第四章:王都潜入
翌日、正午。
タイシは、人型ゴーレムに変装して王都に到着した。
外見は、30代の平凡な商人。
誰も、これがタイシだとは気づかない。
「変装魔法も、かなり精度が上がったな」
タイシは満足した。
王都の街は、一見すると平穏だった。
だが、タイシの目には、緊張が見えた。
騎士団の巡回が、いつもより多い。
貴族たちが、密かに屋敷に集まっている。
民衆は、不安そうな顔をしている。
*何かが、起こる*
*その予感が、街全体を覆っている*
タイシは、リモート・ビューイングを発動した。
視界が拡大する。
王都全体が、見渡せる。
マルクス伯爵の屋敷。
そこに、多数の貴族が集まっていた。
*会議をしているな*
*内容を聞かなければ*
タイシは、クレアオーディエンス(念聴)を発動した。
数キロ離れた屋敷の会議室。
マルクス伯爵の声が、鮮明に聞こえてきた。
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「諸君」
マルクス伯爵が、集まった20名の貴族に言った。
「帝国からの支援が、正式に決定した」
「3日後、帝国軍5000名が国境を越える」
「名目は『友好国への軍事演習協力』だ」
貴族たちが、ざわついた。
「5000名も!?」
「それだけあれば、王都を制圧できる!」
「改革派を一掃できる!」
マルクス伯爵が続けた。
「我々の役割は、王都内での同時蜂起だ」
「帝国軍が到着する直前」
「王宮を占拠し、国王を拘束する」
「そして、『自由の翼』の主要メンバーを全員逮捕する」
「特に」
マルクス伯爵の声が、冷たくなった。
「タイシを、必ず捕らえる」
「生死は問わない」
別の貴族が尋ねた。
「騎士団は、我々に協力しますか?」
「一部は協力する」
マルクス伯爵が答えた。
「約200名の貴族騎士が、我々の側だ」
「だが、エドガーの分隊や、平民出身の騎士たちは敵だ」
「彼らは、改革派に与している」
「では、どうします?」
「簡単だ」
マルクス伯爵が冷笑した。
「決行は深夜」
「エドガーたちが気づく前に、全てを終わらせる」
「そして」
マルクス伯爵が、帝国の使者ヴァレリウスを見た。
「帝国の『影の刃』の精鋭も、我々を支援してくれる」
「そうだな、ヴァレリウス殿?」
ヴァレリウスが、冷たく微笑んだ。
「もちろんだ」
「我が『影の刃』の精鋭30名を派遣する」
「全員、レベル500以上だ」
「タイシがいくら強くても、30名を相手にはできまい」
貴族たちが、安堵した。
「これなら、確実だ!」
「3日後、全てが変わる!」
「王国は、再び我々貴族のものになる!」
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タイシは、全てを聞いた。
*3日後…*
*帝国軍5000名*
*王都での同時蜂起*
*『影の刃』30名*
*これは…かなり危険だ*
タイシは、すぐにマイケルの商会へ向かった。
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スミス商会の地下会議室。
マイケル、エドガー、ダリウス、ブライアンたちが集まっていた。
タイシが変装を解いて、現れた。
「タイシ様!」
全員が驚いた。
「いつの間に!?」
「今、到着しました」
タイシが説明した。
「マルクス伯爵の会議を、念聴で傍受しました」
「状況は、予想以上に深刻です」
タイシは、聞いた内容を全て伝えた。
帝国軍5000名。
3日後の決行。
王宮占拠。
『影の刃』30名。
全員が、青ざめた。
「帝国軍5000名…」
エドガーが呻いた。
「王国軍は、国境に展開していない」
「王都の守備隊は、わずか2000名」
「しかも、その中に裏切り者がいる」
「これでは…」
「勝てません」
ダリウスも絶望的な声で言った。
「『影の刃』30名…」
「レベル500以上の精鋭です」
「我々では、到底太刀打ちできません」
沈黙が、部屋を支配した。
だが
タイシは、冷静だった。
「諦めるのは、まだ早い」
全員が、タイシを見た。
「タイシ様…」
「方法は、あります」
タイシが宣言した。
「まず、帝国軍5000名は、私のゴーレム軍で対応します」
「戦闘型ゴーレム250体では足りませんが」
「これから、全力で生産すれば」
「3日間で、500体まで増やせます」
「500体!?」
マイケルが驚いた。
「そんなに早く!?」
「はい」
タイシが説明した。
「統括型ゴーレムをフル稼働させます」
「村の全資源を投入します」
「そして」
タイシは続けた。
「人型戦闘ゴーレム50体も、全て王都へ」
「これで、王都内の戦力は確保できます」
エドガーが尋ねた。
「では、『影の刃』30名は?」
「それは」
タイシが微笑んだ。
「私が直接相手をします」
「一人で!?」
全員が驚いた。
「30名を!?」
「はい」
タイシは頷いた。
「私の現在のレベルは、650です」
「そして」
タイシは、魔力を解放した。
部屋中に、圧倒的な魔力が満ちた。
全員が、息を呑んだ。
「この魔力…」
「タイシ様、信じられない…」
