第十七章:新たな取引
商人の一行は、この日見た光景に圧倒されていた。
自律思考するゴーレムの群れ。
伝説級の防具が数千着。
伝説級の武器が数千本。
高級布地が数百ロール。
魔物の肉が金貨500万枚分以上。
そして、一人でこの全てを作り上げた15歳の少年。
マイケルは、商人としての長年の経験から、ある確信を抱いていた。
*この少年は、いずれこの王国を変える*
*そして、その時が来たら*
「タイシ様」
マイケルは真剣な表情で言った。
「私たちスミス商会は、あなたと取引をさせていただきたい」
「ただし、通常の商取引としてではなく…長期的な協力関係として」
タイシは興味深そうにマイケルを見た。
「協力関係、ですか?」
「はい。私たちは、あなたの秘密を守ります」
マイケルは続けた。
「ゴーレムのこと、この要塞のこと、あなたの力のこと全てを」
「その代わり、私たちに武器や防具、素材、食肉を売っていただきたい」
「運搬については問題ありません」
マイケルは微笑んだ。
「実は、私もアイテムボックスのスキルを持っています」
「え?」
タイシが少し驚いた表情を見せた。
「商人としては珍しいスキルですが」
マイケルが説明した。
「若い頃、ある冒険で偶然手に入れました」
「容量はそれほど大きくありませんが、重量制限がないので、商売には非常に役立っています」
「これがあれば、大量の商品を一度に運べます」
「なるほど」
タイシは納得した表情を見せた。
「それなら、取引もスムーズに進められますね」
「はい。そして」
マイケルは深く息を吸った。
「いつか、あなたが本当に王国を変える日が来たら…その時は、私たちも協力させていただきたいのです」
一同が頷いた。
ブライアンが言った。
「俺たち冒険者も、この腐った王国には不満がある」
「命をかけて魔物と戦っても、報酬はわずか。一方で貴族は安全な場所で贅沢三昧だ」
ガイも同意した。
「タイシさん、あんたの怒りは正しいと思う」
ヘレンとエイミーも頷いた。
マーガレットが優雅に言った。
「私たち商人も、理不尽な税に苦しめられています」
「正直に商売をしても、貴族に搾取される…」
レイチェルが付け加けた。
「タイシ様の目指す世界…それを見てみたいのです」
タイシは、しばらく沈黙してから、ゆっくりと口を開いた。
「分かりました」
「では、取引をしましょう」
「ただし、条件があります」
「何でしょう?」
マイケルが尋ねた。
「私の秘密を守ること。そしてもし私を裏切れば、容赦しない」
タイシの目が、一瞬だけ鋭く光った。
マイケルは深く頷いた。
「承知しました」
「商人として、取引相手を裏切ることはありません」
「それに」
マイケルは微笑んだ。
「あなたを敵に回すほど、愚かではありませんよ」
「ところで、タイシ様」
マイケルが続けた。
「一つお願いがあるのですが」
「何でしょう?」
「物流支援ゴーレム…いえ、ゴーレムトラックと呼ぶべきでしょうか」
マイケルが説明した。
「大量の荷物を運搬できるゴーレムを購入したいのです」
「私のアイテムボックスには容量制限があります」
「今回見せていただいた商品の量を考えると、定期的に大量輸送する必要があります」
タイシは少し考えてから答えた。
「運搬用ゴーレムですね。作れますよ」
「本当ですか!?」
マイケルが目を輝かせた。
「どのくらいの積載量が必要ですか?」
「そうですね…10トンほど積載できれば十分です」
「分かりました。では、大型の運搬型ゴーレムを用意します」
タイシは説明した。
「4輪で安定性が高く、悪路でも走行可能です」
「荷台は5メートル×3メートル、高さ2メートルほど」
「操作も簡単で、目的地を指示すれば自動で走行します」
「そ、それは素晴らしい!」
マイケルが興奮した。
「ぜひお願いします!」
「価格ですが…」
タイシが言いかけると、マイケルが遮った。
「実は…今現在、手持ちの金貨があまりありません」
マイケルは苦笑いした。
「今回は護衛を雇い、商品を仕入れた後でしたので」
「店に戻って金貨を取ってきます」
「それまで、ゴーレムトラックの製作をお願いできますか?」
タイシは頷いた。
「構いません。3日ほどで完成します」
「また来てください」
「ありがとうございます!」
マイケルは深々と頭を下げた。
「それでは、価格の相談もその時に」
「はい。武器、防具、布地、食肉、そしてゴーレムトラック」
タイシは指を折って数えた。
「全ての価格を決めましょう」
「お願いします」
マイケルが答えた。
「それと」
タイシが付け加えた。
「ゴーレムトラックは自律思考型です」
「マイケルさんの指示に従い、荷物の積み下ろしも自動で行います」
「護衛の機能も付けますので、盗賊程度なら撃退できます」
「な、なんと!?」
マイケルは驚愕した。
「それはまるで…優秀な従業員を雇うようなものですね!」
「そうですね」
タイシは微笑んだ。
「ゴーレムは文句も言わず、給料も要りませんから」
「ぜひ、購入させてください!」
マイケルは即決した。
「ただし…今現在、手持ちの金貨があまりありません」
「今回の旅は通常の商談のつもりで、そこまで大金を持ち歩いていなかったもので…」
「店に戻って金貨を取ってきます」
「それまで、ゴーレムトラックを取り置きしていただけますか?」
「もちろんです」
タイシは頷いた。
「それでは、今回は商品の見本をお持ち帰りください」
「マイケルさんのアイテムボックスに入る範囲で、布地、防具、武器、食肉…それぞれ少量ずつ」
「それを王都で売って、資金を作ってください」
「次回お越しの際に、ゴーレムトラックと大量の商品を取引しましょう」
「ありがとうございます!」
マイケルは深々と頭を下げた。
タイシは各倉庫から見本品を選び、マイケルのアイテムボックスに収納していった。
シルクモーンの布×10ロール
デススパイダーの布×5ロール
ドラゴンスケールメイル×2着
ドラゴンクロウガントレット×3組
ミスリルダガー×5本
エンシェントスタッフ×1本
アースドラゴン肉×200キロ
ファングリザード肉×300キロ
「これだけでも…金貨数万枚になりますね」
レイチェルが計算した。
「はい。これを元手に、次回の取引の準備をしてください」
タイシが言った。
「それと」
タイシはマイケルに小さな魔石を渡した。
「これは通信魔石です」
「何か緊急の連絡があれば、これで私に連絡できます。距離の制限はありません」
「通信魔石!?」
ヘレンが驚いた。
「そんなものまで作れるんですか!?」
「はい。魔力操作と風魔法を組み合わせれば作れます」
タイシはあっさりと答えた。
マイケルは通信魔石を大切に受け取った。
「ありがとうございます、タイシ様」
マイケルは感嘆のため息をついた。
*この技術…本当に革命的だ*
*商業の世界を変えるだけではない*
*世界そのものを変える力だ*




