第四章:再訪
競売から3日後。
マイケルたちは再び、ダークウッドの森へと向かっていた。
今回は、2台の馬車。
1台目には、マイケル、マーガレット、レイチェル、そして見習いの3人。
2台目には、ブライアンたち『獅子の牙』の4人が護衛として同行していた。
そして
馬車の中には、大量の金貨が積まれていた。
金貨10万枚。
競売で得た12万7000枚のうち、経費や税金を差し引いた金額だ。
「凄い金額だな」
ブライアンが馬車の中で呟いた。
「こんな大金、一度に見たのは初めてだ」
「私もです」
エイミーが緊張した様子で言った。
「もし盗賊に襲われたら…」
「大丈夫だ」
ガイが周囲を警戒しながら答えた。
「俺が見張ってる。盗賊の気配は感じない」
ヘレンが魔法で周囲を探知している。
「魔物の反応もありません。今のところは安全です」
マイケルは通信魔石を手に取った。
「念のため、タイシ様に連絡しておこう」
マイケルは魔石に魔力を込めた。
しばらくして
『マイケルさん?』
タイシの声が魔石から響いた。
「タイシ様、お久しぶりです」
『どうしました?』
「今、そちらへ向かっています」
「金貨10万枚を持って」
『10万枚!?』
タイシの声が驚いた様子だった。
「はい。競売が大成功でした」
「見本品だけで、金貨12万7000枚になりました」
『それは…すごいですね』
「ゴーレムトラックの代金5000枚と、大量仕入れの資金を持参します」
『分かりました。お待ちしています』
「ありがとうございます」
通信が切れた。
マーガレットが夫に尋ねた。
「今回は、どれくらい仕入れるの?」
「できるだけ大量に」
マイケルは答えた。
「布地、武器、防具、食肉…全て」
「ゴーレムトラックがあれば、大量輸送が可能になる」
「今後、定期的に取引するための基盤を作る」
レイチェルがメモを取りながら言った。
「でも、あまり大量に王都で売ると、またヴィクター・グレイソンに目をつけられませんか?」
「だから、販売ルートを分散する」
マイケルは説明した。
「王都だけでなく、他の都市にも卸す」
「それに」
マイケルは微笑んだ。
「タイシ様から買った商品を、他の商人に卸売りする」
「そうすれば、俺たちは『卸商』になる」
「直接競売に出すよりも目立たない」
「なるほど…」
レイチェルが納得した。
---
数時間後。
馬車はタイシの村の近くに到着した。
「見えた!」
クリスが叫んだ。
高い防壁。深い堀。櫓。
前回と変わらぬ、堅牢な要塞。
門の前に着くと、門番ゴーレムが現れた。
「スミス商会の方々ですね。お待ちしておりました」
門番ゴーレムが開閉橋を下ろす。
馬車が村の中へ入っていく。
そして
タイシが出迎えに来ていた。
「マイケルさん、お久しぶりです」
「タイシ様!」
マイケルは馬車から降り、深々と頭を下げた。
「お待たせいたしました」
「いえいえ。早かったですね」
タイシは微笑んだ。
「競売は大成功だったようですね」
「はい、おかげさまで」
マイケルは興奮気味に報告した。
「シルクモーンの布が金貨3000枚、デススパイダーの布が4000枚」
「エンシェントスタッフが3万枚!」
「ドラゴンスケールメイルが4万5000枚!」
「総額12万7000枚になりました!」
「それは素晴らしい」
タイシは感心した。
「予想以上ですね」
「はい。貴族たちが競って入札しました」
マーガレットも嬉しそうに言った。
「それで」
マイケルは馬車を指差した。
「今回、金貨10万枚を持参しました」
「ゴーレムトラックの代金5000枚と、大量仕入れの資金です」
「分かりました」
タイシは頷いた。
「では、まず屋敷で商談をしましょう」
「その後、倉庫をご案内します」
一同はタイシについて、屋敷へと向かった。
---
屋敷の大広間。
大きなテーブルに、全員が座った。
メイドゴーレムたちが、お茶と軽食を運んでくる。
「それでは、商談を始めましょう」
タイシが口を開いた。
「まず、ゴーレムトラックですが」
タイシは資料を取り出した。
「1台、金貨5000枚です」
「今回、何台購入されますか?」
マイケルは少し考えた。
「とりあえず、2台お願いします」
「金貨1万枚ですね」
「はい」
「承知しました」
タイシはメモした。
「次に、商品の仕入れですが」
タイシは価格表を見せた。
```
【布地】
・シルクモーンの布:1ロール 金貨200枚
・デススパイダーの布:1ロール 金貨300枚
【防具】
・ドラゴンスケールメイル:1着 金貨2000枚
・ドラゴンクロウガントレット:1組 金貨300枚
