最悪の予想(リーヴァ視点)
「...ハルジオン皇子1つ聞かせて欲しいことがあります」
「僕に答えれることなら」
そしてユグラスは1呼吸置いてから、その言葉を発した。
「第1皇子は今どこにいますか?」
俺は第1皇子が魔のものでは無いと知っている。
先程の会話の流れからして、ミクラナ帝国側も第1皇子も俺には勝てないという見解、しかも能力複数で驚いていたことから、能力は一つだけ。
ハルジオンの方を見ると表情を暗くしていた。
「お兄様は殺された。それも頭を喰われた状態で...」
「....は?」「....え?」
ユグラスの予想は当たっていたのかもしれない。
「なぁ、リーヴァ、あの魔のものの身体能力、第2王子と同じくらいだったんだよな」
「...そうだが、いや、まさか」
俺はハルジオンとイリアに視線を向けるが、その表情で全てを理解した。
「パラシアスの王族も同じような殺され方をしていました」
1番当たって欲しくなかった仮説。あの魔のものは相手の能力を文字通り喰える。
「あの魔のものはパラシアス第3王子を喰っていた...」
全ての糸が繋がっていく。
「これは...」
「イリア皇女、貴女の能力は能力を無効化する能力ですか?」
ルビナ王女は消去法からか、イリアの能力を推測していた。
「ええ、私の能力は相手の皇族、王族の能力を無効化するのです。リーヴァさんには効きませんでしたが」
「リーヴァ、どう思う?」
能力を無効化する能力、能力を喰える魔のもの。これは確実に...
「次の標的がイリア皇女と思われます。先程の違和感、近くにいる可能性すらあります」
「お姉様が狙われているだって!?」
「ハルジオン様!落ち着いて下さい!」
「これが落ち着ける訳ないだろう!」
マルコの制止も虚しく、ハルジオンは自分の姉を狙われた事で取り乱していた。
「...王女様1度アンス国に戻りましょう」
「私もそう考えていたわ。リーヴァだけじゃ勝てない以上、戦力を集めておくに超したことない」
ユグラス提案は的を得ていた。
それに何よりアンス国にはアルデミスがいる。聴覚に優れた人間がいるならば、不意打ちは防げる。
「すぐに軍を動かすわ。ハルジオン皇子、イリア皇女。着いていて来て欲しい」
「分かりました」
....不意打ちを防げる?あの時の魔のものは能力を発動させた後、なんの気配もなく逃げた。それなのに今回は聞こえた。
「リーヴァさんどうされましたか?」
俺が考え込んでいた素振りを見せていたからか、シャーレさんから話しかけられるが、そうだ、シャーレさんなら、もしかして。
「シャーレ様、俺が反応した時、何か音が聞こえましたか?」
すると、シャーレさんは少し思い出すような素振りをした後に呟いた。
「...気のせいだと思いますが、少しだけ」
シャーレさんの表情を見るに、確実にそうと言えるものでは無い。だが、もしかしたら...
「リーヴァさんが聞こえたのってカチャって音ですか?」
不意にイリアの専属騎士であるグラウスが、聞いてきだが、これは良好だ。
「聞こえていましたか?」
「外の音かと思いましたが、それがそうならば聞こえていました」
また、ここに聞こえる人物がいた。
シャーレさんももう少し修行を積めば聞こえるはず、それならば4人での対処が可能。
それに今回の敵は...
「ルビナ王女、確実ではありませんが、今回の敵は魔のものでは無いと思われます」
「何か理由があるの?」
「はい、まず第一にあの魔のものが能力で引いた時、音はしませんでした。ですが、今回はシャーレさん、グラウスさんが気づきました」
これだけで十分だ。それにあれが魔のものだとしたら引く必要がない。俺が強くなったと言っても互角以下。
能力を使えば、十分に対処されていた可能性がある。
「リーヴァの事だから検討がついているのでしょう?」
「検討...と言えるほど完璧なものではありませんが、王都に潜入した時に居た透明な敵、今回はその敵だと思います」
....王都にいた?
「リーヴァさん、その王都潜入は僕達が攻め落とした後ですよね?」
俺が首肯するが、最悪な展開になりそうだ。
「私たちの国に透明になれるような人間は居ないわ」
「え?」
ルビナ王女が驚くのも無理がない。
俺たちの見解では元々、あの敵は王族か皇族の誰か、だったのだから。
そしてそれは否定された。
「逆に考えると王都に私を狙っている者がいたのに、まるでそんな気配はしなかった...」
「だけど、今になってお姉様を狙い出した」
今まで狙われなかった事と、狙われた理由...
「リーヴァ、これって帝王が絡んでるんじゃないか?」
「...本当に最悪の見解を言ってもいいか?」
「何だ?」
俺の言葉に全員が集中した。そして俺は絶対にありえて欲しくなかった見解を伝える。
「半年前、帝王が急にパラシアスを欲したんですよね?」
ミクラナ帝国の全員が頷ずいたことで、俺は言葉繋げた。
「半年前、変わったことが1つあります。それもパラシアスにとって大幅に」
「まさか!?」
ルビナ王女は気づいたようだ。
「半年前は本物の鬼であり、初代パラシアス王の専属騎士パラシアス・羅刹が死んだ時です」
皇族達もパラシアスの歴史を見たのだろう。
「...まさか鬼がそんなに長寿だとは」
「それも驚きだけれど、なんでそれをお父様は知っていたの...?」
そしてここから導き出される答え。
「そしてあの魔のものが、その事を知っていたとしたら...いえ、多分知っています」
あの時、シャーロットと羅刹の武器をという発言をしていたからここは確定だろう。
「そんな...でもお父様がそんな奴と手を組むなんて!」
その可能性を否定したいイリアだが、そこを止めたのはハルジオンだった。
「...お姉様、お兄様が殺された後、僕はお父様の所に行ったんだ」
「何を...」
そしてこの結論を裏付ける事実が明かされた。
「その時、お父様は誰かと話していた。内容は聞き取れなかったけどその部屋から出てくる人が居なかったから、その時は独り言だと思ってた。でも今は...」
ハルジオンも実の父を疑いたくは無い。だが、そんな事よりも事実という避けようのないものが、ハルジオンの中にあったのだ。
「そんな...お父様...」
イリアも否定しようのない事実を突きつけられたことで、その場で崩れ落ちてしまった。
「ハルジオン皇子、イリア皇女、思うところはあるでしょうが、先にアンス国に向かってもよろしいですか?」
「はい、問題ありません」「....ええ」
そうして俺達はアンス国へと引き返すのだった。




