話し合い(リーヴァ視点)
「手始めに、この兵達に撤退の指示、そして私達がパラシアスを取り戻す戦いに参加しないことを宣言してください」
ルビナ王女は無駄な血を流したくないようだ。
本来ならば捕虜にするか奴隷にするかとなるが、全員を祖国に送り返すみたいだ。その判断に皇族達は理解出来ていないような表情を浮かべていた。
「それで...良いの?」
皇族の女性がそうつぶやくと、ルビナ王女は首を縦に振った。そしてその皇族は目を閉じたあと、自軍に撤退とパラシアスの領土に入らないことを命令した。
ミクラナ帝国軍の動揺はあったものの、皇族2人からの命令だったため、素直に従う事となった。
「厚かましい事だと分かっていますが、どうかお姉様だけには何もしないで頂きたいです。その代わり僕はどうなってもいいですから」
兵を失ったハルジオンはどうにかもう1人の皇族...いや、姉を救うつもりだった。
「ハル!?何を言っているの!」
「元々決めていた事なんだ。この作戦が上手くいかなかったら、お姉様だけは助けて貰おうと」
その後も言い争いは続いていたが、ハルジオンの姉を思う気持ちは揺るぐことは無かった。
「落ち着いて下さい」
見切りをつけたルビナ王女はその会話を切るように声を出した。
その声に言い争いは止まり、皇族2人が不安そうな瞳を持ちながらもルビナ王女を見ていた。
「第1に、私は貴方方を殺すつもりも奴隷などで使うつもりもありません」
やはり、ルビナ王女はお優しい方だ。祖国を奪われた、そしてその元凶がいるというのに、冷静に、そしてこれからの事に目を向けている。
「それでは僕達は...」
「私は貴方方と話をしてみたい」
ルビナ王女の目的は最初からこれだったようだ。だからこそ、自分を連れて行って欲しいと言ったのだ。
「話...それは交渉...という事ですか?」
皇族2人を捕まえている時点で、それを交渉材料にパラシアスを取り戻そうとしている。
そう考えるのは妥当だ。
「いえ、私はただ、話してみたい。異国の皇族と、そして出来ることならパラシアスを狙った理由も教えて欲しい」
だが、ルビナ王女の目的はあくまでも話をしたいというもの。
きっとこれは、アンス国との事で芽生えたことなんだろう。カヒーナ王との話、アンス国、専属騎士との関係。
その全てを目新しく、そしてその国の幸せを見たからこその話し合い。
「私は平和な世界を作りたい。だから貴方方を殺すことはしない。交渉材料にもしない。出来ることなら誰にも血を流して欲しくない」
その言葉に皇族達はあてられた...と言うべきだろうか。皇族は顔を見合せていた。そして頷いた後、ルビナ王女に視線を戻した。
「私達に出来ることはします。それはありがたいことです。それに私達にはその鬼と戦って勝てる算段もありませんから」
そうして、急ではあるが自陣の簡易的な場での話し合いをするべく、俺とルビナ王女は皇族達を連れて、自陣へと戻ることになった。
「ルビナ様、ご無事でなりよりです」
「ええ、リーヴァが居てくれたから問題はなかったわ」
「流石リーヴァだな。あんだけいた兵が全員引くとは」
「兵が引いたのはルビナ王女のおかげだけどな」
俺とルビナ王女が帰還した事で、ユグラスとシャーレさんは無事を喜んだが、本題はここから。
「シャーレ、ユグラス今から皇族と話し合いの場を設けるから参加してもらえるかしら」
「話し合い...ですか?」
ユグラスはこの判断をよく理解出来ていないようだが、シャーレさんはすぐに頷いていた。
「ええ、これからの為に出来ることをしたいの」
ユグラスはこの言葉で理解出来たようで、その話し合いに参加することになった。
そして、皇族2人とその専属騎士2人、計4人とルビナ王女、俺、シャーレさん、ユグラスによる話し合いが始まった。
「ひとまず、名乗っておきます。私はパラシアス第3王女パラシアス・ルビナ。隣にいるのが専属騎士のアルデナ・リーヴァ。....従者をしてくれているイラメル・シャーレ。最後に軍師オスロブ・ユグラス」
簡易的な自己紹介を終えると、皇族側も頭を下げた。
「私はミクラナ帝国第1皇女ミクラナ・イリア。隣にいるのが、専属騎士のカトスト・グラウス」
先程、俺に敵意を向けた男は、やはり専属騎士だったようだ。
茶色の髪に黒い瞳。その瞳は鋭くはあるが、先程のこともあり、申し訳なさそうにしている。
「僕はミクラナ帝国第2皇子ミクラナ・ハルジオン。隣にいるのが僕の師匠であり、専属騎士のゼルガル・マルコ」
お互いの自己紹介が終わったところで、話し合いが本格化する。
「話し合いと言っておいて申し訳ないのだけれど、ミクラナ帝国がパラシアスを狙った理由を教えて頂けますか?」
言葉だけを聞くと責めているように聞こえるが、ルビナ王女のその表情は穏やかで、そんなことを感じさせなかった。しかし...
