それぞれの想い(複数視点)
「まさか待ち伏せとは思いませんでしたね」
「しかも10万以上で....皇族が2人。王女様、どうしますか?」
ユーシリアに向かっていた俺達だが、ミクラナ帝国による待ち伏せを受けていた。それも皇族が2人確認出来る。そのうちの一人には見覚えがある。
「もちろん、戦うわ」
「承知致しました」
そしてルビナ王女は自軍に向けて声を張った。
「この中に不安に思ってる人が多い事は分かってるわ!でも、私は負けという心配をしていない。私達は絶対にこの戦いに勝てる!私に着いてきて!」
その声に兵達の動揺、不安は取り除かれる事になる。
「「おー!!」」
ルビナ王女は兵達の覚悟を背負って戦線に立つようだ。
「リーヴァ、私をあの皇族の元へ連れて行ける?」
「容易いことです」
ルビナ王女には何か考えがあるようで、敵陣ど真ん中への特攻を考えていた。俺はそれに対して従うが、ユグラスからしたら少し不安に思ったようだ。
「王女様、わざわざ戦線に立たなくても、俺やシャーレさん、それにリーヴァも居ます。自陣で待っていた方が...」
確かにルビナ王女は今やこの3万の軍、アンス国にいる3万も合わせれば、6万の軍を率いる人だ。わざわざ最前線に出る必要が無い。
だが、ルビナ王女の顔に迷いは無い。
「ユグラスの言うことはごもっともよ。でも、これは理屈ではないの。全てを臣下に頼る人間には誰もついてこない。私のこの決意は...行動は今の状況に役に立つものよ」
普通ならば3倍の兵力、しかも王族の能力が無い。それなのに相手には皇族。兵達が逃げ出してもおかしくない。
だが、守る対象であるルビナ王女が最前線に出るということで、兵達のその動揺を消し去っている。
「...余計なことを言ってしまい、申し訳ありませんでした」
「ユグラスが気にすることでは無いわ」
そうするとルビナ王女は自身の馬から降りた。俺は意図を理解して、自らも馬を降りた。
「ルビナ王女、お先にお乗り下さい」
「ええ、ありがとう」
1つの馬に俺と王女を乗せて、目的地を捉えていた。
「ユグラス、退路は頼んだぞ」
「ああ、任せろ」
「ルビナ様、お気をつけください」
「分かっているわ」
そうして俺とルビナ王女は、ユグラスとシャーレさんに後方を頼み、皇族の元まで突撃していく。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「お姉様、パラシアスの軍が港町ユーシリアへと動いたよ」
「...分かったわ」
約1週間前、パラシアスの第3王子のいるアンス国が、アンス国の王女とパラシアスの王女に落とされたという報告を受けていた僕達は、これ以上の兵力差が出る前に、打ち倒すつもりだった。
「ユーシリアには僕たちの方が早く着くから、待ち伏せは出来る」
「ハル、もし、私の能力が効かなかったらどうするつもり?」
お姉様はあの鬼の話を聞いて、対策を考えてはいた。だけども、どう足掻いてもいい対策は思いつかない。
あるとしたら、パラシアスの第3王女を人質にする事のみ。だが、それを許す鬼では無いだろう。
「...全滅、もしくは捕虜だと思うよ」
これは避けることが出来ないと思う。せめて僕の命と引き換えに、お姉様だけでもとお願いする事しか出来ない。
「...いいの?本当に」
お姉様はお兄様の件もあり、かなり心配をしているが、こればかりは仕方がない。
「逆にこれ以上兵力を拡大されたら、打つ手が無くなってしまうから...」
あの鬼1人でも手に負えないというのに、さらに兵力まで並ばれようものなら、無血開城すら視野に入る。
それはお姉様も分かっている事だろう。
「...そうね、きっと、大丈夫よね」
「うん、お姉様がいるなら大丈夫だよ。今までもそうだったように」
その言葉にお姉様は僕の頬を撫でてくれた。
そして僕達は、13万の兵と師匠、お姉様の専属騎士カトスト・グラウスを連れて先回りをしていた。
「相手は3万の軍、普通に考えれば我々の勝ちですな...」
師匠は普通に考えれば勝ちと考えていた。それは僕も同じだし、相手の第3王女には能力は無い。
「お姉様の能力さえあれば勝てる。今までも...これからも」
お姉様の方を見ると少し震えていた。それは専属騎士であるグラウスも気づいていた。
「イリア様、ご心配などありません。私がその鬼を打ち倒して見せましょう」
「お姉様、大丈夫だよ。いつも通り勝てるから」
グラウスに続くように僕もお姉様の不安を取り除くように震える手に手を重ねた。
お姉様の震えはそれで収まり、僕に微笑みを向けてくれる。
「...ありがとう、2人共。もう大丈夫よ」
「伝令!鬼がこちらに単騎で向かってきております!」
「来たか」
伝令兵の焦りは凄まじいものだった。
しかし、3万の軍を持ちながらあの鬼が単騎で来るとは...
