第十九章:公爵の怒り
その日の夕方。
デュランド公爵邸。
執務室に、公爵の怒声が響き渡っていた。
「何だと!? ヴィクターが逮捕された!?」
報告に来た使者が、震えながら答えた。
「はい…エドガー・フォン・ブラウン分隊長が」
「証拠捏造と職権濫用の罪で、逮捕したと…」
「馬鹿な!」
公爵は椅子を蹴飛ばした。
「あの無能め! 失敗したのか!」
使者は、さらに続けた。
「それと…スミス商会が、証拠の映像を持っているそうです」
「ヴィクターが、禁制の魔導書を隠す現場を記録した映像を」
公爵の顔色が変わった。
「映像…だと?」
「はい。記録型の魔法道具だそうです」
「それには、ヴィクターの声も記録されていて…」
使者は恐る恐る続けた。
「『これは、デュランド公爵の命令で』と言ってしまったそうです」
公爵は、絶句した。
*あの馬鹿め…!*
*俺の名前を出したのか!?*
「すぐに手を打たねば…」
公爵は冷や汗を流した。
「その映像が公表されれば、俺も終わりだ」
公爵は、急いで手紙を書き始めた。
『保守派貴族各位へ』
『緊急事態発生』
『至急、対策会議を』
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その夜。
保守派貴族たちが、再び集まった。
だが、今回の雰囲気は重苦しい。
「諸君」
デュランド公爵が口を開いた。
「ヴィクターが失敗した」
「それどころか、我々の関与まで明らかになりかけている」
マルクス伯爵が尋ねた。
「映像とは、どういうものですか?」
「記録型の魔法道具だ」
公爵が答えた。
「スミス商会が、倉庫に隠していた」
「ヴィクターが罠を仕掛ける現場を、全て記録していた」
貴族たちは、ざわついた。
「そんな高度な魔法道具が…」
「どこで手に入れたんだ?」
「おそらく」
公爵は推測した。
「スミス商会の背後にいる人物だ」
「タイシとかいう、謎の商人」
「その男が、高度な魔法技術を持っているに違いない」
フェルディナンド子爵が言った。
「ならば、そのタイシという人物を探し出して」
「排除すべきでは?」
「問題は」
公爵が苦い顔をした。
「タイシの居場所が分からないことだ」
「スミス商会も、決して明かさない」
「ダークウッドの森の奥、としか分からない」
「では、森を探索しますか?」
マルクス伯爵が提案した。
「軍を動員して」
「いや」
公爵は首を振った。
「ダークウッドの森は広大だ」
「何千、何万という兵を動員しても、見つけられるかどうか」
「それに」
公爵は続けた。
「今、我々がすべきは、証拠の映像を抹殺することだ」
「スミス商会を襲撃して、映像を奪い取る」
「そして、証拠を消す」
貴族たちは、少し考えてから頷いた。
「分かりました」
「では、いつ実行しますか?」
「明日の深夜」
公爵が決断した。
「私兵を使う」
「騎士団は、もう信用できない」
「エドガーが寝返った可能性がある」
「承知しました」
保守派貴族たちは、最後の賭けに出ることを決めた。
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**第二部 第十九章 了**
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