・ファングリザードグリーブ:1組 金貨250枚
・シルバードラゴンヘルム:1個 金貨400枚
【武器】
・ドラゴンスレイヤー:1本 金貨1500枚
・ミスリルダガー:1本 金貨800枚
・エンシェントスタッフ:1本 金貨1万枚
・ドラゴンランス:1本 金貨1200枚
【食肉】
・アースドラゴン肉:1キロ 金貨8枚
・ファングリザード肉:1キロ 金貨4枚
・ダイアウルフ肉:1キロ 金貨1枚
```
マイケルは価格表を見て、驚いた。
「タイシ様…この価格は…」
「安すぎませんか?」
タイシは首を傾げた。
「そうですか?」
「はい!」
マイケルは力説した。
「王都の市場価格と比べて、半額以下です!」
「例えば、エンシェントスタッフは王都なら金貨5万枚で売れます」
「それを1万枚で…」
「ドラゴンスケールメイルも、王都なら金貨8000枚から1万枚です」
「それを2000枚とは…」
タイシは微笑んだ。
「私にとっては、これが適正価格です」
「材料はすべて自分で調達していますし、ゴーレムが作っているので人件費もかかりません」
「むしろ、これでも十分な利益です」
「それに」
タイシの目が真剣になった。
「私の目的は、金を稼ぐことではありません」
「王国を変えることです」
「そのためには、協力者が必要です」
「マイケルさんたちが利益を得て、力をつけてくれることが、私にとっては利益なんです」
マイケルは感動した。
「タイシ様…」
「ですから、遠慮なく大量に仕入れてください」
タイシは続けた。
「あなた方が強くなることが、私の目的です」
マイケルは深々と頭を下げた。
「ありがとうございます」
「では、遠慮なく」
マイケルはレイチェルに目配せした。
レイチェルが注文リストを読み上げた。
「シルクモーンの布100ロール」
「デススパイダーの布50ロール」
「ドラゴンスケールメイル50着」
「ドラゴンクロウガントレット100組」
「ファングリザードグリーブ100組」
「シルバードラゴンヘルム50個」
「ドラゴンスレイヤー50本」
「ミスリルダガー100本」
「エンシェントスタッフ10本」
「ドラゴンランス50本」
「アースドラゴン肉5トン」
「ファングリザード肉10トン」
「ダイアウルフ肉20トン」
タイシは計算した。
「合計で」
「金貨…約9万枚ですね」
「ゴーレムトラック2台と合わせて、金貨10万枚」
「ちょうどお持ちの金額ですね」
「はい!」
マイケルは興奮していた。
*これだけの量を仕入れられれば*
*スミス商会は一気に大商会になれる!*
「では、契約成立です」
タイシが手を差し出した。
マイケルはその手を握った。
「今後とも、よろしくお願いします」
「こちらこそ」
---
その後、タイシは一同を倉庫へと案内した。
ゴーレムたちが、次々と商品を運び出してくる。
布地、武器、防具、食肉すべてが整然と梱包されている。
「すごい…」
クリスが呟いた。
「こんな大量の商品が、一度に…」
「ゴーレムトラックに積み込みます」
タイシが言うと、2台の巨大なゴーレムトラックが現れた。
運搬型ゴーレムたちが、商品を次々とトラックに積み込んでいく。
わずか1時間で、すべての積み込みが完了した。
「では、ゴーレムトラックの操作方法を説明します」
タイシがマイケルに説明した。
「操縦席に座って、目的地を告げてください」
「例えば『王都のスミス商会へ』と」
「そうすれば、自動で向かいます」
「途中で盗賊などに襲われた場合は、自動で迎撃します」
「すごい…」
マイケルは感嘆した。
「これで、商売が革命的に変わります」
「ところで」
タイシが付け加えた。
「ヴィクター・グレイソンのことは聞きました」
「通信魔石で様子を探知していました」
「申し訳ございません」
マイケルは頭を下げた。
「あいつが目をつけてしまって…」
「いえ、仕方ありません」
タイシは微笑んだ。
「ただ、今後は慎重に行動してください」
「私の存在がバレないように」
「承知しています」
マイケルは真剣に答えた。
「タイシ様の秘密は、命に代えても守ります」
「ありがとうございます」
タイシは一同を門まで見送った。
「それでは、お気をつけて」
「はい。また参ります」
ゴーレムトラック2台が、村を出発した。
マイケルたちの馬車も、その後についていく。
タイシは、遠ざかっていくゴーレムトラックを見送りながら呟いた。
「これで、第一段階は完了だ」
「次は」
タイシの目が、遠くの王都の方角を見つめた。
「王国の内部に、協力者を増やす」
「そして」
「いつか、この国を変える」




