第二章:競売の準備
第二章:競売の準備
スミス商会の事務所。
大きな机の上に、タイシから受け取った見本品が並べられていた。
シルクモーンの布。
デススパイダーの布。
ドラゴンスケールメイル。
ドラゴンクロウガントレット。
ミスリルダガー。
エンシェントスタッフ。
そして、保冷用の魔道具の中には
アースドラゴンの肉。
ファングリザードの肉。
マーガレット、レイチェル、そして見習いの3人クリス、ヒューズ、アマンダが、品々を鑑定していた。
「信じられない…」
クリスが布に触れながら呟いた。
「こんな高品質のシルク、見たことがない…」
「この鎧も」
ヒューズがドラゴンスケールメイルを持ち上げた。
「軽いのに、こんなに頑丈…」
「武器も最高級です」
アマンダがミスリルダガーを見つめた。
「これ、貴族が持つような品ですよ」
マーガレットが夫に尋ねた。
「本当に、これらを全て競売にかけるのですか?」
「ああ」
マイケルは頷いた。
「明後日の大競売会に出品する」
「レイチェル、手配を頼む」
「承知しました」
レイチェルはすぐさまメモを取り始めた。
「出品料は?」
「惜しまない」
マイケルは答えた。
「プレミアム枠で出品する」
「貴族たちの目に留まるようにな」
プレミアム枠それは、大競売会の中でも特別な扱いを受ける出品枠。
出品料は金貨100枚と高額だが、貴族や大商人たちが注目する。
「分かりました」
レイチェルが頷いた。
「では、出品物の説明文も作成します」
「頼む」
マイケルは続けた。
「それと、ブライアンたちにも連絡してくれ」
「競売当日、護衛を頼みたい」
「護衛ですか?」
「ああ。これだけの高級品を扱う」
マイケルは真剣な表情で言った。
「貴族たちの中には、金を払わずに奪おうとする輩もいるかもしれない」
「それに」
マイケルは窓の外を見た。
「王国の役人たちも、俺たちを監視するだろう」
「どこでこんな品を手に入れたのか、詮索するために」
マーガレットが不安そうに言った。
「大丈夫なんですか?」
「大丈夫だ」
マイケルは微笑んだ。
「俺たちは正規の商人だ」
「合法的に仕入れた商品を、合法的に売る」
「何も問題はない」
「ただ」
マイケルの目が鋭くなった。
「タイシ様のことは、絶対に秘密だ」
「誰にも言うな」
「はい」
全員が頷いた。
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その夜。
マイケルは一人、事務所に残っていた。
机の上には、タイシから受け取った通信魔石が置かれている。
小さな青い魔石。
これで、タイシと連絡が取れる。
マイケルは魔石を手に取った。
*タイシ様*
*俺は、あなたの力になりたい*
*この腐った王国を変えるために*
*商人として、できる限りのことをする*
マイケルは窓の外を見た。
夜の王都。
華やかな貴族街には、明かりが灯っている。
一方で、貧民街は暗闇に包まれている。
*この格差*
*この理不尽*
*いつか、必ず変わる*
*タイシ様が、変えてくれる*
マイケルは決意を新たにした。
明後日の競売。
これが、新しい時代への第一歩だ。




