異国の王女(リーヴァ視点)
「武力史上国家・ドゥラウグスに行こうと思うのだけど、どうかしら」
シャーレさんとの修行中、次なる目的地を決めたルビナ王女は全員に提案した。
「異論はありませんが、なぜドゥラウグスなのですか?」
ルビナ王女の決めたことなので、異論などは無いが、前日に第三王子を倒すと言っていたため、大幅な変更だ。
それにはシャーレさんも同様だった。
「これは元々ユグラスと話していたの。もし兵を集められても金貨がなければ、兵を置いて置けないって」
確かに俺達は今、ほぼ自給自足の生活をしているが、本格的に国を取ろうとすれば兵を集めなければならない。
その時に軍資金がないとなれば、何も出来なくなってしまう。ユグラスはその事を考えていたみたいだ。
「王女様の夢のために金は必要だろ?あそこにはコロシアムがあるからな。金を稼ぐには好都合だ」
コロシアム、その名の通り殺し合いによって勝者には賞金と名誉を、敗者には死をもしくは敗北宣言をすれば奴隷落ち。
金を稼ぐには確かにちょうどいい。ここでは貴族達は、賭けをすることによってさらに儲けれる。
「それではリーヴァさんの負担が大きくなるのでは?」
確かにその通りではあるが、きっとユグラスの事だ。何か考えがあるか、もしくは....
「人間相手にリーヴァが負けるはずないだろ。それに修行相手欲しいだろ?」
「流石だな」
「能力の持続時間も伸ばしたいようだし、ちょうどいいと思ってな」
やはり、ユグラスには考えがあったようだ。修行は一人でやるよりも、誰かを相手にした方がいい。
それが命をかける戦いならば、さらに成長ができるというものだ。
「待ってください、リーヴァさんの能力って...あれは使ってはいけません!」
「そうよ、また倒れられるのは嫌だわ」
必死に止めるルビナ王女とシャーレさんだが、ユグラスはこの事については言ってなかったようだ。
「心配には及びません。あの能力は5秒程度なら反動がありません」
師匠からあの能力を教えて貰ってから5年間、役1年で1秒の成長スピード。
かなり遅く微々たるものだが、5秒もあれを使えて戦えるなら大体の敵になら勝てると思いたい。
「5秒.....いや、それでも充分な力ですね」
「ええ、5秒もあればほとんど殲滅出来るはずよね」
前回の2万の兵を倒すのに要した時間は2分程なので、正確に言えば殲滅は出来ない。しかしそれでもかなり脅威だったのだろう。2人共驚いてこちらを見てきている。
「そういう事なので、修行という意味でもありがたいです」
「分かったわ、そこまで言うなら大丈夫ね」
ということで、俺たちのドゥラウグスへの出発が決まった。
「ルビナ王女、あれを見てください」
「あれは....助けに行くわ」
俺たちがドゥラウグスへと向かっている時の事だった。馬車の1つがミクラナ帝国の兵に囲まれていた。
それを確認したルビナ王女は、その馬車の救出へと向かった。
「これは....」
だが、そこに着いた時には20人ほどのミクラナ兵が倒されていた。
「貴方達もミクラナ帝国の人間ですか」
そこにいた男は剣を持ちこちらに微笑んでいた。俺は警戒をしていたが、ルビナ王女がそれに答える。
「違うわミクラナ帝国の兵に襲われていたから助けに来たの」
「助け?確かに武装をしていますね。お名前はなんというのですか?」
「パラシアス第三王女、パラシアス・ルビナ」
その名前を聞いた瞬間、馬車の中から悲鳴にも似た声が響き渡った。
「アルデミス!その王女を殺しなさい!」
「わかりました。カヒーナ様」
そして敵対の意志を持っていなかった俺達に対してそいつは剣を向けてきた。
「お下がりください」
「なんで...」
俺はルビナ王女を下がらせて、その男と対峙したのだが、違和感があった。
(まさか...この男)
俺はそれを確かめるべく、攻撃を仕掛けた。軽い撃ち合いのつもりだったのだが、その剣がことごとく弾かれてしまった。
それはまるで太刀筋が分かっているかのように。
「そんな技術では私には当たりませんよ?」
「小手調べで調子に乗らない方がいいぞ?」
これはただの探り合い、俺はそこで素早くアルデミスの死角をついたはずだった。
「やはりか」
「気づいたようですね。貴方、名前は?」
俺はアルデミスへの完璧な一刀を防がれてしまった。
「アルデナ・リーヴァ。ルビナ王女の専属騎士だ」
「同じですね」
俺はそいつと距離を取りながら考えを巡らせていた。
(こいつは....目が見えていない。その代わりに聴覚が異常な程良い)
俺が後ろを取られても剣の軌道を読めるように、こいつもそれが出来る。
「盲目の剣士、貴方も専属騎士か」
「ええ、私もアンス国第1王女アンス・カヒーナ様の専属騎士です」
アンス...確かパラシアスと中央にある国、キャディラルの間にある小さな国のはず。
なぜその第1王女がここにいる。いや、それよりも...
