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王国簒奪物語  作者: 慈架太子


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第五章:森の襲撃


タイシの村を出発して、数時間。


ゴーレムトラック2台とマイケルたちの馬車は、ダークウッドの森の中を進んでいた。


「順調だな」


ブライアンが周囲を警戒しながら言った。


「このままいけば、日没前には森を抜けられる」


ガイも頷いた。


「ゴーレムトラックの速度、予想以上だな」


「馬車の1.5倍どころか、2倍近い速度が出てる」


その時


ガイの表情が変わった。


「待て」


「どうした?」


ブライアンが尋ねた。


「何かいる」


ガイは斥候スキルで周囲を探知した。


「魔物の気配…複数…いや、かなりの数だ」


ヘレンも魔法で探知する。


「確認しました。魔物の群れです!」


「距離300メートル、こちらに向かってきます!」


「数は…20…いえ、30以上!」


「何!?」


マイケルが馬車から身を乗り出した。


「30以上の魔物!?」


「止まれ!」


ブライアンが叫んだ。


ゴーレムトラックと馬車が停止する。


「陣形を組め!」


ブライアンが指示を出した。


「ガイは斥候! ヘレンは後方支援! エイミーは回復待機!」


「俺は前衛だ!」


『獅子の牙』の4人が戦闘態勢に入った。


マイケルたちも馬車から降りた。


「マイケルさんたちは馬車の後ろに!」


ブライアンが叫んだ。


「いや、俺も戦う!」


マイケルは剣を抜いた。


商人だが、護身用の剣術は心得ている。


「私も!」


マーガレットも短剣を構えた。


レイチェルも弓を取り出した。


「私たちも手伝います!」


見習いの3人クリス、ヒューズ、アマンダも武器を構えた。


その時


森の奥から、轟音が響いた。


「来るぞ!」


ガイが叫んだ。


森の木々が揺れ、次々と魔物が現れた。


オーク緑色の肌をした、筋骨隆々の人型魔物。20体以上。


ゴブリン小型だが素早い魔物。30体以上。


そして


「グレイウルフ!」


ヘレンが叫んだ。


巨大な灰色の狼。5体。


「くそっ! 大群だ!」


ブライアンが舌打ちした。


魔物たちが一斉に襲いかかってきた!


「ゴーレムトラック! 迎撃しろ!」


マイケルが叫んだ。


2台のゴーレムトラックが動き出した。


巨大な脚で地を蹴り、オークの群れに突撃する!


ドガァン!


オークが吹き飛ばされた。


ゴーレムトラックの脚が次々とオークを蹴り飛ばす。


「すごい…!」


クリスが驚嘆した。


だが、魔物の数が多すぎる。


ゴブリンの群れが、馬車に向かって突進してくる!


「させるか!」


ブライアンが大剣を振るった。


一閃。


ゴブリン3体が両断された。


「火炎弾!」


ヘレンが魔法を放つ。


火の玉がゴブリンの群れを焼き払った。


ガイは双剣でゴブリンを次々と斬り倒す。


「回復!」


エイミーが傷ついたブライアンに回復魔法をかける。


マイケルも剣を振るい、ゴブリンと戦っていた。


マーガレットは短剣で、レイチェルは弓で応戦する。


見習いの3人も必死に戦っていた。


だが


「グレイウルフが来るぞ!」


ガイが叫んだ。


巨大な狼5体が、凄まじい速度で突進してくる!


「まずい!」


ブライアンが前に出ようとしたその時


別の方向から、悲鳴が聞こえた。


「助けてくれ!」


「誰だ!?」


マイケルが声のした方を見ると


森の中から、3人の男たちが逃げてきた。


黒服。王国の紋章。


「あれは…!」


マイケルは気づいた。


*ヴィクター・グレイソンの部下たち!*


3人の部下たちは、グレイウルフに追われていた!


「くそっ! 魔物が!」


部下の一人が転んだ。


グレイウルフが飛びかかる!


「危ない!」


マイケルは考えるより先に、駆け出していた。


「マイケルさん!」


ブライアンが叫んだが、間に合わない。


マイケルは転んだ部下の前に立ち、剣を構えた。


グレイウルフの爪が、マイケルに襲いかかる!


