第三部:革命の嵐 第一章:新時代の幕開け
マルクス伯爵の暗殺計画が失敗してから、1ヶ月が経過した。
王都は、大きく変わりつつあった。
中央広場には、新しい掲示板が設置されていた。
『改革委員会からのお知らせ』
「来月より、無料診療所を王都に3箇所開設します」
「場所:南区、東区、北区」
「平民の皆様は、誰でも無料で診察を受けられます」
民衆が、掲示板の前に集まっていた。
「本当か!?」
「無料で医者にかかれるのか!?」
「すごい! 子供が病気になっても、もう心配ない!」
別の掲示板には
「平民のための学校を、来月開校します」
「授業料:無料」
「対象:6歳から14歳までの子供」
「読み書きと計算を教えます」
母親たちが、涙を流していた。
「うちの子も、勉強できるんだ…」
「文字が読めるようになれば、もっといい仕事に就ける…」
「タイシ様、ありがとう…」
王都の空気が、明らかに変わっていた。
希望に満ちた空気。
---
王宮の改革委員会室。
タイシ、マイケル、エドガー、ダリウス、そして国王と宰相が会議をしていた。
「医療と教育の準備は、順調に進んでいます」
宰相が報告した。
「診療所は3箇所とも、建物の改修が完了しました」
「医師も、各地から募集しています」
「学校も、旧貴族邸を改装して使います」
「教師は、元役人や商人の中から選んでいます」
国王が頷いた。
「素晴らしい」
「これで、平民の生活も改善される」
タイシが言った。
「ですが、陛下」
「これはまだ、序章に過ぎません」
「次の段階に進む必要があります」
「次の段階?」
国王が尋ねた。
タイシは資料を広げた。
「行政改革です」
「現在の王国行政は、全て貴族が独占しています」
「財務省、内務省、外務省、軍部」
「全ての要職は、貴族の世襲です」
「これを、実力主義に変えます」
保守派貴族の代表現在は穏健派のロベルト男爵が反論した。
「待ってください!」
「行政を平民に開放するなど、前例がありません!」
「国家運営には、経験と教育が必要です!」
「平民に、それがあると?」
ダリウスが立ち上がった。
「私は、元財務省の役人でした」
「10年間、行政に携わってきました」
「平民でも、十分に能力があります」
「問題は、機会が与えられていないことです」
マイケルも言った。
「私は商人として、王国中を回ってきました」
「各地には、優秀な平民が大勢います」
「彼らに機会を与えれば、王国はもっと発展します」
エドガーが続けた。
「騎士団でも同じです」
「平民出身の騎士は、実力があっても昇進できません」
「貴族の子弟が、自動的に高い地位につきます」
「これでは、士気が下がります」
国王は、深く考え込んだ。
「確かに…」
「貴族の世襲だけでは、優秀な人材が埋もれてしまう」
「だが」
国王は慎重に続けた。
「急激な変革は、混乱を招く」
「段階的に、進めるべきだ」
タイシが提案した。
「では、まず試験制度を導入しましょう」
「行政官の採用試験を実施します」
「貴族も平民も、同じ試験を受けます」
「成績上位者を、採用します」
「これなら、公平です」
宰相が賛同した。
「良い案です」
「試験なら、実力を客観的に測れます」
ロベルト男爵が渋々頷いた。
「…試験制度なら、まだ理解できます」
「ですが、既存の役人を解雇するわけではないですよね?」
「もちろんです」
タイシが答えた。
「既存の役人は、そのまま働いていただきます」
「ただし、新規採用は試験を通過した者だけです」
「そして」
タイシは続けた。
「既存の役人も、定期的に能力評価を受けていただきます」
「能力が不足している者は、降格もあり得ます」
保守派貴族たちの顔が、強張った。
だが、反論できなかった。
国王が宣言した。
「では、試験制度の導入を決定する」
「3ヶ月後、第一回行政官採用試験を実施する」
「宰相、準備を進めてくれ」
「はい、陛下」
会議は終了した。
---
会議の後。
タイシは、マイケルたちと共に王宮の廊下を歩いていた。
「タイシ様、今日も素晴らしかったです」
マイケルが言った。
「試験制度の導入、大きな一歩ですね」
「でも、まだ抵抗があるわね」
マーガレットが心配そうに言った。
「保守派貴族たちは、まだ諦めていないと思うわ」
タイシは頷いた。
「その通りです」
「マルクス伯爵は、今は静かにしていますが」
「必ず、また動き出します」
「それに」
タイシは窓の外を見た。
「他にも、懸念材料があります」
「懸念材料?」
エドガーが尋ねた。
「何ですか?」
「他国の動きです」
タイシが説明した。
「王国の改革は、周辺国にも知られています」
「平民が力を持つ国」
「これは、貴族制度を維持する他国にとって、脅威です」
「まさか…」
ダリウスが言った。
「他国が、介入してくる?」
「可能性はあります」
タイシは真剣な表情で続けた。
「特に、東の帝国」
「あの国は、厳格な貴族制度を維持しています」
「我が国の改革が成功すれば」
「帝国の平民たちも、同じことを求めるでしょう」
「帝国の皇帝は、それを恐れているはずです」
全員が、緊張した。
「では…戦争になる可能性も?」
「はい」
タイシは頷いた。
「だからこそ、軍の改革も急ぐ必要があります」
「そして」
タイシは拳を握った。
「もっと強力な戦力が必要です」
「ゴーレム軍を、さらに増強します」
---
その夜。
タイシの村。
タイシは、統括型ゴーレムと会議をしていた。
「マスター、ゴーレム生産の進捗を報告します」
「現在、戦闘型ゴーレムは250体」
「人型戦闘ゴーレムは50体」
「生産中です」
タイシは頷いた。
「順調だな」
「さらに、生産速度を上げてくれ」
「目標は」
タイシは宣言した。
「戦闘型ゴーレム1000体」
「人型戦闘ゴーレム200体」
「3ヶ月以内に、この戦力を揃える」
「イエス、マスター」
「それと」
タイシは新しい設計図を見せた。
「新型のゴーレムを開発する」
「飛行型ゴーレム」
「空を飛び、偵察と爆撃ができるゴーレムだ」
統括型ゴーレムが分析した。
「設計図を確認しました」
「製造可能です」
「ただし、飛行魔法陣の調整が必要です」
「完成まで、2ヶ月かかります」
「分かった」
タイシは続けた。
「それと、もう一つ」
「攻城型ゴーレムも作る」
「城壁を破壊できる、巨大なゴーレムだ」
「高さ10メートル」
「重装甲で、攻城槌を装備する」
統括型ゴーレムが計算した。
「攻城型ゴーレムは、資源が大量に必要です」
「鉄鉱石、ミスリル、魔石」
「通常のゴーレムの10倍の資源です」
「問題ない」
タイシが答えた。
「資源は、商人ネットワークを通じて調達する」
「マイケルさんに協力を依頼する」
「イエス、マスター」
タイシは、村の外を見た。
遠くに、王都の灯りが見える。
*来るべき戦いに備えなければならない*
*帝国との戦争*
*保守派貴族の最後の抵抗*
*全てを乗り越えて、新しい王国を作る*
タイシの決意は、揺るがなかった。
---
**第三部 第一章 了**
---




