第二部:商人の野望と王国の影 第一章:王都への帰還
馬車が王都に到着したのは、タイシの村を出発してから3日後のことだった。
高い城壁に囲まれた王都グランディア。人口50万を超える、この国最大の都市。
「やっと着いたな」
ブライアンが馬車の窓から城壁を眺めた。
「長い旅だった」
ガイも疲れた様子で伸びをした。
「でも、収穫は大きかったですね」
ヘレンが微笑んだ。
「ええ、本当に」
エイミーも頷いた。
マイケルは、アイテムボックスの中身を思い浮かべた。
*シルクモーンの布10ロール*
*デススパイダーの布5ロール*
*ドラゴンスケールメイル2着*
*ドラゴンクロウガントレット3組*
*ミスリルダガー5本*
*エンシェントスタッフ1本*
*アースドラゴン肉200キロ*
*ファングリザード肉300キロ*
これだけでも、金貨数万枚の価値がある。
そして
*ゴーレムトラック*
*あれを手に入れれば、商売の規模が一気に拡大する*
「マーガレット」
マイケルが妻に声をかけた。
「はい?」
「店に戻ったら、すぐに金貨を集めてくれ」
「ゴーレムトラックの代金、5000枚」
「それに、大量仕入れのための資金も必要だ」
「分かりました」
マーガレットは頷いた。
「でも、それだけの金貨…店の金庫にありますか?」
「足りない分は、今回の見本品を売って補う」
マイケルは計算した。
「アースドラゴンの肉だけでも、金貨2万枚になる」
「それに布地や武器防具を合わせれば…金貨5万枚は集まるだろう」
レイチェルがメモを取りながら言った。
「でも、そんな高級品を買える客は限られています」
「貴族か、大商人か…」
「いや」
マイケルは首を振った。
「競売にかける」
「競売?」
「そうだ。王都の大競売場で、これらの品を競りにかける」
マイケルは説明した。
「アースドラゴンの肉や、伝説級の武器防具」
「貴族たちは我先にと金を積むだろう」
「価格は青天井だ」
マーガレットが心配そうに言った。
「でも、目立ちすぎませんか?」
「これだけの品を一度に出したら、どこから仕入れたのか詮索されるかもしれません」
「それは大丈夫だ」
マイケルは微笑んだ。
「俺たちは辺境から戻ってきた商人だ」
「魔物の多い森を抜けてきた」
「運良く、高級な魔物素材を手に入れたと説明すればいい」
「なるほど…」
レイチェルが納得した。
馬車が王都の門をくぐった。
門番が馬車を止める。
「通行証を」
「はい」
マイケルが通行証を渡した。
門番がそれを確認し、返す。
「スミス商会か。お帰りなさい」
「ただいま」
馬車が王都の中へと入っていく。
石畳の大通り。両脇には店が立ち並び、人々で賑わっている。
貴族の馬車が通り過ぎる。
商人たちが荷物を運んでいる。
冒険者たちが酒場へと向かっている。
活気ある都市。
だが
マイケルの目には、違うものが見えていた。
*貧しい人々*
路地には、物乞いをする子供たちがいる。
ぼろをまとった老人が、道端に座り込んでいる。
*この国は、本当に民を守っているのか?*
タイシの言葉が、脳裏に蘇る。
「王国は民を見捨てた」
「この国は腐っている」
*あの少年は正しい*
マイケルは心の中で呟いた。
*だからこそ、俺たちは協力する*
*タイシ様が王国を変える日のために*
馬車がスミス商会の店の前に到着した。
大きな看板。「スミス商会」の文字。
3階建ての建物。1階が店舗、2階が事務所、3階が住居。
「着いたぞ」
マイケルが降りると、店の従業員たちが駆け寄ってきた。
「社長! お帰りなさい!」
「無事で良かった!」
「心配しましたよ!」
マイケルは微笑んだ。
「ただいま。世話をかけたな」
「荷物を降ろしてくれ」
「はい!」
従業員たちが馬車から荷物を運び始めた。
マイケルは店の中へと入った。




