第十三章:証拠
翌朝。
スミス商会の事務所。
ダリウスたち3人が、興奮した様子で戻ってきた。
「マイケル様!」
ダリウスが叫んだ。
「重要な証拠を手に入れました!」
マイケル、マーガレット、レイチェル、そしてブライアンたちが集まってきた。
「証拠?」
マイケルが尋ねた。
「はい!」
ダリウスは書類を広げた。
「これは、ヴィクター・グレイソンの秘密の銀行口座の記録です」
「デュランド公爵から、定期的に賄賂を受け取っていた証拠です」
「総額、金貨50万枚以上!」
一同は息を呑んだ。
「50万枚!?」
マーガレットが驚いた。
「これは…すごい証拠だわ!」
レイチェルも興奮している。
「これがあれば、ヴィクターを告発できます!」
「賄賂罪で、彼を失脚させられます!」
だが
マイケルは冷静だった。
「待て」
マイケルが手を上げた。
「この証拠を、どう使うかが問題だ」
「どういうことですか?」
ダリウスが尋ねた。
「考えてみろ」
マイケルは説明した。
「ヴィクターは、デュランド公爵の犬だ」
「公爵から賄賂を受け取っていた」
「だが、その公爵は保守派貴族の中心人物だ」
「つまり」
マイケルは続けた。
「この証拠を王国に提出しても、握り潰される可能性が高い」
「保守派貴族たちが、証拠を隠滅するかもしれない」
「それに、俺たちが告発者として名乗り出れば」
「逆に、俺たちが攻撃される」
「なるほど…」
ダリウスは理解した。
「では、どうすれば…」
マイケルは少し考えてから、言った。
「タイシ様に相談しよう」
マイケルは通信魔石を取り出した。
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タイシの村。
タイシは通信魔石から、マイケルの報告を聞いていた。
『ヴィクターの賄賂の証拠を手に入れました』
『総額、金貨50万枚以上です』
『デュランド公爵からの送金記録です』
「それは素晴らしい」
タイシは感心した。
「よくやりましたね、ダリウスさんたち」
『ありがとうございます』
『ですが、どう使うべきか悩んでいます』
「そうですね…」
タイシは考えた。
「この証拠は、今すぐ使うべきではありません」
『え?』
「今、この証拠を公表しても、保守派貴族に握り潰されます」
タイシが説明した。
「それより」
「この証拠を、切り札として取っておきましょう」
「いざという時に使う」
『いざという時…ですか?』
「はい」
タイシは続けた。
「もし、ヴィクターが私たちに対して決定的な攻撃をしてきたら」
「その時に、この証拠を使います」
「民衆に向けて、公表するのです」
「王国の腐敗を、広く知らしめる」
マイケルは理解した。
『なるほど…』
『民衆の支持を得るために』
「その通りです」
タイシが言った。
「私たちは、いずれ王国と戦うことになります」
「その時、民衆が味方でなければ勝てません」
「だから、今は証拠を温存しておく」
「そして」
タイシの声が低くなった。
「ヴィクターとデュランド公爵を泳がせる」
「彼らが自滅するまで」
マイケルは背筋が寒くなるのを感じた。
*タイシ様は…本当に、すべてを計算している*
*この少年は…恐ろしいほど賢い*
『承知しました』
マイケルが答えた。
『証拠は、大切に保管します』
「お願いします」
タイシが言った。
「それと」
「マイケルさん、もう一つお願いがあります」
『何でしょうか?』
「ダリウスさんたちに、もっと情報を集めてもらってください」
タイシが続けた。
「デュランド公爵の人脈」
「保守派貴族のリスト」
「王国騎士団の内部事情」
「全て、知りたいです」
「いずれ戦う相手のことを、詳しく知る必要があります」
『分かりました』
マイケルは頷いた。
『ダリウスたちに伝えます』
通信が切れた。
マイケルは、ダリウスたち3人を見た。
「聞いての通りだ」
「証拠は、今は使わない」
「その代わり」
マイケルの目が真剣になった。
「もっと情報を集めてくれ」
「保守派貴族、騎士団、王国の内部」
「全て」
ダリウスたちは頷いた。
「承知しました!」
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