タイシが説明した。
「超能力魔法を習得してから」
「私の魔力は、飛躍的に増大しました」
「そして」
タイシは、手のひらに小さな空間の歪みを作った。
「テレポーテーションを改良しました」
「これで、戦場を自由に移動できます」
「30名を相手にしても、各個撃破できます」
ブライアンが心配そうに言った。
「でも、タイシ様」
「相手は、帝国の精鋭です」
「レベル500以上が30名…」
「危険すぎます」
タイシは、真剣な表情で答えた。
「確かに、危険です」
「ですが」
タイシは拳を握った。
「誰かがやらなければならない」
「そして、私にしかできない」
「私が倒れれば、全てが終わる」
「だが、私が勝てば」
タイシは全員を見渡した。
「王国は救われます」
「新しい時代が来ます」
「私は、それを信じています」
沈黙の後。
エドガーが立ち上がった。
「分かりました」
「タイシ様を信じます」
「我々も、できる限りのことをします」
マイケルも頷いた。
「スミス商会の全資源を提供します」
「ゴーレムの生産を支援します」
ダリウスが言った。
「情報収集を続けます」
「敵の動きを、逐一報告します」
ブライアンが拳を打ち鳴らした。
「『獅子の牙』は、街の防衛を担当します!」
タイシは、全員に感謝した。
「ありがとうございます」
「では」
タイシは作戦を説明し始めた。
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その夜。
タイシは、スミス商会の屋上にいた。
夜空を見上げる。
星が、静かに輝いている。
*3日後、決戦だ*
*帝国軍5000名*
*『影の刃』30名*
*保守派貴族200名の私兵*
*合計で、5200名以上の敵*
*対する我々は*
*ゴーレム軍500体*
*人型ゴーレム50体*
*『自由の翼』300名*
*そして、私*
タイシは、自分の手を見た。
*レベル650では、まだ不安だ*
*もっと、強くならなければ*
タイシは、再び修練を始めた。
テレポーテーションを連続で発動。
屋上から、街の反対側へ。
また戻る。
王宮まで。
また戻る。
何度も、何度も。
魔力を使い果たす。
回復薬を飲む。
また発動。
1時間。
2時間。
3時間。
深夜2時。
タイシの体が、再び光に包まれた。
**【レベルアップ!】**
**レベル650 → 658**
**【スキルレベルアップ!】**
- テレポーテーション:Lv8 → Lv11
- 空間連結術:Lv5 → Lv8
- 全属性魔法:Lv10 → Lv12
- 時間魔法:Lv8 → Lv10
**【新規スキル習得!】**
- 瞬間連続移動:Lv1
- 空間掌握:Lv3
タイシは驚いた。
「魔法レベルが、Lv10を超えた!」
「全属性魔法がLv12…」
「テレポーテーションがLv11…」
「そして、新しいスキルが2つ!」
タイシは、新しいスキルを試した。
「瞬間連続移動」
タイシの姿が、連続で消えた。
屋上。
100メートル先の建物。
200メートル先の塔。
王宮の城壁。
中央広場。
スミス商会の屋上。
一瞬で、5回連続のテレポーテーション。
しかも、魔力消費は通常の半分以下。
「これは…凄い」
「戦場で、この機動力があれば」
「30名を相手にしても、十分戦える」
タイシは、もう一つのスキルを確認した。
「空間掌握」
タイシが魔力を解放すると
周囲100メートルの空間が、タイシの支配下に入った。
この範囲内では、タイシは全てを感知できる。
敵の位置。
動き。
魔力の流れ。
全てが、手に取るように分かる。
「これなら」
タイシは確信した。
「勝てる」
「必ず、勝つ」
タイシは、夜明けまで修練を続けた。
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翌朝。
タイシは、村へ戻った。
統括型ゴーレムが報告した。
「マスター、ゴーレム生産を最大速度で実行中です」
「現在、戦闘型ゴーレム320体」
「あと2日で、500体に到達します」
「よし」
タイシは頷いた。
「人型ゴーレム50体は?」
「全て準備完了です」
「いつでも王都へ派遣できます」
「分かった」
タイシは指示した。
「人型ゴーレム50体を、今すぐ王都へ」
「スミス商会の地下に配置しろ」
「決戦の時まで、待機だ」
「イエス、マスター」
タイシは、自分の部屋に戻った。
そして、ベッドに倒れ込んだ。
*2日間、ほとんど寝ていない*
*だが、やるべきことは終わった*
*あとは*
*決戦の日を待つだけだ*
タイシは、深い眠りに落ちた。
だが、その脳裏には
戦場の光景が、断片的に浮かんでいた。
*未来視か…*
*決戦の日の、光景*
*私は、戦っている*
*多数の敵と*
*そして*
ビジョンは、そこで途切れた。
タイシは、目を覚ました。
「まだ…未来は定まっていない」
「結果は、私たち次第だ」
タイシは、再び目を閉じた。
決戦まで、あと2日。
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