王都侵入(リーヴァ視点)
「....酷いですね」
シャーレさんは王都の状況を見てそう呟いていた。街が荒らされ、まだ攻め落とされて数日と言うのに、国民が飢え始めている。
(40万の兵を養うためか....)
いくらパラシアスの海産資源が潤沢と言えど、国民を合わせて50万以上の人間を賄えるほどの食料はない。
俺とシャーレさんは見つからないように、路地裏を歩きながら王都の散策をしていた。
「ルビナ王女が来なくて良かったです」
「ええ、同感です」
もし、ルビナ王女がこの状況を見てしまっては、暴走する可能性があった。俺ですら、これはおかしいと思えるほどにパラシアスが弱体化していた。
「宮殿を目指しますか?」
「いえ、それは最後にしましょう。最悪見つかる可能性があります」
王都の状況が分かった以上、あとは第三王子とミクラナ帝国の目的だが....
「シャーレ様....つけられています」
俺とシャーレさんの後ろを歩く人が3人程...微かな音から武器を持っている事も分かった。
「どうしますか?」
俺は後ろの人間にバレないように人気のない路地裏を歩き出した。そして完全に人気が無くなったタイミングで...
「おい、お前らパラシアスの人間だろ?食料と金目のもん出してもらおうか」
出てきたのはミクラナ帝国の兵士3名...
(無秩序ということか)
国民が飢えていた理由はミクラナ帝国による略奪だった。
「おっ、こいつ女じゃねぇか。じゃあこいつを...うがぁぁぁ」
シャーレさんに触れようとしたその兵士の腕を俺は切り落とした。
「力の無いものから奪い取る....ミクラナ帝国も同じか」
俺はすぐさまその3人を殺してゴミ箱に入れて置いた。
「バレますよ?」
「仕方ありません。騒ぎになっても困ります」
これでこいつらが見つかるのは時間の問題。俺がやったとバレることはないと思うが、念には念を入れよう。
「もうすぐで日が落ち切ります。合流地点と逃走ルートを確保したら宮殿に向かいましょう」
「分かりました」
シャーレさんとその確認をして、そろそろ動き出そうとした頃、シャーレさんから伝言を伝えられた。
「ルビナ王女が絶対に能力は使うなと、使うつもりなら止めなさいと命じられています」
「わかっています。今回の目的はあくまで調査、戦闘はできるだけ控えます」
「それは手遅れですがね」
先程3名殺したばかりなので、確かにそうだがあれば仕方ない。
「では、行きましょう」
「はい」
そして俺とシャーレさんは夜の闇に乗じて、宮殿へと侵入した。
「シャーレ様、場所の案内お願いします」
「分かりました。まずは皇族の居そうな場所ですね」
宮殿のことに関しては、ルビナ王女と共にいたシャーレさんの方が詳しいため、案内を任せて皇族の話していそうな場所をさぐった。
「ここも居ませんか...」
「寝ているんですかね」
3個目の目星も外れたようで、シャーレさんは少し焦っているようだった。
(どこにいるんだ)
だとしても警護自体はいるので、皇族が何処かにいる事は確定している。
「最悪は俺が暴れますので、シャーレ様がそれを利用して情報をつかみましょう」
「.....本当の最悪ですね」
この場合シャーレさんと離れる事になるので、何かあった時かなりまずい。だから、俺とシャーレさんも最悪だとしている。
(それにしても静か過ぎる)
そして一瞬の静寂の中、1つの音が聞こえた。俺は反射的に抜刀してその音に合わせるように剣をぶつけた。
「完全に後ろをとっていたのに....何者だ?」
ぶつかった感触がある....だがしかし、そこには何もいなかった。
「お前こそ、姿を見せたらどうだ?」
「わざわざ危ない目にあう奴がどこにいる」
そうして、そいつの足音がした瞬間、俺はシャーレさんを連れて逃げた。
「直ぐに王都を出ましょう」
「それしか無いようですね」
シャーレさんも事態を理解して、全力で逃走したのだが....
「多い」
「あの一瞬でこれまでの兵が....」
宮殿を出ようとした俺とシャーレさんは、とある部屋から下の様子を伺っていたのだが、かなりの兵が集まってきていた。
(情報がない上に、この状況か....)
