第十二章:監視
翌日。
スミス商会の周辺に、王国騎士団の姿が現れた。
黒と銀の鎧を着た騎士たち。
店の前、裏通り、屋根の上あらゆる場所に配置されている。
「すごい監視だな…」
クリスが窓から外を見て呟いた。
「どこを見ても、騎士がいる」
「完全に包囲されてるわ」
アマンダも不安そうだ。
だが、マイケルは冷静だった。
「気にするな」
「俺たちは、何も悪いことをしていない」
「普段通り、商売を続けろ」
「はい!」
見習いたちが頷いた。
店の前に、一人の騎士が立っていた。
エドガー・フォン・ブラウン。
「マイケル・スミスはいるか」
エドガーが尋ねた。
マイケルが店から出てきた。
「私がマイケル・スミスですが」
「王国騎士団第三分隊、分隊長エドガー・フォン・ブラウンだ」
エドガーが名乗った。
「これより、この店を監視する」
「デュランド公爵からの命令だ」
「監視?」
マイケルは眉をひそめた。
「何の容疑で?」
「密輸組織との繋がりが疑われている」
エドガーが答えた。
「お前の行動を、全て監視させてもらう」
「もし怪しい動きがあれば、即座に拘束する」
マイケルは冷静に答えた。
「私たちは、合法的に商売をしています」
「監視されても、何も出てきませんよ」
「それは、こちらが判断する」
エドガーは一歩近づいた。
「一つ忠告しておく」
「余計な抵抗はするな」
「騎士団に逆らえば、国家反逆罪だ」
マイケルは動じなかった。
「分かっています」
「私たちは、法を守る善良な市民です」
エドガーはマイケルの目を見た。
*この男…怯えていない*
*普通の商人なら、騎士団に囲まれれば震え上がるはずだが*
*何か、隠しているのか?*
「では、邪魔はしない」
エドガーは一歩下がった。
「だが、見張っているからな」
そう言って、エドガーは店の前の建物に入っていった。
そこから、店全体を見渡せる。
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その日の夕方。
スミス商会の事務所。
マイケルたちが集まっていた。
「これは…厳しいな」
ブライアンが呟いた。
「24時間監視されている」
「外出もままならない」
「どうするんですか、マイケルさん?」
レイチェルが尋ねた。
「普段通りだ」
マイケルは答えた。
「取引も、商売も、全て普通に続ける」
「ただし、タイシ様の村への訪問は控える」
「今は、時間を稼ぐ」
「ヴィクターたちが、次にどう動くか見極める」
ダリウスが前に出た。
「マイケル様、一つ提案があります」
「何だ?」
「俺たちが、王国内部の情報を集めます」
ダリウスが説明した。
「元財務省の人間として、人脈があります」
「デュランド公爵や保守派貴族の動きを探れます」
「それに、ヴィクターの弱点も調べられるかもしれません」
マイケルは頷いた。
「頼む」
「情報は、何よりも武器だ」
「承知しました」
ダリウス、レオン、マルコの3人が立ち上がった。
「では、今夜から動きます」
「気をつけてくれ」
3人は店の裏口から出ていった。
騎士たちの監視の目をかいくぐって。
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深夜。
王都の貴族街。
ダリウスたちは、ある酒場にいた。
「久しぶりだな、ダリウス」
カウンターの向こうから、中年の男が声をかけた。
「ああ、ジョージ」
ダリウスが答えた。
ジョージは、元財務省の役人だった。
今は退職して、この酒場を経営している。
だが
彼は、王国の裏情報に詳しい男だった。
「聞きたいことがある」
ダリウスが小声で言った。
「デュランド公爵と、ヴィクター・グレイソンについて」
ジョージの表情が曇った。
「危ない話だな」
「頼む。俺は、ある商人の味方になった」
「その商人が、今、ヴィクターに狙われている」
「助けたいんだ」
ジョージは少し考えてから、頷いた。
「分かった。だが、ここでは話せない」
「裏の部屋に来い」
ダリウスたち3人は、ジョージについて裏部屋へ向かった。
扉を閉めると、ジョージが話し始めた。
「デュランド公爵は、保守派貴族の中心人物だ」
「王国の現体制を維持しようとしている」
「特に、平民が力を持つことを嫌っている」
「そして、ヴィクター・グレイソンは」
ジョージの目が鋭くなった。
「公爵の犬だ」
「平民出身でありながら、貴族に取り入って出世した男」
「同じ平民を踏み台にして、自分だけが上に登ろうとしている」
「俺も、昔、あいつに陥れられたことがある」
ダリウスは驚いた。
「そうだったのか…」
「ああ」
ジョージは苦い顔をした。
「だから、俺は辞めた」
「あんな腐った組織にいられるか、とな」
「ジョージ、もっと詳しく教えてくれ」
レオンが言った。
「ヴィクターの弱点は何だ?」
ジョージは少し考えてから、答えた。
「金だ」
「金?」
「ああ。ヴィクターは、表向きは清廉潔白だが」
「裏では、賄賂を受け取っている」
「デュランド公爵から、な」
マルコが驚いた。
「証拠はあるのか?」
「ある」
ジョージは引き出しから、一通の書類を取り出した。
「これは、ヴィクターの秘密の銀行口座の記録だ」
「俺が、まだ財務省にいた時に、こっそりコピーしておいた」
ダリウスが書類を見た。
そこには
デュランド公爵からの定期的な送金記録が記されていた。
総額、金貨50万枚以上。
「これは…!」
ダリウスが息を呑んだ。
「この証拠があれば、ヴィクターを追い詰められる!」
「持っていけ」
ジョージが書類を渡した。
「俺の恨みも、晴らしてくれ」
「ありがとう、ジョージ」
ダリウスは深々と頭を下げた。
3人は酒場を後にした。
手には、ヴィクターの命運を左右する証拠。
*これで、反撃できる*
ダリウスは、希望を感じた。
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