専属騎士(ルビナ視点)
それは宴が始まって少しした時の事。
私は鬼の仮面をかぶった男が闇の中に消えていくのが見えた。
(あれは.....)
だれか分かった私は直ぐに彼の元へと向かった。それを見たシャーレも同じくついてきて、彼の元まで一緒に来てくれた。
馬に乗ろうとしているところで追いつき私は声をかけた。
「どこに行くんですか。リーヴァ様」
その問いを受けた瞬間彼の動きは止まり、ゆっくりとこちらを振り返った。
「俺は元居た場所に戻る」
「なら私たちも....」
「ダメだ、あなたたちにはやることがあるだろう」
ついていこうとした私たちに彼は拒絶を示した。それもそのはず、今同じ場所に帰るなら私の目標から遠ざかってしまうから。
彼もそれをわかっているのだろう。
「あなたたちは、決意を示した。敵を倒すことはできないかもしれないが、ついてく人もいる。だから進み続けてください」
私たちは意思表示をして行動に移した。
だからこそ彼はついてきてくれた。
私がやろうとして、ついて来てくれた人はいる。
シャーレはどこまでもついてきてくれる。
その人数を増やさないといけない。
「ルビナ様....彼の言う通りです。私たちに出来る事をしましょう」
私の肩を掴んで、先に進むように催促するシャーレだが、私にそれに反対だった。
「リーヴァ様お願いがあります」
彼は馬に乗って去ろうとしていた。
だけどその歩みを止め私の言葉に足を止めてくれた。
「何かありましたか王女よ」
私は深呼吸をしある決断をする。
きっとこんなに直ぐ決めることでもなければ、夢の見すぎだと笑われてしまうかもしれないだけど.....私は生涯、この決断を後悔することはない。
「リーヴァ様。私の専属騎士になっていただけませんか」
専属騎士、その言葉を聞いた二人は固まった。
それはそうだろう。
専属騎士は一心同体と言っても過言ではないもの、どちらかの敗北はそのまま二人の敗北になり、死ぬまでその関係は変わることがない。
故に王族のみに許されているものでもある。
「ルビナ様.....言葉の意味を分かっているのですか」
そんな心配をしてくるシャーレだが、私はいつになく冷静だ。
「当たり前よ、その上で彼を専属騎士にしたいの」
「ですが....」
彼女の言うこともごもっともだ、一日程度の関係、しかも味方というわけでもなかった者を専属騎士にしようとしているのだから。
その時、馬から降りる音がした。
目の前には鬼がいる。
「大変ありがたい申し出ですが、俺には務まりません。」
「そんなことがあるはずがない、あの一騎当千の戦闘能力はわが国でも有数の...」
「そういう問題ではありません!」
私の声を遮るように彼は声を出した。
「俺は事情を知らなかったとはいえ、あなたたちを殺そうとしたのです。そんな人間に専属騎士は務まりません」
彼の声には後悔の念が詰まっていて、あの時一人だけ暗い表情をしていた理由がやっとわかった。
私の目標を聞いた時からきっと彼は後悔していたのだろう。ならば....
「そう思うなら、なおさら私の専属騎士になりなさい。そして私のために戦うことでその後悔を晴らしなさい!」
それを聞いた彼はうつむいていた顔を上げたが、どこか遠くを見ていた。
「俺は家族を王族に殺されました。父も母も幼子であった妹も.....きっとルビナ王女についていけば、俺の家族を殺した者とも会うことがあるでしょう。その時俺は冷静ではいられず、あなた方に迷惑をかけてしまう」
彼は胸からペンダントを取り出して、それを見ながら語った。
親を殺された、そしてその原因がいたなら殺してしまうと考えたのだろう。
私に向けられた異常なまでの殺気の理由が分かった。
私の家族はつくづく救えない。
うつむいていく私の背中がたたかれた。
叩いた人は.....
「ルビナ様!そんな簡単に折れてはいけません。彼を専属騎士にしたいのには、それなりの理由があるのでしょう!ここで折れてはあなたの目標はいつまでも夢物語になります!」
その言葉は従者ではなく、親が子供を元気つけるようなものだった。
私はそれに対し小さく「ありがとう」とつぶやき、彼の説得をする。
「それは迷惑にはならないわ!どちらにせよ、折り合いのつかないお兄様たちとは戦わなければいけない。それが少し早くなるだけ。それにこれはあなたにもメリットがあるわ」
少し仮面の下で動揺したのが分かった。
きっとこういわれるとは思っていなかったのだろう。
彼は言葉を紡いだ。
「御兄弟を殺すおつもりですか?それにメリットは分かっております。」
「ええ、そうよ。それにあなたはメリット理解できていないわ。本当に分かっているならすでに専属騎士になっているはずだもの。」
「どういうこと.....ですか」
やはり彼は分かっていないみたいだ。一番重要なことを。
「もしあなたが私の専属騎士になるならば、私の目指す国は今より早く実現される。それはあなたのような被害者が減る事を示しているのよ」
その言葉に彼はこぶしを握った。
家族を失って強い感情を持った彼なら、そんな気持ちになる人を少しは減らしたいはず、だからこそこの言葉に乗ってくるそう踏んでいた。
「ルビナ王女.....」
彼はそうつぶやくと私に膝をつき頭を下げた。
「ルビナ王女。私は貴方について行かせていただきます。あなたに降り注ぐ火の粉を払う盾になり、今はまだ名もなき者ですが、すぐに一騎当千の...いや、天下無双の名をもって貴方の剣になることを誓います」
彼の決意が伝わってくる。
これ以上自分のような存在を生まないように、自由の国になるようにそして何より...
(私を信頼してくれている.....)
私は彼に答えるよう王になるものとしてすべきことをする。
「パラシアス第三王女、パラシアス・ルビナの名をもってアルデナ・リーヴァを私の専属騎士にすることをここに誓う!」
「その任、命をかけて全う致します!」
そういって彼は顔を上げた。
私の目標を達成するための力を少しずつ手に入れて行っている。私の夢物語は彼との出会いによって実行可能だと思わされた。
私は王になって見せる信じてついてきてくれる人そして、豊かに平穏に生きたいと願っている国民のために。