まだ、皇族の目的も第三王子の事も分かっていないのに...そう思っていると、その部屋に1枚の紙があった。
「これは....」
暗くて見えずらかったが、そこには王族の印が押されていたため、とりあえず持ち出す事にした俺は、その紙を懐に入れた。
「リーヴァさんそれは?」
「良く見えませんでしたが、重要なものかと」
「それは良かったですが....」
情報か何かを手に入れたとしても、状況は芳しくない。
仕方ない、少し危ないかもしれないが、シャーレさんならば行けるだろう。
「シャーレ様、屋根伝いに逃げましょう。幸い、この上から逃げられそうです」
「なるほど、その手が...」
俺は先に屋根にあがり、シャーレさんを引っ張りあげるとそのまま屋根伝いに人気のない場所まで行き、この王都を脱出した。
「あまりいい収穫が無かった上に顔を覚えられましたね」
「仕方がないです。王都の現状を見れただけでも良しとしましょう」
逆に俺があそこで戦っていたら、シャーレさんが危なかったかもしれない。
「あの見えない敵...能力でしょうか?」
「分かりません。あれが能力だとしたら皇族か、それとも....」
第三王子の能力が分かっていない以上、あの敵が皇族の可能性も捨てきれない。どちらにせよ、あの能力と戦うのは難しい物だ。
「シャーレ様、明日からあの修行を行います」
「あのって....ああ、分かりました」
せめてシャーレさんだけでも、透明な敵に気づいて欲しい。
あれに対抗できるのが俺だけだと、色々と無茶な場面が出てきてしまう。
(俺だけじゃダメか....)
ルビナ王女と同じく俺自身も自分の強さを改めて、「今」出来ることをしよう。
そうして俺達は残虐の森へと帰還した。
「ルビナ王女ただいま戻りました」
「お疲れ様、リーヴァ、シャーレ。無事で何よりだわ。王都はどうだったの?」
ユグラスと2人だったので少し心配はしていたのだが、特に大きな問題もなかった様で一安心だ。
だが、ルビナ王女の問いに俺とシャーレさんはどう答えればいいか分からずにいた。
(本当の事を言っていいのだろうか....)
俺が迷っている内にシャーレさんは覚悟を決めていた。
「王都は荒れ果て、国民が困窮していました。以前のパラシアスはもう、そこにはありませんでした」
それを聞いたルビナ王女は力なく椅子に腰かける事になった。
「.....そう。帝国とお兄様の目的は?」
「申し訳ありません。宮殿に侵入しましたが、何者かに襲われた事で、第三王子どころか皇族を見つけることが出来ず、撤退しました」
これは俺の失態だ。潜入先で見つかって、なんの情報も得ることが出来なかった。ただ一つあるとすれば....
「役に立つか分かりませんが、これだけは手に入れました」
俺はあの部屋で見つけた1枚の手紙をルビナ王女に手渡した。
そしてそれを開けたルビナ王女は目を見開いた。
「これって......いや、そういう事ね」
「王女様何が書いてあったんですか?」
ユグラスも紙の内容が気になった様でルビナ王女に問うと、ルビナ王女は立ち上がって、俺とシャーレさんの元に来た。
「2人ともよくやってくれたわ」
そしてその内容とは...
第三王子に領地と財宝の1部を渡し、相互不可侵を結ぶことで、パラシアスの王都進行を手伝わせるという事だった。
「持ち出したものがこんな情報だったとは」
「ええ、王家の印を覚えておいて良かったですね」
「王女様、これが分かったとしてどうするんですか?」
確かにこれが分かったところで、出来ることがない。
もし、パラシアスが落ちる前だったのなら、第三王子を先に処理できたが....
「領地が割れているのだから、そこを叩きましょう」
ルビナ王女は第三王子を倒すつもりだった、だがしかし、大きな問題がある。
「ルビナ様、この人数で攻めに行くのは無謀かと思われます」
今いる人数は4人、国が無くなったとはいっても、王子だったから自分の兵とミクラナ帝国の兵士がいる可能性が高い。
その場合この人数で倒すのはかなり骨が折れる。
「.....それもそうね。でもまずはお兄様を倒してミクラナ帝国の目的を聞きましょう。皇族を相手にするよりは楽な勝負なはずよ」
それに関しては否定しようも無い事実なため、俺達は頷くことになった。




