第十一章:騎士団の影
翌朝。
デュランド公爵邸。
豪華な執務室で、公爵はヴィクターからの新しい報告書を読んでいた。
「スミス商会が護衛を強化…B級冒険者パーティー5人か」
公爵は報告書を置いた。
「それに対抗するために、王国騎士団の協力を求めると?」
「はい、閣下」
ヴィクターが恭しく答えた。
「スミス商会は、明らかに何か隠しています」
「ゴーレムトラックの技術は、王国の安全保障に関わる重要な技術です」
「これを平民商人に独占させるわけにはいきません」
公爵は少し考えてから、頷いた。
「分かった。王国騎士団の第三分隊を動かそう」
「分隊長はエドガー・フォン・ブラウン」
「A級の実力を持つ騎士だ」
「ありがとうございます!」
ヴィクターは深々と頭を下げた。
「それと」
公爵が続けた。
「保守派の貴族たちにも根回しをしておく」
「もしスミス商会が抵抗すれば、国家反逆罪で告発する」
「そうすれば、合法的に全てを押収できる」
ヴィクターの口元に、冷たい笑みが浮かんだ。
「完璧です、閣下」
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その日の午後。
王国騎士団本部。
第三分隊の詰所に、分隊長エドガー・フォン・ブラウンが立っていた。
30代後半の男。黒髪に鋭い目つき。傷だらけの顔。
A級冒険者に匹敵する実力を持つ、歴戦の騎士だ。
「集合!」
エドガーの声が響いた。
第三分隊の騎士たち20人が整列する。
全員、B級以上の実力者だ。
「これより、新しい任務を告げる」
エドガーが命令書を読み上げた。
「スミス商会という商人を監視する」
「デュランド公爵からの命令だ」
「密輸組織との繋がりが疑われている」
「もし抵抗すれば、実力行使も辞さない」
騎士たちがざわついた。
「商人の監視ですか?」
一人の騎士が尋ねた。
「そんなこと、俺たち騎士団の仕事じゃないんじゃ…」
「命令だ」
エドガーが冷たく言った。
「公爵からの直接命令に、逆らうのか?」
騎士は黙り込んだ。
「準備しろ。明日から監視を開始する」
「はい!」
騎士たちが散っていく。
エドガーは一人、窓の外を見た。
*スミス商会…*
*ただの商人のはずだが*
*なぜ、公爵がここまで執着する?*
エドガーは違和感を覚えていた。
だが
命令は命令だ。
騎士として、従うしかない。
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同じ頃。
スミス商会の事務所。
アルファが、マイケルに報告していた。
「マイケル様、王国騎士団が動いています」
「騎士団が?」
マイケルが驚いた。
「はい。第三分隊、20人」
アルファが説明した。
「分隊長はエドガー・フォン・ブラウン」
「A級の実力を持つ騎士です」
「明日から、この店の監視を開始するようです」
マイケルは顔色を変えた。
「騎士団まで動かすとは…」
「ヴィクターめ、本気だな」
ブライアンが険しい顔をした。
「A級騎士か…厄介だな」
「俺たちB級冒険者では、太刀打ちできないかもしれない」
「大丈夫です」
アルファが冷静に言った。
「私たちは、A級相当の戦闘力を持っています」
「騎士団20人でも、対応できます」
「だが」
ガイが心配そうに言った。
「騎士団と戦えば、国家反逆罪だぞ」
「王国全体を敵に回すことになる」
マイケルは深呼吸した。
「タイシ様に連絡します」
マイケルは通信魔石を取り出した。
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タイシの村。
タイシは通信魔石から、マイケルの報告を聞いていた。
『王国騎士団が動きました』
『第三分隊、20人です』
『分隊長はA級騎士です』
「なるほど…ついに騎士団まで動かしてきたか」
タイシは冷静に答えた。
「マイケルさん、慌てないでください」
「騎士団が来ても、戦闘にはなりません」
『え?』
「彼らは、まず監視から始めるはずです」
タイシが説明した。
「いきなり襲撃はしない」
「証拠がないからです」
「だから、普段通り商売を続けてください」
「何も怪しいことはしていないように振る舞う」
『分かりました』
マイケルが答えた。
「ただし」
タイシの声が鋭くなった。
「もし、騎士団が不当な暴力を振るうなら」
「アルファたちに反撃させてください」
「騎士団相手でも、容赦しません」
『タイシ様…』
「私は、マイケルさんたちを守ります」
タイシは断言した。
「何があっても」
「それに」
タイシは続けた。
「この機会に、王国の腐敗を証明できるかもしれません」
「騎士団が平民商人を不当に弾圧する」
「それを証拠として残せば、民衆の支持を得られます」
マイケルは驚いた。
*タイシ様は、もうそこまで考えているのか*
*王国との全面対決を…*
『承知しました』
マイケルが答えた。
通信が切れた後、タイシは統括型ゴーレムを呼んだ。
「はい、マスター」
「戦闘型ゴーレムをさらに50体製造しろ」
タイシが命じた。
「騎士団との戦闘に備える」
「それと、偵察型ゴーレムを10体、王都に送れ」
「王国騎士団の動きを監視する」
「イエス、マスター」
タイシは窓の外を見た。
「ヴィクター・グレイソン…デュランド公爵…」
タイシは呟いた。
「お前たちが先に仕掛けてきたなら」
「こちらも本気で対応する」
タイシの目に、冷たい決意が宿った。
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