「なぜルビナ王女を狙う」
「私はカヒーナ様に言われた事をするのみ、ただ言えることはパラシアスの第三王子に国を取られたという事だけ」
「なら待て!俺たちは敵じゃない!」
「それで辞められないのは、貴方も分かるでしょう?専属騎士なんですから」
話せば分かるし、さらには味方にもなり得る。だが、主の命令は絶対の専属騎士においてそれは出来ない。
第三王子のことは俺たちも知りたい情報...どうするべきか。
「リーヴァ!勝ってからでも話し合いは出来るわ!」
俺が迷っている事を察したルビナ王女から、そんな指示が飛んだ。
だからこそ俺は殺さずに勝つことにした。俺が剣を鞘に収めるとその音で、アルデミスは首を傾げた。
「諦めたのですか?」
「あのままだと殺してしまう」
「何を言っているのですか?貴方の剣は1度たりとも当たっていませんよ」
「今はな」
そして俺は5秒間の能力を使用する。
(その反射神経と聴覚でついてこられるかな)
「能力発動」
「なっ!どういう事だ」
俺が能力を発動させた瞬間、同様からアルデミスの口調が綺麗なものじゃなくなった。
「あっ」
そして次の瞬間にはアルデミスは気を失った。
「ルビナ王女終わりました」
「ええ、ありがとう」
「何があったの!アルデミス、返事をしなさい」
馬車の中にいるカヒーナはまだ状況を理解出来ておらず、気を失っているアルデミスを呼んでいた。そんなカヒーナに対して、ルビナ王女は近づいて行く。
「貴方の専属騎士は倒されたわ。話し合いに応じてくれるかしら」
その言葉を聞いたカヒーナは馬車から飛び出してきた。
「アルデミスが負けるはずないでしょ....う」
そしてその目に映るのは自分の専属騎士が倒れているところだった。
「アルデミス!!」
カヒーナはアルデミスに駆け寄っていた。
「しっかりして、アルデミス!」
「うぅ、カヒーナ様....申し訳ありません」
「良かった....生きていてくれれば良いのよ」
カヒーナという王女は自分の専属騎士が負けても責めずに、生きていることを喜んでいる。
きっとこれならば、話せば分かるだろう。
「なんで殺さなかったの」
その言葉にはパラシアスの王族なのに、という意味が含まれているような気がした。
それに答えるのは俺ではないだろう。
「言ったずよ。話し合いをしたいって」
「私の国を奪った貴方達を信じられると思うの?」
対話を望んでいるのだが、国を取られたというこの王女は応じないだろう。
「私の命に変えても....貴方たちは倒してみせる」
「ダメです!カヒーナ様」
「能力発動」
何故かアルデミスは止めに入ったが、こうなってしまったか...
「ユグラス、シャーレ様、ルビナ王女を連れて逃げてください」
「はい」「わかった」
(さて、この王女の能力は....)
何が来ると思った瞬間、俺の頬が裂かれた。
それと同時にカヒーナを中心に暴風が吹き荒れた。そしてその風は俺の体を切り裂いていく。
「頼む!カヒーナ様を止めてくれ!」
「何を」
そうして見たカヒーナとアルデミスは俺と同じく、傷ついていた。
(能力を抑えられていないのか)
「能力発動」
この短時間で連続の能力発動....身体が持つと良いけど。俺はすぐ様近寄り、カヒーナを気絶させたのだが。
「がぁぁぁぁ.....はぁはぁ...っ」
俺は残念ながら許容上限を超えてしまい、絶え間ない苦痛が俺を襲った。
そして俺は意識を手放してしまった。




