第十章:護衛到着
3日後。
スミス商会に、5人の「冒険者」が訪れた。
「マイケル・スミス様はいらっしゃいますか?」
リーダー格の男が尋ねた。
30代に見える、黒髪の男。鋭い目つき。
「私がマイケル・スミスですが…」
マイケルが応対した。
「タイシ様からの紹介で参りました」
男が小声で言った。
「護衛の依頼を受けております」
「!」
マイケルは理解した。
*この人たちが、タイシ様が送ってくれた…*
「分かりました。どうぞお入りください」
マイケルは5人を事務所に案内した。
扉を閉めると
「改めまして」
リーダーの男が言った。
「私はアルファと申します」
「こちらは、ベータ、ガンマ、デルタ、イプシロンです」
5人の「冒険者」が並んだ。
全員、人間にしか見えない。
だが
マイケルは気づいた。
*この人たちから、魔力の波動がない*
*人間ではない…ゴーレムだ!*
「私たちは、タイシ様が製造した人型戦闘ゴーレムです」
アルファが説明した。
「外見は人間と同じですが、内部は魔導機械です」
「戦闘能力は、A級冒険者相当」
「あなた方を、24時間体制で護衛します」
マイケルは驚愕した。
「人間と見分けがつかない…こんなことまでできるのか…」
「タイシ様の技術は、日々進化しています」
アルファが微笑んだ。
完璧な笑顔。
本当に、人間にしか見えない。
「よろしくお願いします」
マイケルは深々と頭を下げた。
「こちらこそ」
アルファたち5体のゴーレムが頭を下げた。
その後、マイケルは全員に5人を紹介した。
「今日から、新しい護衛の方々が加わります」
「アルファさんたち5人です」
ブライアンが5人を見た。
「冒険者か?」
「はい」
アルファが答えた。
「B級冒険者パーティー『鋼鉄の守護者』です」
「B級か…」
ブライアンは納得した。
*いや、この気配…*
*もっと強いかもしれない*
ブライアンは冒険者としての直感で感じ取った。
「よろしく頼む」
ブライアンが手を差し出した。
「よろしくお願いします」
アルファが握手を返した。
完璧な人間らしさ。
誰も、彼らがゴーレムだとは気づかない。
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その夜。
マイケルは通信魔石でタイシに報告した。
『護衛のゴーレムたち、到着しました』
『驚きました…人間にしか見えません』
「喜んでいただけて幸いです」
タイシの声が響いた。
「彼らは、最新型の人型戦闘ゴーレムです」
「外見だけでなく、会話も自然にできます」
「感情の表現も可能です」
『すごい…まるで本物の人間です』
「ただし」
タイシが注意した。
「彼らの正体は、絶対に秘密にしてください」
「もし王国に知られれば、大騒ぎになります」
『承知しています』
マイケルが答えた。
「それと」
タイシが続けた。
「アルファたちには、特別な指令を与えています」
「もし、ヴィクター・グレイソンがあなた方を襲撃しようとしたら」
「容赦なく反撃する」
「ただし、殺さない」
「生け捕りにして、私のところへ連れてくる」
『生け捕り…ですか?』
「はい」
タイシの声が冷たくなった。
「ヴィクターから、情報を聞き出します」
「デュランド公爵との繋がり、保守派貴族の陰謀」
「全て」
マイケルは背筋が凍るのを感じた。
*タイシ様は…本気だ*
*王国と戦う覚悟を、すでに決めている*
『分かりました』
マイケルが答えた。
通信が切れた。
マイケルは窓の外を見た。
夜の王都。
静かな街並み。
だが
その静けさの裏で、確実に戦いは激化していく。
*俺たちは、もう後戻りできない*
*タイシ様と共に、この国を変える*
*それが、俺たちの道だ*
マイケルは、決意を固めた。
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同じ頃。
王国財務省の執務室。
ヴィクターは、部下からの報告を聞いていた。
「スミス商会に、新しい護衛が加わったと?」
「はい」
部下が答えた。
「B級冒険者パーティー『鋼鉄の守護者』だそうです」
「5人組です」
「B級か…」
ヴィクターは舌打ちした。
「厄介だな」
「これでは、簡単に襲撃できない」
ヴィクターは考えた。
*だが、諦めるわけにはいかない*
*必ず、スミス商会の秘密を暴く*
*そのためには*
ヴィクターは、ある計画を思いついた。
「そうだ…」
ヴィクターは冷たく微笑んだ。
「護衛が増えたなら、護衛を無力化すればいい」
「A級冒険者を雇おう」
「いや」
ヴィクターは訂正した。
「王国騎士団を使おう」
「デュランド公爵に頼めば、騎士団を動かせるはずだ」
ヴィクターは羽ペンを取り、デュランド公爵への報告書を書き始めた。
『スミス商会は、護衛を強化しました』
『これに対抗するため、王国騎士団の協力を要請します』
『理由は、国家の安全保障に関わる技術の保護』
『ご許可をお願いいたします』
ヴィクターは手紙を封筒に入れた。
「これで」
ヴィクターは立ち上がった。
「スミス商会は終わりだ」
「王国騎士団が動けば、どんな護衛も無力だ」
ヴィクターの野望は、さらに膨らんでいく。
だが
彼はまだ知らなかった。
自分が相手にしているのは、ただの商人ではなく
レベル630、そしてまだ成長を続ける、規格外の存在の協力者だということを。
そして
その存在が、2万人分の伝説級装備を持ち、自律思考型ゴーレム軍を率いているということを。
ヴィクターの野望は、やがて自らを破滅へと導くことになる。
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