第一章:捨てられた少年
その少年は小さな村で生まれた。
その村は貧しい。土地もやせていて食料があまりとれない。魔物が定期的に村を襲ってきて被害が出る状況。少年が生まれたころ、村の人口は150人ほどいた。
餓死するもの。はやり病で死ぬもの。魔物に襲われて死ぬもの。村を捨てて逃げてほかの土地へ行くもの。盗賊に襲われるもの。人口は減る一方。
少年の母親ははやり病で死んだ。
父は魔物との戦いで片腕を失い、その傷が癒えぬまま冬を越せず、翌年の春に息を引き取った。
少年タイシは、天涯孤独となった。
村の人口は、タイシが十歳になる頃には三十人ほどになっていた。かつて百五十人いた村人の五分の一だ。
畑を耕す人手が足りない。魔物と戦える若者が足りない。子供たちの面倒を見る大人が足りない。
悪循環だった。
「王国に訴えても無駄だ」
村で最年長の鍛冶師、ゴーランが吐き捨てるように言った。
「三年前、村長が嘆願書を持って領都まで行った。だが領主は会おうともしなかった。その帰り道、村長は盗賊に襲われて殺された」
村には希望がなかった。
ある者は村を捨てて都市へ向かった。だがその多くは、途中で盗賊に襲われるか、魔物に食われるか、見知らぬ土地で餓死したという噂だけが戻ってきた。
タイシは必死に働いた。孤児として、誰かの施しを受けながら生きるしかなかった。
朝は畑を耕し、昼は森で薪を集め、夜は罠を仕掛けて小動物を捕まえた。それでも、自分が食べる分すら足りないことがあった。