「申し訳無いのですが、帝王が何故パラシアスを欲しがったのかは分からないのです」
ハルジオンの言葉は嘘偽りの無いものだったが、皇族内ですら知らないというのは些か...
「....そうですか」
「でも一つだけ、ある日を境に帝王がパラシアスを狙うようになっていました」
イリアのその言葉をルビナ王女は聞き逃すことは無かった。
「それはいつですか?」
「約半年前程です」
半年前...その中で大きく変わったと言うならば、何かがあったと言うこと。
「半年前...」
ルビナ王女は半年前のことを思い出そうとしているが、心当たりは無いようだった。
「誰だ!」
少し静かになった一瞬の間に聞こえた音に俺は反応したが、そこには人影1つなかった。
(気のせい...なのか)
「リーヴァどうしたの?!」
「っ、申し訳ありません。何者かの気配を感じたものですから」
よく見れば、皇族達に警戒されてしまっている。せっかくの話し合いの場を崩してしまった。
「何者か...リーヴァだけが反応出来るなら、あの魔のもの...」
ルビナ王女は俺の非を責めることなく考えを巡らせたが、その魔のものという言葉にハルジオンが反応した。
「魔のものというのは?」
「アンス国を取り戻す時の戦いで、私達が戦った敵よ。私達は魔のものと呼んでいます」
だが、ひとつの事実が浮かび上がる。
「その者は討伐されたのですか?」
そう、あの魔のものはミクラナ帝国の人間では無いということ。つまり、完全なる部外者。
「いえ、リーヴァが戦ったけれど、決着が着くことはありませんでした」
「口を挟むようで申し訳ありませんが、あれはミクラナ帝国のものでは無いのですか?」
シャーレさんもその懸念はあったようだが、皇族達は首を横に振った。
「私達の中で...皇族を除けばここにいるマルコが1番強いですが、それでもリーヴァさんには太刀打ち出来なかったと聞いています」
「じゃあ、あれはミクラナ帝国の人間でも、アンス国の人間でも、そしてパラシアスの人間でもない...」
あの戦いに関係のある三国の人間ではなかった。だとしたら一体...
「鬼でも倒せない敵...」
「その魔のものはどんな戦い方を?」
戦闘者として、聞きたいところなのだろう。マルコは俺と戦った時のように、少し気分が上がっているように思えた。だが、そんな優しいものでは無い。
「わかる範囲で伝えれることは、技術が私よりも上で、この状態で互角以下...さらに能力を複数持っていました」
「能力を複数!?」
「ど、どういう事ですか!?」
俺の発言に専属騎士の2人は動揺を隠せていなかったが、その主であるハルジオンとイリアは冷静だった。
「その能力とは、どんなものでしたか?」
「分かるものだけなら、敵を固めて動けなくするもの、重力によって足がめり込むほど重くなるもの、身体能力の向上させるもの、空気の塊を飛ばすもの、憎悪を増長させるもの、最後はよく分かりませんでしたが、目の前から一瞬で消えるものでした」
言うことで理解できるが、ひとつでも強大な能力を6個...それもまだあるかもしれないと言うだけで、あの魔のものを放っておけない。
だが、この状態ですら勝てるか危うい...
「能力が6個も...」
「それに、空気の塊を飛ばすのはお兄様と同じ...」
ハルジオンのその言葉で、ひとつのありえない説がユグラスの中で出てきたらしい。
それは...