キィン!


剣で受け止めたが、衝撃でマイケルは吹き飛ばされた。


「ぐあっ!」


マイケルが地面に叩きつけられる。


グレイウルフが再び飛びかかろうとした瞬間


「させるか!」


ブライアンが割って込んだ。


大剣がグレイウルフを斬り裂く!


グレイウルフが倒れた。


「火炎弾連射!」


ヘレンが残りのグレイウルフに魔法を放つ。


4体のグレイウルフが炎に包まれた。


ガイが素早く動き、炎に包まれたグレイウルフにとどめを刺していく。


「回復!」


エイミーがマイケルに回復魔法をかけた。


傷が癒えていく。


「ありがとう…」


マイケルは立ち上がった。


ゴーレムトラックが、残りのオークとゴブリンを次々と倒していく。


数分後


すべての魔物が倒された。


---


戦いが終わり、一同は息をついた。


「みんな、無事か?」


ブライアンが確認した。


「何とか…」


ガイが肩で息をしている。


「MP、残り少ないです…」


ヘレンも疲労困憊だ。


エイミーが全員に回復魔法をかけていく。


マイケルは、助けた部下たちのところへ向かった。


3人とも、傷だらけだった。


特に、転んだ男は重傷だ。


胸に深い爪痕。血が大量に流れ出ている。


「エイミー! こっちだ!」


マイケルが叫んだ。


エイミーが駆けつける。


「ひどい傷…!」


エイミーは即座に回復魔法をかけた。


「ヒール!」


光が傷を包む。


だが


「足りません! 傷が深すぎます!」


エイミーが焦った。


「このままでは…死んでしまいます!」


「俺のポーションを使え!」


ブライアンが高級回復ポーションを渡した。


エイミーがそれを男に飲ませる。


そして、再び回復魔法。


「ヒール! ハイヒール!」


光が強くなった。


傷が徐々に塞がっていく。


「なんとか…間に合いました…」


エイミーがホッとした表情を見せた。


「ありがとうございます…」


転んだ男が、か細い声で言った。


「助けていただいて…」


マイケルは他の2人の部下も診た。


2人とも瀕死の重傷だったが、エイミーの回復魔法と、持っていたポーションで何とか命を取り留めた。


「助かった…」


もう一人の部下が呟いた。


「まさか、あなた方に助けられるとは…」


マイケルは尋ねた。


「あなたたちは、ヴィクター・グレイソンの部下ですね?」


「何故、こんなところに?」


3人の部下は、顔を見合わせた。


そして、一人が答えた。


「我々は…あなた方を監視していました…」


「監視?」


「はい…グレイソン査察官の命令で…」


部下は苦しそうに言った。


「あなた方がどこへ行くのか、誰と接触するのか…調査するために…」


「それで、森の中まで尾行していたのか」


ブライアンが険しい顔で言った。


「すみません…」


部下たちは頭を下げた。


「だが、魔物の群れに遭遇してしまい…」


「我々は戦闘能力が低く…」


「逃げるしかなかったのですが…」


マイケルは深く息を吐いた。


「命を狙われていたわけではないんですね」


「はい…あくまで監視と調査が任務でした…」


「分かりました」


マイケルは立ち上がった。


「とにかく、今は安全な場所まで戻りましょう」


「傷も癒えていませんし」


「え…?」


部下たちが驚いた。


「あなた方は…我々を…?」


「放っておけないでしょう」


マイケルは微笑んだ。


「同じ人間です」


「敵でも、見殺しにはできません」


部下たちは、涙を流した。


「ありがとうございます…」


「本当に…ありがとうございます…」


---


その夜。


森を抜けた一行は、近くの街の宿屋に泊まった。


部下たちの傷も、エイミーの回復魔法でほぼ完治していた。


宿屋の一室。


マイケルと部下たちが向かい合って座っていた。


「改めて、ありがとうございました」


部下のリーダー格らしき男が、深々と頭を下げた。


「俺はダリウス。グレイソン査察官の部下です」


「こちらはレオンとマルコ」


2人も頭を下げた。


「マイケル・スミスです」


マイケルも名乗った。


