異国の王女と盟約を(ルビナ視点)
「ルビナ様あれは...」
私がシャーレとユグラスによって逃がされた直後、カヒーナさんとアルデミスの周りに竜巻のようなものが巻き起こった。
「なんの能力なの」
よく見れば、その中心にいるカヒーナさん達も傷を負っていた。
(能力が制御できていない?)
聞いた事のない事例だけれど、そう思うしか出来ないほどの自傷だった。そして次の瞬間、その竜巻が収まりリーヴァとカヒーナさんが倒れていた。
「リーヴァ!!」
私はまたあの時の事を思い出して、すぐに駆け寄ることになった。
「リーヴァ!リーヴァ!起きて!」
「カヒーナ様!大丈夫ですか?!」
先程まで、争っていた私達は互いに気を失った者の看病に当たっていた。
「ルビナ様、ここでは開けすぎています。少し場所を変えましょう」
シャーレの言う通り、ここはミクラナ帝国の兵がいた場所、私はそれに頷いた。
「貴方達も来なさい」
リーヴァと同じ黒髪、だけどもユグラスと同じくらいの髪の短さ、黒い瞳を持つ騎士に私は命令をした。
「....リーヴァさんには恩がありますので、従わせて頂きます」
先程、殺せるのに殺されなかったアルデミスは従順になっていて、私達についてきた。
そして隠れられる岩陰にリーヴァとカヒーナさんを寝かせて、私達は対話を始めた。
「改めて名乗っておくわ。私はパラシアス第三王女、パラシアス・ルビナ。横にいるのはシャーレとユグラス、2人とも私の仲間よ」
2人が頭を軽く下げると、アルデミスも頭を少し下げていた。
「どんな姿か分かりませんが、私はアライト・アルデミス。アンス国第1王女アンス・カヒーナ様の専属騎士です」
「どんな姿か分からない?」
確かリーヴァが盲目って言っていた気が...
「はい、私は幼少の頃パラシアスの王族によって視力を奪われました。ですので、貴女方の姿どころかカヒーナ様の姿でさえ、見ることが出来ないのです」
その言葉にはパラシアスの王族への憎悪が詰まっているように...いや、詰まっていた。
「でも、アルデミスさんはリーヴァの攻撃を防いでいたよな」
ユグラスの意見はごもっともだが、そのからくりは前にリーヴァから聞いている。
「私は目が見えない分、聴覚が優れています。そのため風、声、音、環境の全てから相手の位置を特定出来るのです」
これはリーヴァがシャーレ相手にやった事と似ている。しかし、その精度において、リーヴァよりも上なのだろう。
それよりも...
「パラシアスの横暴によって視力を奪ってしまい、大変申し訳ありませんでした」
私はアルデミスが見えないとわかっていても頭を下げた。たとえ私がやった事でなくとも、これは私の責任だ。
「貴方は...本当にあのパラシアスの王族なのですか」
「ええ、今は国を追われているけれど、確かにパラシアスの王族よ」
「国を追われている?」
「パラシアスは今、ミクラナ帝国の手に落ちたの。だから私は再起を図っている所よ」
アルデミスはパラシアスの現状について知らないようだったが、無理もない。
(自分の国が奪われて...私たちと同じね)
同じような境遇において、私がアンス国のことを知らなかったように、彼らもパラシアスの事を知らなかったのだろう。
「それにしては4人しかいないようですね...他のお仲間はいらっしゃらないのですか?」
「私は能力がないの...だから私について来てくれる兵は居ないわ」
「王族なのに...ですか?」
「ええ」
わかっている。能力を持たない王族なんて居るはずもなくて、居たとしても、それはただの一般人だって事くらい。
「....貴方達はパラシアスの第三王子と合流するつもりでしたか?」
「いいえ、私たちは第三王子を討ち取るつもりよ」
「それは一体なぜですか?」
「第三王子はパラシアスを裏切った。だからこそ、帝国の目的と裏切った理由を聞きたいの」
「もし...第三王子を討ち取った場合...アンス国は」
