軍師の右腕(ルビナ視点)
3カ国同盟を結んだ後のこと、私はカヒーナ王によって用意された部屋で、今日のことを思い返していた。
「私は...第3王女なんだ」
初めて王族としての責務を果たせた気がする。アンス国を救った時はリーヴァに頼っていたけれど、今回は私の理想を聞いてついてきてくれた。
「ルビナ様、良かったですね」
「ええ、本当に良かった」
まだ考えないといけないことは多い。だけど、今はこの状況に喜ばずにはいられない。
「最初は夢物語だったのに、今じゃそんな事言えないくらいに大きくなった」
シャーレと2人で始めた物語が、今や手を伸ばせば届くところまで来ている。
「それも全部ルビナ様の努力の賜物ですね」
シャーレは私の努力と言ってるけど、それは違う。私だけじゃない。
「違うよ、シャーレ。確かに私も頑張ったけれど、それ以上にシャーレがいてくれて、リーヴァと出会えたから今があるんだよ」
何度でも言うけれど、私一人じゃ何も出来なかった。
私が第3王女で居られたのは周りに私を認めてくれる人がいたからだ。
「リーヴァの言う通りになっちゃったなぁ」
「そうですね。リーヴァさんは初めから言ってましたからね」
私達が思い出したのはリーヴァが専属騎士になる時に言ってくれた言葉。敵を倒すことは出来ないけど、ルビナ王女について来てくれる人がいます。だから進み続けてください。
そんなリーヴァの言葉は今、私を作っている。私が進み続けた事で、ユグラスも仲間になった。私の決意があったから、カヒーナ王もアルデミスも一緒に戦ってくれた。
そして、敵対していたはずのミクラナ帝国のハルジオン皇子、イリア皇女も仲間になって、3カ国同盟を結ぶことさえ出来た。
「私、王族なのよね」
「はい、今も...昔もルビナ様はパラシアスの第3王女です」
私は自分が王族なのか疑った時もあった。能力もなくて、力もなくて、信念すら揺れてしまったあの時...だけど、私は強くなれた。
「ありがとう、シャーレ。もう少しでパラシアスを取り戻せる。そうなったら私は...」
私は国民全員の幸せと平穏を、そして世界に平和をもたらしたい。
その時、私の部屋の扉が叩かれた。
「ルビナ王女、リーヴァです」
「入って良いわよ」
「ありがとうございます」
ユグラスも居るのかと思ったが、入ってきたのはリーヴァだけだった。
「どうしたの?」
わざわざ部屋を訪ねて来るのだから、何事かと思えば、リーヴァから発された内容は当然と言えば当然のものだった。
「襲撃者がいる以上、全員で固まっていた方がいいとの事で、部屋を変えましょうとカヒーナ王が仰っています」
「それもそうね。直ぐに移動するわ」
私はレイピアを手にリーヴァについて行く形で移動をした。
今のこの状況で、私達は武器を離すことは出来ない。なので、場内に居ようとも、私達は常に戦闘を始めれる状態だ。
「ルビナ王女、御足労頂きありがとうございます」
「いえ、襲撃者がいる以上、安全策を取るのが堅実だと思いますので」
既に部屋にいたカヒーナ王と話していると、ミクラナ帝国の皇族達もこの場に揃った。
「お待たせしました。カヒーナ王、ルビナ王女」
「いえ、ちょうど今集まったところですので、それよりも」
カヒーナ王が1度呼吸を切った事から、ただ安全の為だけに全員を集めた訳では無かった。
「パラシアス奪還について話しておきませんか?今は状況が状況です。これ以上、あの魔のものに力を付けられる前に倒しておきたい」
カヒーナ王も魔のものとの戦闘経験がある事から、相手に時間を与えなくない。
それは私も同意見だった。
「今はこの3カ国だけで済んでいるけれど、もし他の国の王族や皇族まで狙われたら、対処のしようがありません」
今分かっている能力だけでも、対処が難しいと言うのに、これ以上増えるものなら勝つことが難しくなる。
「私の能力でその魔のものの能力を消せるのであれば、勝てる可能性は上がるはずよね」
「僕もそう思っていた。相手が使っているのは王族と皇族の能力、ならお姉様が無効化出来るはずだ」
確かに使ってる能力自体は王族、皇族のものだけど、問題はその魔のものが王族でも皇族でも無いことだ。
「リーヴァ、羅刹様の能力は王族の時より前に手に入れたものよね?」
「はい、残虐の森でのことを考えるにあの時から能力自体あったと思われます」
これならリーヴァにイリア皇女の能力が効かなかった理由が分かる。だが、相手の能力が能力を奪うというものの場合、その能力の分類は一体...
