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王国簒奪物語  作者: 慈架太子


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第六章:帰還と報告


翌朝。


マイケルたち一行とヴィクター・グレイソンの部下3人は、共に王都へと向かった。


ゴーレムトラック2台が先頭を進み、馬車がその後に続く。


ダリウスたち3人は、別の馬車に乗っていた。


「本当に、マイケルさんは良い人だな」


レオンが呟いた。


「俺たちを監視していた相手なのに、命を救ってくれた」


「ああ」


マルコも頷いた。


「しかも、王都まで一緒に帰ってくれる」


「普通なら、見捨てられても文句は言えないのに」


ダリウスは複雑な表情をしていた。


「だからこそ…悩むんだ」


「何を?」


レオンが尋ねた。


「グレイソン査察官への報告だ」


ダリウスは低い声で言った。


「俺たちは、マイケルさんたちを監視していた」


「どこへ行ったか、何をしていたか」


「報告しなければならない」


「だが」


ダリウスは拳を握った。


「あの人たちを裏切りたくない」


「命を救ってくれた恩人を、売るようなことはしたくない」


レオンとマルコも沈黙した。


3人とも、同じ気持ちだった。


その時


馬車が止まった。


「どうした?」


ダリウスが外を見ると


マイケルが、彼らの馬車に近づいてきた。


「少し、話がしたい」


マイケルが言った。


---


森の中の小さな空き地。


マイケルとダリウスたち3人が向かい合って座っていた。


「あなたたちは、グレイソン査察官に報告するだろう」


マイケルが静かに言った。


「俺たちがどこへ行ったか、何をしたか」


ダリウスたちは顔を見合わせた。


「はい…」


ダリウスが答えた。


「それが、俺たちの任務ですから」


「だが」


ダリウスは苦しそうに続けた。


「あなた方に命を救われた恩があります」


「どう報告すべきか…迷っています」


マイケルは微笑んだ。


「報告しても構いません」


「え?」


3人が驚いた。


「俺たちは、何も悪いことはしていない」


マイケルは説明した。


「商品を仕入れて、運んでいるだけだ」


「それが、ゴーレムトラックという新しい輸送手段を使っているというだけ」


「王国の法に触れることは何もない」


「でも…」


レオンが言った。


「グレイソン査察官は、必ず詮索してきます」


「どこで仕入れたのか、誰から買ったのか」


「そうだろうな」


マイケルは頷いた。


「だが、仕入れ先は商売の秘密だ」


「それを明かす義務はない」


マルコが尋ねた。


「では、どう報告すれば…?」


「正直に報告してくれ」


マイケルは言った。


「スミス商会が、ダークウッドの森へ行った」


「魔物に襲われた」


「俺たちも襲われた」


「お互いに助け合って、生き延びた」


「スミス商会は、ゴーレムトラックという新型の輸送手段を持っていた」


「それだけでいい」


ダリウスは目を見開いた。


「それだけ…ですか?」


「ああ」


マイケルは微笑んだ。


「仕入れ先については、『商人が秘密にしたがっている』と言えばいい」


「グレイソンが詮索してきても、『知らない』と答えてくれ」


「それは…嘘になりますが」


「嘘ではない」


マイケルは首を振った。


「あなたたちは、実際に仕入れ先を見ていない」


「森の中で魔物に襲われて、気を失っていたんだ」


「俺たちがどこへ行って、誰と取引したか」


「知らないのは事実だろう?」


3人は、ハッとした。


*確かに…*


*俺たちは森の中で魔物に襲われた*


*その後、気を失って、目覚めたら宿屋だった*


*マイケルたちがどこで商品を仕入れたかは、見ていない*


「分かりました」


ダリウスが頷いた。


「その通りに報告します」


「ありがとう」


マイケルは立ち上がった。


「それと」


マイケルは3人を見つめた。


「もし、あなたたちが本当に正義を求めているなら」


「いつか、俺たちと共に歩む日が来るかもしれない」


「グレイソンのような、腐った権力の犬になるのではなく」


「民を守る、本当の正義のために」


ダリウスは、マイケルの目を見た。


*この人は…本気だ*


*ただの商人じゃない*


*何か、大きな目的を持っている*


「覚えておきます」


ダリウスは深々と頭を下げた。


レオンとマルコも頭を下げた。


「命を救っていただいた恩は、忘れません」


---


王都に到着したのは、夕暮れ時だった。


「では、ここでお別れだ」


マイケルが言った。


「お気をつけて」


ダリウスたち3人は、別の方向へと向かった。


ヴィクター・グレイソンへの報告のために。


マイケルたちは、スミス商会へと向かった。


---


その夜。


王国財務省の執務室。


ヴィクター・グレイソンは、ダリウスからの報告を聞いていた。


「それで?」


ヴィクターが冷たい声で言った。


「スミス商会は、どこへ行った?」


