第十六章:王国の闇
数日後。
王国の中央議事堂。
保守派貴族たちが集まる会議室。
デュランド公爵を中心に、約20名の貴族が円卓を囲んでいた。
「諸君」
デュランド公爵が口を開いた。
「スミス商会の件だが、思ったより厄介だ」
「騎士団が10日間監視しても、何も出てこない」
一人の貴族マルクス伯爵が言った。
「あの査察官ヴィクターは何をしているのです?」
「有能だと聞いていましたが」
「それが問題だ」
公爵は顔をしかめた。
「ヴィクターの部下、ダリウス、レオン、マルコという3人が」
「スミス商会に寝返ったらしい」
「何ですと!?」
貴族たちがざわついた。
「寝返った? なぜです?」
「森で魔物に襲われた際、スミス商会に助けられたそうだ」
公爵が説明した。
「それ以降、ヴィクターの命令に従わず」
「数日前に辞職した」
「今は、スミス商会側についている可能性が高い」
フェルディナンド子爵が言った。
「それは…まずいですな」
「元財務省の役人となれば、内部情報を知っている」
「我々の動きも、筒抜けかもしれません」
「その通りだ」
公爵は苦い顔をした。
「だからこそ、早急に手を打たねばならない」
「いっそのこと、強硬手段に出てはどうか?」
マルクス伯爵が提案した。
「証拠がないなら、証拠を作ればいい」
「証拠を…作る?」
「そうです」
マルクス伯爵は冷たく微笑んだ。
「例えば、禁制の魔導書を密かにスミス商会の倉庫に置く」
「そして、それを発見したことにする」
「禁制品所持の罪で、逮捕できます」
貴族たちは、少し考えてから頷いた。
「卑怯な手だが…」
「背に腹は代えられない」
「異議なし」
デュランド公爵は決断した。
「では、そうしよう」
「ヴィクターに、証拠の捏造を命じる」
「禁制の魔導書を用意して、スミス商会の倉庫に置かせる」
「そして」
公爵の目が冷たくなった。
「もし、スミス商会が抵抗すれば」
「国家反逆罪で告発する」
「そうすれば、合法的に全てを押収できる」
「完璧ですな」
フェルディナンド子爵が言った。
「では、いつ実行しますか?」
「今夜」
公爵が答えた。
「今夜、ヴィクターに密かに倉庫へ侵入させる」
「明日には、襲撃する」
保守派貴族たちは、不正な手段を使ってでも、スミス商会を潰すことを決めた。
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その日の夕方。
王国財務省の執務室。
ヴィクター・グレイソンは、デュランド公爵からの使者を迎えていた。
「公爵からの命令だ」
使者が密書を渡した。
ヴィクターは密書を読んだ。
『今夜、スミス商会の倉庫に禁制の魔導書を隠せ』
『明日、騎士団と共に襲撃し、それを発見したことにしろ』
『成功すれば、準貴族の称号を与える』
ヴィクターの目が輝いた。
*準貴族…!*
*ついに、俺も貴族になれる!*
「承知した」
ヴィクターは使者に答えた。
「必ず成功させる」
使者は去っていった。
ヴィクターは、執務室に残った数少ない部下を呼んだ。
ダリウスたちが辞職してから、信頼できる部下は2人だけになっていた。
「今夜、秘密の任務がある」
ヴィクターが命じた。
「スミス商会の倉庫に、これを隠す」
ヴィクターは、重い本を見せた。
『死霊魔法大全』
王国で所持が禁止されている、危険な魔導書だ。
「これを、倉庫の奥の棚の裏に隠す」
「誰にも見られるな」
「承知しました」
部下たちが頷いた。
ヴィクターの口元に、邪悪な笑みが浮かんだ。
*スミス商会よ*
*お前たちの時代は終わりだ*
*俺が、貴族になるための踏み台になれ*
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だが
この会話は、誰かに聞かれていた。
デュランド公爵邸の屋根裏。
保守派貴族の会議室の天井裏。
そして、ヴィクターの執務室の換気口。
小さな人影が、じっと息を潜めていた。
偵察型ゴーレム。
タイシが王都に送り込んだ、監視用のゴーレムだ。
鳥ほどの大きさで、人間の目には見えにくい。
だが、聴覚は鋭く、すべての会話を記録していた。
*マスター・タイシに報告*
*デュランド公爵と保守派貴族が証拠捏造を計画*
*ヴィクターが今夜、禁制の魔導書を倉庫に隠す*
*明日、襲撃予定*
偵察型ゴーレムは、通信魔法でタイシに連絡した。
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タイシの村。
タイシは、偵察型ゴーレムからの報告を受け取った。
「なるほど…証拠捏造か」
タイシは冷静に呟いた。
「予想通りだ」
「保守派貴族は、ここまで腐っている」
統括型ゴーレムが尋ねた。
「マスター、マイケル様に警告しますか?」
「はい」
タイシは頷いた。
「すぐに連絡します」
「それと」
タイシの目が鋭くなった。
「記録型ゴーレムを追加で送ります」
「ヴィクターが罠を仕掛ける現場を、全て記録する」
「そして、それを証拠として公表します」
「イエス、マスター」
統括型ゴーレムが工房へ向かった。
タイシは通信魔石を取り出した。
「マイケルさん、緊急です」
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