「捕らえた」
私が悩んでいた時、リーヴァがいつの間にか遠くで何者かを捕まえていた。
それは私には見えないものだったが、ユグラスには分かっていたみたいだった。
「流石リーヴァ、お前を信じて良かったぜ」
「あの時変なことを言うから、何かと思えばこれか」
「お姉様、能力を」
「ええ、わかってるわ。能力発動」
イリア皇女が透明な敵に能力を発動させた瞬間そこには、男がいた。それも手に武器を持っている事から、私たちを狙っていたという事もわかる。
「お姉様...これではっきりしたね」
「お父様....」
イリア皇女の反応を見るに、これはミクラナ帝国の人間らしい。
「さて、洗いざらい吐いてもらいましょうか。ミクラナ帝国の帝王と魔のものについて」
カヒーナ王の発言に、その男はガリッと歯を鳴らした。
「貴様!」
リーヴァが咄嗟に口を開かせるも、もう遅かった。その男はピタリと動かなくなった。
「大変申し訳ありません。私がもう少し早く気づけていれば」
頭を下げているリーヴァだが、こんな事予想できるはずもない。
「頭をあげなさい、リーヴァ。自害する事なんて普通は考えないわ。だから気にしないで」
「.....はい」
リーヴァはまだ思い詰めているようだけど、これは仕方ない事。
リーヴァ以外この場の誰も、それに気づいていなかったのだから、気づいただけでも凄いことだ。
「ハルジオン皇子、あの方はミクラナ帝国の?」
「はい、あれは...帝王の近くに居た人間でした」
「だとしたら、かなり前からミクラナ帝国に潜んでいた事に...」
その瞬間、死んだはずの男の体が光出した。それを見たリーヴァは直ぐに私の元へ来て、その体で、私を守るように包んだ。
「全員!主を守れ!!」
その言葉に反応して各々が、主を身を呈して守ろうとした。
次の瞬間、その男から大きな音が鳴り熱風が吹き荒れた。
その風が吹き止むと、リーヴァが私から少し離れた。
「ルビナ王女ご無事ですか?」
「ええ、私は大丈夫よ...それより」
私が周りを見渡すと、大きな被害はないように思われた。だけど、あの男の体を中心に地面がえぐれていた。
「ユグラスさん!大丈夫ですか?」
その声に反応するように、私とリーヴァがシャーレの方を見るとそこにはシャーレを守って怪我を負ってしまったユグラスがいた。
「一応、生きてますけど...」
「ユグラス...お前」
「そんな顔すんな、お前が王女様守ったんだから、こっちも守らせろって」
そこにいたユグラスの腕は全く動かなかった。失ったわけではないから、時期治ると思うけど...
「ユグラスさん、すみません」
「シャーレさん気にしないでください。すぐ治しますよ」
「すぐに手当てしましょう。部屋を用意します」
カヒーナ王がすぐに対応してくれたことで、事なきを得た。だけど...
「悪い、俺は戦え無さそうだ」
「...気にするな、お前は軍師だ。後ろで...策を練っててくれ」
2日経ってもユグラスの右腕が動く事が無かった。
「ユグラス、シャーレを守ってくれてありがとう」
「王女様も気にしないでください。それよりシャーレさんに怪我がなくて良かったです」
そのシャーレは未だ自身のせいだと悩んでいた。その姿は私達の前では出さないようにしているが、長くいた私には分かるし、ユグラスへの献身的な手当てですぐに分かる事だった。
「ですので、シャーレさんも気にしないで下さいね」
ユグラスもその事を分かっているから、シャーレに微笑みを向けていた。
それを聞いたシャーレはユグラスの動かなくなった右腕を取った。
「そういう訳には行きません。私が貴方の右腕になります」
「え?」
「ユグラスさんが策を考える時は一緒に考えますし、手伝える事はします。少しくらい恩を返させてください」
シャーレの目は本物で、ユグラスも抵抗しようとしたが、その目を見ることで諦めたように苦笑した。
「わかりました。手伝って欲しい時は言いますね」
「はい。任せて下さい」




