切ろうとしている」
「何度も何度も、改革を妨害している」
「ならば」
タイシは、静かに、だが明確に宣言した。
「全員、粛清したらどうでしょうか?」
会議室が、凍りついた。
「…粛清?」
国王が、呆然と繰り返した。
タイシは頷いた。
「はい」
「マルクス伯爵を筆頭に」
「陰謀に関与している保守派貴族、全員を」
「今夜、一斉に始末します」
「私のテレポーテーションと超能力魔法を使えば」
「一晩で、全ての屋敷を回れます」
「音もなく、痕跡も残さず」
「全員を消すことができます」
全員が、言葉を失った。
タイシは、淡々と続けた。
「保守派貴族が消えれば」
「王都での蜂起は起こりません」
「帝国軍も、内応者がいなければ、侵攻を躊躇うでしょう」
「『影の刃』も、依頼主が消えれば、撤退するはずです」
「つまり」
タイシは、全員を見渡した。
「戦争そのものを、回避できます」
「犠牲者は、保守派貴族約30名だけ」
「王国は救われます」
「民衆も、騎士も、誰も死にません」
「完璧な解決です」
沈黙が、重く会議室を支配した。
改革派貴族の一人が、震える声で言った。
「タイシ様…それは…」
「暗殺です」
「殺人です」
タイシは、冷静に答えた。
「はい」
「ですが、戦争も殺人です」
「どちらを選ぶかの問題です」
「30名を殺して、戦争を回避するか」
「正々堂々と戦って、数千人が死ぬか」
「どちらが、正しいでしょうか?」
全員が、沈黙した。
答えられない。
エドガーが、苦悩の表情で言った。
「タイシ様の言うことは…理解できます」
「ですが…」
「騎士として、暗殺は認められません」
「たとえ敵でも、正々堂々と戦うべきです」
マイケルも言った。
「私も…同意です」
「確かに、保守派貴族は敵です」
「ですが、暗殺は…」
「一線を越えてしまいます」
ダリウスが、複雑な表情で言った。
「私は…元役人として、法を重んじてきました」
「暗殺は、法に反します」
「ですが…」
ダリウスは、苦しそうに続けた。
「タイシ様の言うことも、分かります」
「保守派貴族は、何度も法を破ってきました」
「賄賂、陰謀、裏切り」
「彼らを法で裁こうとしても、証拠を隠滅します」
「結局、何も変わらない」
「ならば…」
ダリウスは、言葉に詰まった。
国王が、重い口を開いた。
「タイシ」
「お前の気持ちは、分かる」
「保守派貴族たちは、王国の癌だ」
「何度も何度も、改革を妨害し」
「私の命令さえ、無視してきた」
「正直、いなくなってくれれば、と思ったことは何度もある」
「だが」
国王は、真っ直ぐタイシを見た。
「私は、王だ」
「全ての臣民を、公平に扱わなければならない」
「たとえ敵であっても、裁判なしに殺すことは許されない」
「それをすれば」
国王は、厳しい声で続けた。
「私は、暴君になる」
「お前も、殺人者になる」
「そして、改革は失敗する」
「なぜなら」
国王は、拳を握った。
「民衆は、暴力による支配を望んでいない」
「彼らが望むのは、法と秩序だ」
「正義だ」
「暗殺で勝ち取った平和など」
「誰も信じない」
タイシは、国王の言葉を聞いた。
そして
深く息を吐いた。
「…分かりました、陛下」
タイシは、頭を下げた。
「私の提案は、撤回します」
「正々堂々と、戦いましょう」
全員が、安堵した。
だが、タイシは続けた。
「ですが」
タイシは、顔を上げた。
その目は、まだ冷たかった。
「今回は、陛下の意見に従います」
「ですが、もし今後も」
「保守派貴族たちが、陰謀を繰り返し」
「何度も何度も、改革を妨害し」
「王国を危機に陥れるようなら」
タイシは、静かに宣言した。
「その時は、容赦しません」
「法も、秩序も、関係ありません」
「王国のために、邪魔者は全て排除します」
「それが、私の正義です」
会議室に、緊張が走った。
国王は、複雑な表情でタイシを見た。
「タイシ…」
「お前は、危険な思想を持っている」
「だが」
国王は、小さく笑った。
「同時に、最も王国を思っている」
「矛盾しているな」
タイシも、苦笑した。
「はい」
「私も、自分が矛盾していることは分かっています」
「ですが」
タイシは、真剣な表情に戻った。
「私には、譲れないものがあります」
「この王国を、新しい時代へ導くこと」
「そのためなら」
タイシは、言葉を飲み込んだ。
*どんな手段でも使う*
*たとえ、悪魔と呼ばれても*
だが、それは口には出さなかった。
宰相が、会議を仕切り直した。
「では、改めて」
「明日の作戦を確認しましょう」
「タイシのゴーレム軍500体が、帝国軍5000名を国境で迎撃」
「エドガーと『自由の翼』が、王都を防衛」
「タイシが、『影の刃』30名を各個撃破」
「これで、よろしいですね?」
全員が頷いた。
「では」
国王が立ち上がった。
「明日、運命の日だ」
「全員、準備を怠るな」
「王国の未来は、我々の手にかかっている」
「はい!」
全員が、声を揃えた。
会議は、終了した。
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会議の後。
タイシは、一人で王宮の庭を歩いていた。
*粛清という選択*
*それが、最も効率的だった*
*だが、国王は拒否した*
*正しい判断だ*
*暗殺では、真の改革は成し遂げられない*
*分かっている*
*だが*
タイシは、拳を握った。
*もし、今回の戦いで*
*多くの仲間が死んだら*
*それでも、正義だと言えるのか?*
*保守派貴族を生かすために*
*無実の人々が犠牲になる*
*それが、正しいのか?*
タイシは、答えを出せなかった。
その時。
マイケルが、声をかけてきた。
「タイシ様」
「マイケルさん」
マイケルは、タイシの隣に立った。
「さっきの会議…驚きました」
「タイシ様が、あんなことを提案するなんて」
タイシは、苦笑した。
「怖かったですか?」
「正直に言えば…はい」
マイケルは頷いた。
「タイシ様の目が、あまりにも冷たかった」
「まるで、人の命を虫けらのように考えているような…」
「そう見えましたか」
タイシは、空を見上げた。
「実際、そうだったかもしれません」
「私にとって、保守派貴族は」
「改革を妨害する障害物でしかない」
「彼らの命よりも」
「王国の未来の方が、はるかに重要です」
マイケルは、少し悲しそうに言った。
「タイシ様…」
「あなたは、変わってしまったんですか?」
「最初に会った時は、もっと」
タイシは、マイケルを見た。
「もっと、優しかった?」
「…はい」
「そうかもしれません」
タイシは認めた。
「力を手に入れて」
「多くの人々の期待を背負って」
「私は、変わったのかもしれません」
「でも」
タイシは、微笑んだ。
「仲間を大切に思う気持ちは、変わっていません」
「マイケルさん、あなたや」
「エドガー、ダリウス、ブライアン」
「スミス商会のみんな」
「『自由の翼』のメンバー」
「全員を、守りたいと思っています」
「だからこそ」
タイシは、拳を握った。
「敵は、容赦なく倒します」
「それが、私の優しさです」
マイケルは、少し考えてから、微笑んだ。
「分かりました」
「タイシ様は、タイシ様のやり方で」
「私たちを守ってくれるんですね」
「はい」
タイシは頷いた。
「明日、必ず勝ちます」
「そして」
タイシは、決意を新たにした。
「新しい王国を、作ります」
夜が、静かに更けていった。
明日、決戦の日。
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