最強の騎士と無力な王女(ルビナ視点)
リーヴァが追っ手の足止めに行って少しした時のこと。
私は妙な胸騒ぎが止まらなかった。
「嫌な予感がするわ」
それでも、ユグラスはリーヴァを信用しているようだった。
「大丈夫ですよ、王女様。あいつは帰ってきます」
「そうですよ、皇族が来ているわけでもないでしょうし....」
大丈夫だという2人だが、私はそれでも胸のざわめきが止まらなかった。
(なんでこんなに....)
リーヴァを信用していない訳じゃないけれど、何故か背中にそっと寒気が走って行く。そしてリーヴァが見えなくなった頃、私はある決断をした。
「リーヴァの所へ行くわ」
私は馬に乗り込み、走り出そうとしていた。
「待ってくださいルビナ様!それではリーヴァさんの行動の意味がなくなります!」
焦って私を止めようとするシャーレだけれども、私はこの直感を信じたい。
「たとえ1人でも行くわ。ざわめきが止まらないの」
その言葉にシャーレは押し黙った。
「王女様が言うならそれに従います」
だが、ユグラスは私について来てくれた。きっと彼も心配だったんだろう。
「分かりました。私も行きます....ですが、ルビナ様..お気をつけ下さい」
「ええ、分かっているわ」
そうして私達はリーヴァの元へ向かった。
敵軍から少し離れたところで、私達は状況を把握するために止まったのだが...
「あれは....ルビナ様の予感が当たりましたね」
「ええ、当たって欲しくは無かったけれど」
私達から見えたのは相手に皇族がいた事と、リーヴァが手傷を負ったことだった。
「すぐに助けに行くわ」
「分かりました」「リーヴァ....」
そうして私達はもう一度、馬を走らせリーヴァの元まで来た。
(馬の上でのレイピアは練習していない...)
それでもできる範囲で包囲網を抜けて、リーヴァの元まで来たのだが、最悪の形でたどり着いてしまったのかもしれない。
「ルビナ王女!!」
彼がそう叫んで私に覆い被さったと同時、彼は背中を斬られていた。
(まさか....能力で)
リーヴァが手こずるのも無理がない。離れた距離からでも当てることが出来ているならば、距離を取られれば勝機が薄い。
私は力が抜けてしまったリーヴァを支えると、彼はとんでもないことを言った。
リーヴァは、全員を倒すと言った上で私のことを2人に頼んだのだ。私は何をするのか分からなかった。
「リーヴァ....何をするの?」
「すぐに分かります」
彼の言葉はそんな簡単なものだったが、この後私...いや、私達は何も理解出来なくなる状況に陥る事になった。
ゆるりと立ち上がったリーヴァは皇族相手にこういった。
「能力発動」
彼は確かにそう言った。
(どういう....こと)
その時シャーレはユグラスへ彼のことを聞いていた。
「.....ユグラスさん、リーヴァさんは王族だったのですか?」
シャーレの疑問はごもっともで、それをよく知るのは子供の頃から一緒にいるユグラスだろう。だが、ユグラスの慌てようは凄いものだった。
「そ、そんなはずない!あいつは俺と同じで一般の家庭で...それにあいつの髪と...目....は」
ユグラスがリーヴァの方を向いて、言葉を詰まらせたので、私もシャーレもその姿を見ると...
「髪の色が....白に」
能力の影響だという事は分かるが、それなら金色になるはず....能力を持つもの...いや、王族は金色の髪に金色の瞳を持つが、彼は白色の髪だった。
そして、瞬きをした一瞬で敵兵の大剣を持つ男の腕が地面へと落ちた。
「.....は?」
「師匠!!」
大剣を持つ男ですら、何が起こったか理解出来ていない。
(何が起こって....)
「シャーレ...見えた?」
動体視力のいいシャーレならと思ったのだが、シャーレは目を見開いて固まっていた。
「.....何も...見えませんでした」
お兄様の能力の時には、見えていたらしいシャーレが見えないとなるとリーヴァはそれ以上の能力を持っていることに....
