一番近くにいる者(ユグラス、シャーレ視点)
王女様達との会話が終わり、夜になった時だった。
久しぶり会うリーヴァと話がしたかった俺は、リーヴァの元へ行こうとしていた。
(ん?どこ行くんだ?)
王女様達も寝静まった頃、リーヴァが剣を手に家を出ていくのが見えた俺は、それについて行くことにした。
そしてそこで見たものは...
「能力発動」
リーヴァが能力を発動させていたところだった。
俺は前回リーヴァが苦しんだところを見たから、慌ててそれを止めに行った。
「リーヴァ!何してるんだ!」
茂みから出てきた俺に対して、リーヴァは能力を解除した。
「ユグラス?どうしたんだ?」
「どうって...」
そして俺はそこで疑問が出てきた。
(なんで平然としているんだ)
あいつは能力を使ったあと倒れていたはずなのに、今は何ともないかのように過ごしている。
「...何ともないのか?」
「持続時間が短かったからな」
それを聞いた俺は理解した。
リーヴァは能力を発動できても、持続できないと言っていたが、あれは実体験だったということに。
「もしかしてずっとか?」
「ああ」
リーヴァはあの時から一人で、いや、正確にはひとりじゃないけれど、修行をし続けていたんだ。
家族の仇と俺との誓いを守って....
「リーヴァ、俺にも修行をつけてくれよ」
「ああ、俺一人強くなっても意味が無いことが分かったから、ユグラスにも強くなってもらうよ」
そうだよな、リーヴァ。お前一人に戦わせる王女様とシャーレさんじゃないよな。
だけど、俺も1人では戦わせないぞ。俺がお前の横にたってやる。
「絶対取り戻すぞ」
「もちろんだ、二度と悲劇が繰り返されないように」
そうして俺達は修行をしていた。
流石にずっと修行を続けていたリーヴァについて行くことは出来なかった。
俺は大の字で倒れて息を整えていたが、その間リーヴァは能力の持続時間を伸ばそうと、反動ギリギリ、いや反動を少し受けながら能力を発動させ続けていた。
「なぁ、それは誰のためなんだ」
俺は気づいたらそんな事を言っていた。
(でも、誰のためなんだろうな)
王女様なのか、自分の為なのか、それとも...
「昔は俺の為だった。家族の仇を取るためにただ、殺意を貯めてそれだけに執着していた」
「なら、今は?」
リーヴァはそれに対して立ち上がり、自身の剣を見ていた。
(あれが、リーヴァの師匠の剣か....)
王女様から聞いた初代の専属騎士の話、そしてリーヴァの話。その上であいつは今....
「俺はルビナ王女と出会って、専属騎士になった後はルビナ王女のためにこの力を振るっていた」
(やっぱりそうだよな)
俺は少し期待していた。
もしかしたら俺との誓いを第一に考えていたんじゃないかって。
俯いた俺は、自分自身にため息をついていたが、その後のリーヴァの言葉に気付かされることになった。
「今でもルビナ王女のために振るっているが、それだけじゃない。俺は俺のような人間がもう産まれないように、憎しみの連鎖が終わるように、この力を振るっている」
ああ、そうだったのかリーヴァ。お前にも王女様の思想が、理想が、夢が、いい意味で乗り移っているんだな。
「俺も出来るかな」
「それはユグラス次第だ」
「ああ、そうだよな」
俺はリーヴァから差し出された手を握り、もう一度修行を再開しようと立ち上がった。
「だが、ユグラス」
「どうした?」
その時のリーヴァの目はあの頃と同じで、それでいて真剣さを感じさせるものだった。
「お前になら、出来るさ。なんたって俺の悪友で盟友なんだから」
「.....ありがとうリーヴァ。ちょっと待っててくれよ。すぐに追いついてやるからさ」
「追いつかれる気はしないが、頑張れよ」
「ま、追いつける気はしないな」
「なんだよそれ」
そうして俺達は約10年ぶりに笑いあった。俺もリーヴァと共に王女様を王にしたい。
俺たちの新しい誓いを今、ここで。
「俺たちで王女様を王にして」
俺が拳を突き出すとリーヴァも理解したように笑ってくれた。
「どこの国よりも最高の国を」
「「創ろう!!」」
俺たちの誓いは形を変えて動き出した。
きっとこの誓いも破られる事はなく、この誓いは続いていく。
いつか必ず訪れる未来のために、俺はこの命をかけたいと思えた。
「さぁ、こい!」
「一発くらい当ててやる!!」
そうして俺達は日が昇る直前まで修行した。
(これで少しは役に立てるかな)
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
盟友達の誓いをしている時、同じような事をしている人達がいた。
「ルビナ様、大丈夫ですか?」
王都の状況を知ってからルビナ様の表情が良くならない。
当たり前のことではあるが、従者として、そして自分の子のように思っているルビナ様には、笑顔でいて欲しい。
そのために出来る事をと思っていたのだが...
