第十四章:エドガーの疑念
数日後。
王国騎士団第三分隊の詰所。
エドガー・フォン・ブラウンは、報告書を書いていた。
『スミス商会の監視報告』
『監視開始から5日目』
『特に怪しい動きは見られず』
『商人は、通常通り営業を続けている』
『客の出入りも、普通の商会と変わらない』
エドガーは羽ペンを置いた。
*おかしい*
*これだけ監視しているのに、何も出てこない*
*本当に、ただの商人なのか?*
エドガーは違和感を覚えていた。
デュランド公爵とヴィクター・グレイソンは、スミス商会を「危険な存在」として監視させている。
だが
5日間監視しても、何も出てこない。
*なぜ、公爵はこの商人をここまで警戒する?*
*密輸組織との繋がりがあるというが、証拠はあるのか?*
エドガーは、疑問を抱き始めていた。
その時
部下の騎士が入ってきた。
「分隊長、報告です」
「何だ?」
「スミス商会の客の中に、元財務省の役人がいました」
騎士が報告した。
「ダリウス、レオン、マルコという3人です」
「元財務省?」
エドガーは眉をひそめた。
「なぜ、元役人が商会に出入りしている?」
「それが…彼らは、ヴィクター・グレイソン査察官の元部下だったそうです」
「ヴィクターの元部下だと!?」
エドガーは驚いた。
「今は、辞職しているようです」
騎士が続けた。
「理由は不明ですが、数日前に突然辞めたと」
エドガーは考え込んだ。
*ヴィクターの元部下が、スミス商会に出入り*
*しかも、辞職したばかり*
*これは…何を意味する?*
「引き続き監視しろ」
エドガーが命じた。
「その3人の動きも、詳しく調べろ」
「はい!」
騎士が出ていった。
エドガーは一人、窓の外を見た。
*この任務…何かがおかしい*
*公爵は、何を隠している?*
*ヴィクターは、何を企んでいる?*
エドガーは、真実を知りたいと思った。
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その夜。
エドガーは、ある人物に会うために王都の外れへ向かった。
古い酒場。
中に入ると、カウンターの奥に一人の老人が座っていた。
「久しぶりだな、エドガー」
老人が言った。
「師匠」
エドガーは頭を下げた。
この老人ギルバートは、エドガーの剣の師匠だった。
元王国騎士団の団長。
引退した今も、王都の情報通として知られている。
「相談があって来ました」
エドガーが言った。
「ほう」
ギルバートは興味深そうに見た。
「お前が相談とは珍しいな」
「今、ある任務を受けています」
エドガーは説明した。
「スミス商会という商人を監視する任務です」
「デュランド公爵からの直接命令で」
「スミス商会…」
ギルバートは少し考えた。
「ああ、最近話題になっている商会だな」
「大競売会で、大量の高級品を出品したという」
「そうです」
エドガーは続けた。
「ですが、監視しても何も出てこないんです」
「本当に、ただの商人にしか見えない」
「なのに、なぜ公爵はこんなに警戒するのか」
「疑問に思っているのか」
ギルバートが言った。
「はい」
「エドガー」
ギルバートは真剣な顔になった。
「お前は、良い騎士だ」
「命令に忠実で、実力もある」
「だが」
ギルバートは続けた。
「時には、命令を疑う勇気も必要だ」
「特に、その命令が不正なものであれば」
エドガーは驚いた。
「師匠…それは…」
「私は何も言っていない」
ギルバートは微笑んだ。
「ただ、一つだけ忠告する」
「デュランド公爵とヴィクター・グレイソンを、信用するな」
「彼らは、自分の利益のために動いている」
「正義のためではない」
エドガーは、師匠の言葉を噛み締めた。
「分かりました」
「ありがとうございます」
エドガーは酒場を後にした。
*師匠は、何か知っている*
*デュランド公爵とヴィクターが、不正を働いている可能性*
*ならば*
*俺は、真実を見極めなければならない*
エドガーは、決意した。
騎士として。
正義のために。
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