「よくも師匠を!」
相手の皇子が剣を振るい、リーヴァに当てようとするが、見えないはずの斬撃をリーヴァは弾いた。
「どういう....事だ..何故防げる!」
リーヴァ何も発さずただ、周りの兵士を蹂躙した。それは人間とは思えない姿で....
2万程いたはずの兵が瞬く間に1000を切った時、腕を切り落とされた男が、声を上げた。
「全員!ハルジオン様を守り退散せよ!!!」
リーヴァはその声に反応して、その赤い瞳を光らせた。
それは視線を向けられていない私ですら、恐怖を覚えるほどだった。
(リーヴァ....貴方は..)
皇子を含めた敵兵がその声で退散していく中、リーヴァは動かなかった。そして敵兵が完全に居なくなった時、リーヴァの髪の色が黒へと戻ったのだ。
しかし、リーヴァは地面に膝をつき苦しみ出した。
「ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛!!.....はぁはぁ...ああ」
地面を転がりながら、血を吐き出すリーヴァに私達は駆け寄った。
「リーヴァ!どうしたの!」
私が何を言おうとも、リーヴァはただ苦悶の声を上げ続けるだけで、私は何も出来なかった。
(一体何が....どうして)
能力を使ってからは一撃も貰っていないはずのリーヴァが、今は地面を転がっている事に理解が追いつかない。
それは私以外もだった。
「どうしたんだ!?リーヴァ!」
「リーヴァさん!しっかりしてください」
だが、2人の声もリーヴァに届く事はなく、苦悶の声を上げ続けたリーヴァは糸が切れたかのように動かなくなった。
「え....リーヴァ.....リーヴァ!!」
私は死んでしまったのかと思い泣きながら、リーヴァの元に駆け寄ったが、胸に手を当てると心臓の動くのは確認できた。
「王女様!リーヴァは?!」
「.....大丈夫よ、生きてはいるわ」
ユグラスが安心できるように生存を知らせたが、リーヴァの意識はここにはないようだった。
「すぐに家に連れて休ませましょう」
「ええ、ここからなら、そう時間はかからないはずよね」
私達はリーヴァをユグラスの馬に乗せて、彼の家へと向かった。
リーヴァの家に着いても尚、リーヴァは意識を取り戻すことはなかった。リーヴァをベットで寝かせたあと、私達は今日の事そして、これまでの事について話をした。
「リーヴァはあの時からここで修行を....」
「ええ、そう聞いているわ」
ユグラスはこれまでの事を聞いて、少し頭の整理が追いつかないようではあった。
(これだけの事を聞いて整理できるはずもないか...)
私はユグラスにも考える時間が必要だと考えてリーヴァの寝ている部屋へと向かった。
「シャーレ、リーヴァの容態は?」
シャーレは私の声に少し身を震わせてから、私の方を見るが、その表情は良いものではなかった。
「悪くはなっていません。ですが...」
ベットで眠るリーヴァが未だに目を覚まさないのを見るに、良くもなっていないことが分かる。
「私がリーヴァを見るから、シャーレも休んできて」
「ですが....っ、分かりました」
シャーレは静かに部屋から出ていった。私はリーヴァの元へ行ってその手を握った。
「ねぇ、リーヴァ.....私どうしたらいいの....」
本当はわかっていた。あの状況であっても、リーヴァが逃げ切れた可能性がある事も.....しかし私が来たことにより、怪我を負って結果....こうなってしまった。
(私は本当に....)
私は強くなった気でいた。
シャーレ、リーヴァ、ユグラス。
ついてくれる人が増える度、私は少しずつ出来ることが増えたように思っていた。
けれど私は弱いままだった。
「お願い...リーヴァ...目を開けて」
私は涙を流した。
自分の専属騎士になってくれたリーヴァと自分の弱さに。
「シャーレさん、行かなくていいんですか?」
「.....今のルビナ様に、それは必要ありません」
「.....そうですか」
ドアの向こうでは、シャーレとユグラスがこの話を聞いていた。
だけど、私はそんなことには気が付かなかった。




