第九章:捜査失敗
翌朝。
デュランド公爵邸。
豪華な執務室で、デュランド公爵はヴィクターからの報告書を読んでいた。
「捜査は失敗したか…」
公爵は不機嫌な表情で報告書を置いた。
「申し訳ございません」
ヴィクターが頭を下げた。
「スミス商会は、事前に商品を隠していたようです」
「だが」
公爵は窓の外を見た。
「ゴーレムトラックの技術は、確実に存在するのだな?」
「はい」
ヴィクターは断言した。
「私の部下が目撃しています」
「10トンの荷物を運べる、巨大な自律型ゴーレム」
「そのような技術があれば…」
公爵の目が光った。
「軍事的にも、経済的にも、王国は大きく発展する」
「いや」
公爵は訂正した。
「我々保守派が、大きな力を得る」
「その通りです」
ヴィクターが同意した。
「だからこそ、その技術を手に入れなければなりません」
公爵は少し考えてから、言った。
「ヴィクター、強制捜査では駄目だ」
「相手は用心深い」
「別の方法を考えろ」
「はい」
ヴィクターは頷いた。
実は、すでに計画があった。
「閣下、一つ提案があります」
「言ってみろ」
「スミス商会を、内部から崩壊させます」
ヴィクターは説明した。
「マイケル・スミスには、妻と部下がいます」
「彼らを脅して、情報を吐かせる」
「あるいは」
ヴィクターの目が冷たくなった。
「事故に見せかけて、マイケル・スミスを始末する」
「そうすれば、商会は混乱し、技術の情報を得やすくなります」
公爵は少し考えた。
「暗殺か…」
「それは最終手段だ」
「まずは、脅迫から始めろ」
「承知しました」
ヴィクターは冷たく微笑んだ。
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その夜。
スミス商会の裏通り。
マーガレットが、一人で買い物から帰ってくるところだった。
夜の街は静かで、人通りが少ない。
その時
「マーガレット・スミス夫人」
低い声が響いた。
マーガレットは振り返った。
黒いフードをかぶった男が、立っていた。
「誰?」
マーガレットが警戒する。
「ヴィクター・グレイソン査察官からの伝言だ」
男が言った。
「スミス商会の仕入れ先を教えろ」
「そうすれば、あなたの夫も、商会も無事だ」
「だが」
男が一歩近づく。
「拒否すれば…あなたの夫に、不幸が起こるかもしれない」
マーガレットは恐怖を感じたが
毅然とした態度で答えた。
「脅しているの?」
「いいや、忠告だ」
男は冷たく笑った。
「考えておくことだな」
そう言って、男は暗闇に消えていった。
マーガレットは、急いで店へと戻った。
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スミス商会の事務所。
マーガレットが、息を切らして駆け込んできた。
「あなた!」
「マーガレット? どうした?」
マイケルが驚いた。
マーガレットは、先ほどの出来事を話した。
「脅迫だと!?」
マイケルの顔色が変わった。
ブライアンも怒りを露わにした。
「ヴィクターめ…卑劣な真似を!」
「許せない!」
ガイも拳を握った。
「マーガレットさんに手を出すとは…」
ダリウスが申し訳なさそうに言った。
「すみません…これは、ヴィクターのやり方です」
「相手を脅して、屈服させる」
「俺も、何度も見てきました」
マイケルは深呼吸して、冷静さを取り戻した。
「分かった」
「これから、全員で行動しよう」
「一人では外出しない」
「必ず誰かと一緒に」
「はい」
全員が頷いた。
「それと」
マイケルは通信魔石を取り出した。
「タイシ様に報告します」
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タイシの村。
タイシは通信魔石から、マイケルの報告を聞いていた。
『マーガレットが脅迫されました』
『ヴィクターが、卑劣な手段に出ています』
「そうですか…」
タイシの目が鋭くなった。
「マイケルさん、全員の安全を最優先してください」
「必要なら、私が護衛のゴーレムを送ります」
『本当ですか!?』
「はい。戦闘型ゴーレムを数体、王都へ送ります」
タイシは説明した。
「見た目は普通の人間に見えるように偽装します」
「あなた方の護衛として、常に近くにいます」
『ありがとうございます!』
マイケルの声が安堵した。
「それと」
タイシは続けた。
「ヴィクター・グレイソンとデュランド公爵」
「彼らは、いずれ私の敵になります」
「今のうちに、詳しい情報を集めてください」
「弱点、人脈、資産、全て」
『承知しました』
「そして」
タイシの声が低くなった。
「もし、あなた方の命が危険に晒されたら」
「すぐに連絡してください」
「私が直接、王都へ向かいます」
『タイシ様…』
マイケルは感動した。
通信が切れた後、タイシは統括型ゴーレムを呼んだ。
「はい、マスター」
「人型戦闘ゴーレムを5体、製造しろ」
タイシが命じた。
「外見は人間と見分けがつかないように」
「戦闘能力は、A級冒険者相当」
「マイケルさんたちの護衛として、王都へ送る」
「イエス、マスター」
統括型ゴーレムが工房へ向かった。
タイシは窓の外を見た。
「ヴィクター・グレイソン…」
タイシは呟いた。
「お前が、マイケルさんたちに手を出すなら」
「容赦はしない」
タイシの目に、冷たい光が宿った。
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**第二部 第九章 了**
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