「ダリウスさん、一つ聞いてもいいですか?」


「はい」


「あなたたちは…グレイソン査察官の命令なら、どんなことでもするのですか?」


ダリウスは少し沈黙してから、答えた。


「…正直に言います」


「俺たちは、グレイソン査察官を尊敬していません」


「え?」


「グレイソン査察官は、表向きは正義漢ですが…」


ダリウスは苦い顔をした。


「実際は、自分の出世のために動いているだけです」


「平民の商人を不当に取り締まり、保守派貴族に取り入っている」


「俺たちは、そんな上司の下で働くことに、嫌気がさしています」


レオンが付け加えた。


「だが、逆らえば…俺たちの立場が危うくなる」


「家族もいる…」


「仕方なく、従っているんです」


マルコも頷いた。


「今日、あなた方に命を救われて…」


「俺たちは、本当に恥ずかしくなりました」


「監視していた相手に、助けられるなんて…」


マイケルは静かに言った。


「あなたたちは、悪い人ではないんですね」


「ただ、上司の命令に従わざるを得ない」


「そういうことですね」


3人は頷いた。


マイケルは立ち上がった。


「ならば、私から提案があります」


「提案?」


「はい」


マイケルは真剣な目で3人を見た。


「あなたたちは、グレイソン査察官に報告するでしょう」


「俺たちがどこへ行ったか、何をしたか」


「それは構いません」


「ただ」


マイケルは一歩近づいた。


「もし、あなたたちが本当に正義を求めているなら」


「いつか、私たちと共に歩む日が来るかもしれません」


「どういう…?」


ダリウスが戸惑った。


「今は、詳しく言えません」


マイケルは微笑んだ。


「ただ、覚えておいてください」


「この国は、いずれ変わります」


「その時、あなたたちがどちら側につくか」


「それは、あなたたち自身が決めることです」


3人は、マイケルの言葉に衝撃を受けた。


*この男は…何を言っているんだ?*


*国が変わる?*


*まさか…*


だが、マイケルの目には、確固たる意志が宿っていた。


「では、今夜はゆっくり休んでください」


「明日、王都まで一緒に行きましょう」


「はい…」


3人は頷いた。


---


別の部屋。


マイケルとブライアンたちが集まっていた。


「マイケルさん、本当に大丈夫か?」


ブライアンが心配そうに尋ねた。


「あいつら、グレイソンの部下だぞ」


「助けたのは良いが…」


「大丈夫だ」


マイケルは答えた。


「あの3人は、グレイソンに不満を持っている」


「俺たちの敵じゃない」


「それに」


マイケルは微笑んだ。


「命を救われた恩は、簡単には忘れない」


「いつか、彼らが俺たちの味方になる日が来るかもしれない」


ガイが感心した。


「さすが商人だな」


「人の心を読むのが上手い」


「でも、危険ですよ」


ヘレンが心配した。


「もし彼らがグレイソンに全て報告したら…」


「それでも構わない」


マイケルは言った。


「俺たちは、何も違法なことはしていない」


「ただ、商品を仕入れて、運んでいるだけだ」


「タイシ様の村の場所は、彼らは知らない」


「ゴーレムトラックのことは見られたが、それも商品として買ったと説明できる」


「問題ない」


エイミーがホッとした表情を見せた。


「でも、マイケルさん」


「あなたが助けに行った時、本当に危なかったですよ」


「グレイウルフに襲われて…」


「ああ」


マイケルは苦笑した。


「体が勝手に動いた」


「目の前で人が死にそうになっていて、見過ごせなかった」


「それが、マイケルさんの本質なんですね」


マーガレットが優しく微笑んだ。


「だから、タイシ様もあなたを信頼したのよ」


マイケルは照れくさそうに頭をかいた。


「とにかく、明日は王都へ戻ろう」


「そして、グレイソンとの決着をつける時が来るかもしれない」


一同は頷いた。


長い夜が明けようとしていた。


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