第十七章:襲撃前夜
その夜。
王国騎士団本部。
エドガーは、部下たちを集めていた。
「明日、新しい任務がある」
エドガーが言った。
「デュランド公爵とヴィクター・グレイソンからの命令だ」
「スミス商会を、襲撃する」
騎士たちがざわついた。
「襲撃ですか!?」
「監視じゃなくて?」
「命令だ」
エドガーは表情を変えずに言った。
「理由は、スミス商会が王国騎士団に攻撃を仕掛けたため、だそうだ」
「え? そんなことありましたか?」
一人の騎士が尋ねた。
「俺は、何も攻撃されてませんが…」
「私も知らない」
エドガーは冷静に答えた。
「だが、それが公式の理由だ」
騎士たちは顔を見合わせた。
*これは…おかしい*
*明らかに、でっち上げだ*
エドガーは続けた。
「明日の朝、夜明けと共に襲撃する」
「武装して、店を包囲しろ」
「抵抗すれば、実力行使も辞さない」
「はい…」
騎士たちは、釈然としない様子で答えた。
「解散」
エドガーが告げた。
騎士たちが散っていく。
エドガーは一人、詰所に残った。
*これは…不正な命令だ*
*証拠もなく、平民商人を襲撃する*
*騎士として、こんなことをしていいのか?*
エドガーは、マイケルから預かった証拠を思い出した。
*ヴィクターとデュランド公爵の賄賂の証拠*
*これを、今公表すれば…*
*いや、まだ早い*
*もっと決定的な瞬間に*
エドガーは、ある計画を思いついた。
*襲撃の現場で、公表する*
*民衆の前で、ヴィクターの不正を暴く*
*そうすれば、誰もが真実を知る*
エドガーは決意した。
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同じ頃。
スミス商会。
アルファが、マイケルに緊急報告をしていた。
「マイケル様、重大な情報です」
「何だ?」
「明日の朝、王国騎士団がこの店を襲撃します」
アルファが言った。
「襲撃!?」
マイケル、マーガレット、レイチェル、ブライアンたちが驚いた。
「はい。理由は、『スミス商会が騎士団に攻撃した』という、でっち上げです」
「そんな!」
マーガレットが叫んだ。
「私たちは何もしていないのに!」
「完全に自作自演です」
アルファが説明した。
「ヴィクターが、襲撃の口実を作ったのです」
ブライアンが拳を握った。
「卑劣な…!」
「どうする、マイケルさん?」
ガイが尋ねた。
「逃げるか? それとも戦うか?」
マイケルは深呼吸した。
「タイシ様に連絡します」
マイケルは通信魔石を取り出した。
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タイシの村。
タイシは通信魔石から、マイケルの報告を聞いていた。
『明日の朝、騎士団が襲撃してきます』
『でっち上げの理由で』
「そうですか…ついに、向こうが仕掛けてきましたね」
タイシは冷静に答えた。
「マイケルさん、落ち着いてください」
「これは、チャンスです」
『チャンス…ですか?』
「はい」
タイシが説明した。
「ヴィクターが、不正な襲撃を仕掛ける」
「それを、民衆の前で証明できれば」
「王国の腐敗を、広く知らしめることができます」
「そして」
タイシの声が鋭くなった。
「私が、直接王都へ向かいます」
『タイシ様が!?』
「はい。もう、隠れている段階は終わりました」
タイシは断言した。
「私は、マイケルさんたちを守ります」
「そして、ヴィクターとデュランド公爵に、報いを受けてもらいます」
マイケルは感動で震えた。
『ありがとうございます…』
「準備してください」
タイシが命じた。
「明日の朝、襲撃が始まったら」
「アルファたちに防戦させてください」
「騎士団を傷つけない程度に」
「民衆に、騎士団の不正を見せつけるのです」
「そして、私が到着したら」
タイシの声が低くなった。
「全てを終わらせます」
『承知しました』
通信が切れた。
タイシは統括型ゴーレムを呼んだ。
「はい、マスター」
「全ゴーレム軍を集結させろ」
タイシが命じた。
「戦闘型ゴーレム100体」
「防衛型ゴーレム50体」
「運搬型ゴーレム20体」
「偵察型ゴーレム10体」
「全て、王都へ向かう」
「イエス、マスター」
「それと」
タイシは続けた。
「伝説級装備を100セット、準備しろ」
「マイケルさんたちの仲間に配る」
「承知しました」
タイシは窓の外を見た。
夜空に、満月が浮かんでいる。
「ついに…王国との戦いが始まる」
タイシは呟いた。
「この5年間、準備してきた」
「もう、後戻りはできない」
タイシの目に、決意の光が宿った。
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**第二部 第十七章 了**
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