「ダークウッドの森へ」


ダリウスが答えた。


「そこで、何をした?」


「分かりません」


ダリウスは正直に答えた。


「我々は、途中で魔物に襲われました」


「オークとゴブリン、そしてグレイウルフの群れに」


ヴィクターの目が鋭くなった。


「魔物に?」


「はい。我々は戦闘能力が低く、逃げるしかありませんでした」


「その時、スミス商会の護衛冒険者パーティーに助けられました」


「スミス商会に…助けられた?」


ヴィクターは意外そうな顔をした。


「はい」


ダリウスは続けた。


「マイケル・スミス氏は、我々が監視していた相手であるにも関わらず」


「命を救ってくれました」


「そして、王都まで送り届けてくれました」


ヴィクターは腕を組んだ。


「それで、スミス商会の仕入れ先は?」


「分かりません」


ダリウスは首を振った。


「我々が気を失っている間に、彼らは取引を済ませたようです」


「目覚めたときは、すでに宿屋でした」


「都合がいいな」


ヴィクターは冷笑した。


「だが」


ダリウスは付け加えた。


「一つ、重要な情報があります」


「何だ?」


「スミス商会は、『ゴーレムトラック』という新型の輸送手段を持っています」


「ゴーレムトラック?」


「はい。巨大なゴーレムの形をした、荷物運搬用の機械です」


ダリウスは説明した。


「10トンの荷物を積載でき、馬車の2倍の速度で走行します」


「しかも、自律思考型で、指示を出せば自動で目的地まで運んでくれます」


ヴィクターの表情が変わった。


「そんなものが…存在するのか?」


「この目で見ました」


ダリウスは断言した。


「しかも、2台持っていました」


ヴィクターは考え込んだ。


*ゴーレムトラック…*


*そんな技術が、この王国にあったか?*


*いや、聞いたことがない*


*ということは*


ヴィクターの目が光った。


*スミス商会は、どこか別の場所で、その技術を手に入れた*


*もしかすると*


*遺跡か?*


*それとも、秘密の工房か?*


「分かった」


ヴィクターはダリウスに言った。


「ご苦労だった」


「引き続き、スミス商会を監視しろ」


「はい」


ダリウスたちが去った後。


ヴィクターは窓の外を見た。


「スミス商会…マイケル・スミス…」


ヴィクターは呟いた。


「お前は、何を隠している?」


「その秘密を、必ず暴いてやる」


そして


ヴィクターは机の引き出しから、一通の手紙を取り出した。


保守派貴族の一人、デュランド公爵への報告書だ。


ヴィクターは羽ペンを取り、書き始めた。


『デュランド公爵閣下


平民商人スミス商会が、高度な魔導技術を持つ可能性があります。


詳細は後日報告いたしますが、この件は王国の安全保障に関わる可能性があります。


ご指示をお願いいたします。


ヴィクター・グレイソン』


手紙を封筒に入れ、蝋で封をする。


「これで」


ヴィクターは冷たく微笑んだ。


「公爵の後ろ盾を得られれば、スミス商会を徹底的に調査できる」


「そして、その技術を手に入れれば」


「俺は、さらに出世できる」


ヴィクターの野望は、膨らんでいく。


---


同じ頃。


スミス商会の事務所。


マイケルは、仕入れた商品の整理をしていた。


ゴーレムトラック2台から、大量の商品が降ろされている。


布地、防具、武器、食肉山のような量。


「すごい…」


レイチェルが感嘆した。


「これだけの量…見たことがありません」


「ああ」


マイケルは微笑んだ。


「これで、スミス商会は一気に大商会になれる」


マーガレットが心配そうに言った。


「でも、ヴィクター・グレイソンが動き出すわよ」


「ダリウスさんたちが報告すれば…」


「大丈夫だ」


マイケルは自信を持って答えた。


「ダリウスたちは、俺たちを裏切らない」


「彼らは正直に報告するだろうが、知らないことは言えない」


「それに」


マイケルは通信魔石を取り出した。


「何かあれば、タイシ様に連絡できる」


その時


ブライアンが入ってきた。


「マイケルさん、街の様子を探ってきた」


「どうだった?」


「王国の監視が強化されている」


ブライアンは渋い顔をした。


「特に、商人たちに対して」


「ヴィクター・グレイソンが、何か動き出したようだ」


「やはりな」


マイケルは予想していたという顔で頷いた。


「これから、もっと厳しくなるだろう」


「だが」


マイケルの目が鋭くなった。


「俺たちは、引き下がらない」


「タイシ様との取引を続ける」


「そして、この国を変えるために、力をつける」


ブライアンは頷いた。


「俺たちも協力する」


「何かあれば、いつでも呼んでくれ」


「ありがとう」


マイケルは感謝した。


そして、窓の外を見た。


夜の王都。


華やかな貴族街と、暗い貧民街。


*この格差を、いつか必ず変える*


*タイシ様と共に*


マイケルは、決意を新たにした。



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