「あれね...能力発動」
お姉様はあの鬼に向けて能力を発動させた。
(どうなる....)
もし、これであの鬼の勢いが止まらなかったら...そして運命のときを迎えてしまった。
白髪の鬼が目の前に来たことで。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
やはり、リーヴァは強い。
この13万の軍相手に怯むことなく、最短距離で皇族の元まで向かっている。
「ルビナ王女、あと数分で着きます」
「ありがとう、リーヴァ」
王女である私がリーヴァに隠れているのは、あまり褒められた事では無いけれど、これも私がやりたい事のため。
あの皇族達と話をしたい。最初は打ち倒すつもりだった。
戦いに勝って、国を取り戻して、平和を創る。
私の理想を叶えるつもりだったけど、私は少しずつ変わっている。平和な世界を作りたい。
国だけじゃなくて、この世界の全てを平和にしたい。
光を奪われたアルデミスを見てそう思った。
この世界では...私の知らないところでは、もっと酷いことが起きてるかもしれない。私は自分の国だけじゃなくて、全ての人が平穏な生活を送れるようにしたい。
そのための話をしたかった。
そして、その事を考えているとリーヴァと私を乗せた馬は、皇族の元へと辿り着いていた。
「ルビナ王女、着きました」
私はその言葉を聞いて、目の前にいる皇族に目を向けた。あの時見た金色の髪の少年と、長い金色の髪を1つに纏めているシャーレ位の女性。
その場には専属騎士も合わせて4人居たが、1人以外は諦めているようにも見えた。
「お前がイリア様とハルジオン様の悩みの種か...是非、討ち取らせてもらおう」
「相手になろう」
リーヴァそういい、その男に向かって行こうとしたが、私はそれをさせる訳には行かない。
「リーヴァ、絶対に殺さないで」
「分かりました」
私の発言にリーヴァは素直に従い、次の瞬間にはその男は倒れていた。
そしてそれとほぼ同時に、あの少年が両手を上げていた。
「大人しく投降する。厚かましいお願いではありますが、どうか命だけはご容赦を」
もともと、リーヴァの力を知っているからだろう。
その少年は被害を拡大させないためか、すぐに投降を選んだ。これは私が望んでいる事に近い事が出来るはずだ。
それになにより、これ以上誰も傷つかない。
「その投降を受け入れます。皇族の貴方たちだけは連れていきます」
皇族達は頷いたが、そこに慌てて声を上げたのは、リーヴァが利き手を切り落としたあの男だった。
「お、お待ち下さい。どうか私も連れて行ってくれませんか」
どうやら、マルコは自分の主がそして、自国の王女が心配らしい。
それもそのはず、逆の立場ならリーヴァは刺し違えてでもと考えるほどの状況だ。
「武器を捨てる条件でのみ、それを許可します」
これは当たり前だ。
もし、武器があるなら気を抜いた一瞬で何をされるか分からない。リーヴァがいるからそんな心配もないが、念には念を入れておきたい。
そうして、私とリーヴァは皇族2人とその専属騎士2人を連れて自軍へと帰還した。