「ええ、私は大丈夫よ。でも、リーヴァにまた負担をかけてしまう事が、たまらなく悔しいの」
ルビナ様の考えている事は、私と全く同じだったのだ。
「私もです。修行をつけてもらって戦えるようになった自覚がありますが、それでも微力です」
王都に潜入した時、リーヴァさんが気づけたあの敵に気づくことが出来なかった。
修行をしていないんだから仕方ないと言えば、仕方が無い。
一般的に考えれば、音だけで判断するのは至難の業のはずだ。
だけど、私はそれを理由に逃げたくはない。
「私はまだ....第三王女なのかしら」
その声は震えていた。
それも無理は無い、パラシアスは帝国の手に落ち、王都は荒れ果てた。
それになりより、ルビナ様には能力がない。
「たとえ、ルビナ様が第三王女じゃなかったとしても、私は....いえ、リーヴァさんもユグラスさんも貴方の味方ですよ」
これだけは断言出来る。リーヴァさんはルビナ様が王族でなくとも、ついてくる。
ユグラスさんとは付き合いが短すぎるため、断言は出来ないが、リーヴァさんがいる限りついてくるはずだ。
「皆がいても、今の私に何が出来るのかしら...」
「そんな弱気を吐いて、王国を諦めたいのですか?」
ルビナ様は自分の無力を痛感しているけども、それはついてくる人をそして、自身の夢を揺るがす理由にはならないはずだ。
ルビナ様は私の言葉に涙を貯めながらも力強く言い返してくれた。
「違う!私はパラシアスをいい国にしてみせる!だけど...」
「なら、やる事は1つです。ルビナ様が言っていたように近道はありません。強くなってください。それは身体的だけではなく、精神的にもです」
戦えるようになる力は確かに必要だが、それ以上にルビナ様はこれから多くの人の上に立つ人間になる。
だからこそ、力より、精神的に強くならなければならない。
「.....私はやっぱり弱いわね」
ルビナ様は今まで、そして直近の事を考えているが、こういう時は何も言わずにそばに居るのが1番いい。
これは私がルビナ様の近くにいてわかった事だ。
「リーヴァが倒れた時、私はダメかもしれないと思ってしまった。それくらいリーヴァは私の精神的支柱になっていた。シャーレやユグラスがいても戦うという事に関して、リーヴァに頼りすぎて、そして無意識的に慢心していた」
これは私も思った事だ。
あの時、リーヴァさんが帝国兵を撤退させたが、その後倒れた時にはこれからどうなるか分からなくなっていた。
リーヴァさんさえいれば、確実に勝てるだろう。そう思ってしまっている私達は、リーヴァさんが死ぬような事があれば、崩れてしまう。
だけど、それは本来....
「私が皆の精神的支柱にならなければならないのに....私は弱すぎる」
ルビナ様も分かっていた。上に立つものの役割を、そしてそれに足りていない自身の強さを。
「急激に成長する人はいませんよ。リーヴァさんの強さが10年もの間の厳しい修行によるものだったように、ルビナ様も時間をかけて強くなってください」
そして、私自身も強くならなければならない。ルビナ様に置いてかれないように、リーヴァさんに頼りすぎないように。
「.....ありがとう、シャーレ。もしまた私が弱気になったら背中を叩いて欲しい。そしたらすぐに立ち上がれると思うから」
「ええ、痛いくらいには叩いてあげますよ」
「なら、叩かられないようにしなくちゃね」
そうして私達は眠りについた。
王都を奪還して、ルビナ様の夢を叶えるためにこれからの厳しい戦いに備えるように。