パラシアスの王族に光を奪われたアルデミスは、国をどうするのかと言いたいのだろう。
「アンス国は私のものではなく、貴方達のものよ」
奪うなんて真似をするわけが無い。そんなことをすれば、私達はミクラナ帝国と同じ、そして今までのパラシアスの王族と同じになってしまう。
「.....最後にひとつ...リーヴァさんは王族なのですか?」
能力を聞いたアルデミスは、その事について気になったのだろう。その疑問は私達も1度持ったものだった。
「違うわ、彼は....私の専属騎士で...鬼に鍛えられた人間よ」
これが一番伝わりやすいものだと思った。
鬼というものはこの世界で恐れられるものだったから。
彼の強さを証明するのにふさわしい言い方だ。
「鬼....人間...能力....」
それでも能力を使える事の説明にはなっていない。それでもアルデミスは飲み込んでくれたみたいだ。
そうしているうちに、リーヴァとカヒーナさんが起き上がってきた。
「ルビナ王女!ご無事ですか?!」
体をふらつかせながらも、私の心配を第一にするリーヴァにユグラスが支えとなっていた。
「そんなすぐに起き上がらないで、安静にしなさい」
「申し訳ありません」
「アルデミス!無事?!」
「カヒーナ様、私は大丈夫です。カヒーナ様こそ、ご無事で何よりです」
そうして、お互いが揃った所で本当の話し合いが始まった。
「....王女はどこ」
「私です」
「でも貴方は金色の髪をしていないじゃない」
私の髪を見て王族ではないと疑うカヒーナさんだが、能力がないのだから仕方が無い。
「私には能力がありませんから」
「...王族なのに?」
「ええ」
やはり、疑われてしまう。たかが髪の色のはずなのに、それは王位を示す1つになってしまっている。
「カヒーナ様、その方は嘘をついていません。私が保証致します」
「アルデミス....」
それでも、アルデミスは私を信用してくれるようだった。
皮肉にはなってしまうが、目が見えないからこそ、中身を見て判断してくれている。それは私にはありがたい事だった。
「私達の目的は一致しているはず」
「確か、第三王子を討ち取りたいんですよね?」
「ええ、私はなぜ裏切ったのか、そして帝国の目的を聞くために戦わなくてはいけない」
「そして私はパラシアスの第三王子を討ち取り、国を取り戻したい」
私とカヒーナさんの目的は一致していた。だからこそ、私はカヒーナさんに手を差し出した。
「私達はカヒーナ王女の国を取り戻すお手伝いをします」
「...その代わり、パラシアスを取り戻すのを手伝え、という事ですか?」
私はその言葉に首を横に振った。
「それはおまかせします」
「どういうつもり?」
「アルデミスさんの目はパラシアスの王族せいで光を失った。そしてアンス国もパラシアスの王族のせいで奪われた。だから見返りを求めていないのです」
これは私達の国の責任。
だからこそ、見返りなんてものは求めてはいけない。
「貴方は何もしていないじゃない」
私はそれを聞いて、真っ直ぐな視線をカヒーナさんにぶつけた。
「私の国の責任は私が背負う。それが王になる者の責任だから」
私が国を取ったとしても、それで終わりでは無い。今までのパラシアスの王族の行いが消えるわけじゃない。
これは私のやるべき事の1つだ。
「貴方みたいな王女が蔑まれるなんて、勿体ない国よね」
「それも変えていくつもりよ」
「私は国を取り戻したい」
そして、私の手はカヒーナさんによって握られた。
「その申し出、ありがだく受けさせて頂きます。ですが、ただ助けられるのはアンス国の王となるものとして認めたくない。アンス国はパラシアス奪還にも協力させてもらうわ」
「ありがとう、カヒーナ王女」
「こちらこそよ、ルビナ王女」
私たちはお互いの国を取り戻すという盟約を結んだ。
これにより、私達はアンス国5000の兵を得られることになった。




