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無能力の王女の専属騎士は最強の鬼人  作者: もぶだんご


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16/39

vs 皇子(リーヴァ視点)

 王都からだいぶ離れた俺達は、緩やかな丘の上で休憩を取っていた。


「ルビナ王女、お怪我はありませんでしたか?」

「ええ、私は大丈夫よ。リーヴァこそ大丈夫なの?」

「もちろん大丈夫です」


 落馬した際に怪我をしたユグラスは、シャーレさんに手当てをされていた。


「はい、これで大丈夫です」


 シャーレさんが包帯を縛ると、ユグラスは少しバツが悪そうにしていた。


「申し訳ないです。ありがとうございます」

「いえ、仲間ですから」


 シャーレさんとユグラスの仲も悪い訳では無いので、亀裂を産む心配はなさそうだ。


 そうして俺が王都の方に目を向けると、見たくなかったものが見えてしまった。


「....追っ手が来ています」

「え!もう!?」


 ルビナ王女は驚いた様子だが、無理もない。


「リーヴァさん、どうしますか?」

「....あの距離だと森につく前に追いつかれる可能性があります」


 距離があるとはいえ、こちらに向かってかなりのスピードで迫ってきているところを見るに、目的地は割れているようだ。


「私が足止めをしますので、その間にルビナ王女を連れて森に逃げてください」


 俺の考えた1番いい作戦はこれだったが、周りは否定的だった。


「流石にダメよ、リーヴァ。危険すぎるわ」

「ルビナ様の言う通りです」


 ルビナ王女もシャーレさんも俺の事を心配してくはれてはいるが、生憎これ以上の案が思いつかない。


「おい、リーヴァ」

「どうした?」


 何も言ってなかったはずのユグラスが口を開いたかと思えば、俺に拳を突き出してきた。

 そして俺の脳内に子供の頃の記憶が蘇ってきた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


『リーヴァ、絶対に王族を懲らしめてやろうぜ』

『ああ、もちろんだ!俺とお前がいればなんでも出来る』

 そうして2人の少年は拳を合わせていた。


 ◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇


「絶対に帰ってこい、遅かったら俺が助けに行く」


 ユグラスは真剣な顔をしていたが、俺はあの頃の無邪気な笑顔に重なって見えた。


「ああ、もちろんだ。すぐに追いつく」


 そうして俺とユグラスは約束をするかのように拳を合わせた。


「2人で盛りあがっている所悪いけれど、その場合私とシャーレも助けに行くわよ」


 ルビナ王女がそう言うと、その横にいたシャーレさんも頷いていた。


「尚更、負けられませんね。では行って参ります」


 そうして俺は馬を走らせ、約2万程と思われる敵軍へと向かっていった。俺が敵軍と顔を合わせた瞬間、やらかしたと思った。


(....まさか、追っ手に皇族が来るとは)


 追っ手の先頭にいた金髪で金色の目をした少年を見た瞬間、時間がかかることだけは分かった。


「鬼が本当にいるとは思わなかったよ...僕はミクラナ帝国第2皇子、ミクラナ・ハルジオン。そこの鬼、名は」


 鬼の仮面をつけている俺は、皇子からそう言われるが、どう答えるべきか...


(いや、待てよ...)


 俺はここで妙案を思いついた。それは...


「私はパラシアス第3王女パラシアス・ルビナ様の専属騎士。アルデナ・リーヴァ」


 鬼という名を利用してルビナ王女を王族として、相手に認知させる事だった。


(これで、兵を集めることが出来るかもしれない)


 王族として認められていないルビナ王女もこれで、相手国だけとはいえ王族認定される。


 それが広まれば、いつか....


「専属騎士....か」


 皇子がそう呟いた瞬間、その後ろからガタイの良い、大剣を持った男が現れた。


「そこの鬼、専属騎士と言ったな。ならば私と勝負してもらおうか」

「貴様は誰だ」

「私の名はゼルガル・マルコ。ハルジオン様の専属騎士だ」


 マルコと名乗る男は皇子の専属騎士だった。お互いが専属騎士という事でどちらが上か、はっきりさせたいのだろう。


「いいだろう。まとめてかかってくるといい」

「いや、専属騎士同士、一対一で行こうではないか」


 まさかとは思ったが、この男本当に一対一でやるつもりだ。だが、これは俺にとっては好機、戦力を大幅に削ることが出来る。


「わかった。始めの合図はそちらからでいいぞ」

「ほう、余裕だな」


 そして俺は師匠の剣を、マルコは大剣を構えた。そして次の瞬間...


「勝負!」


 マルコが、俺に対して地面をえぐるような踏み込みで突進してきた。


(速いが...)


 そのスピードはシャーレさんよりは遅いものだった。上から下ろされる大剣を受け流そうとした時、俺の予想は外れることになった。


 俺は大剣を滑らせて一撃で勝負をつけるつもりだったが、大剣と剣があわさった時....


「そんな剣で、私の攻撃は受け流せんぞ!」


 マルコの筋肉異様なほど隆起して、その重さが異次元なほどに重くなった。


「くっ!」


 俺はそれを受け流せず、剣の防御を崩された。


「ほう、それだけで済んだか」


 俺は崩されると同時に引いていた為、少し服をハスル程度で済んだ。


「マルコと言ったな、貴方を舐めていたことを謝罪しよう。だが、もう当たらない」


 それの発言にマルコは少し楽しそうな笑みを浮かべていた。


「やってみようではないか」


 そうしてまた嬉々として俺に向かってくるが、その時点でこいつは負けていた。


「残念だな」

「きえた!?」


 俺はシャーレさんに教えたように相手の死角をついて、背後を取っていた。そうして俺が背中に一刀を入れようと斜め上から斬撃を振り下ろした。


 血飛沫が舞い、確実にダメージを与えたはずだったのだが....


「凄いじゃないか鬼よ。だが、少し浅いんじゃないか?」


 背中を切られても尚、闘志が衰えないどころか増していた。そしてマルコはまるで槍を振り回すかのように、大剣を俺の首目掛けて一閃してきた。


 俺はそれを屈んで交わしたが、その次の瞬間には正面から打ち合わなければいけない状況になっていた。


「これならどうだ!鬼!!」


 激しい打ち合いによって俺の腕が痺れるが、力でくるタイプにはこれが効くんだ。


 俺は斜め上から落とした斬撃をマルコに躱された。


「もらっ....ゴボッ」


 俺はその剣の軌道を強引に変えて、マルコの胸をバッサリと切り裂いた。


「どうした?そんなものか」


 俺が勝負を決めようとした時、俺の背筋に冷たいものが走った。


(ここにいるのはまずい!)


 俺は嫌な予感を感じて後ろに飛んだ。


「ぐおぉ」


 それでも何故か、俺は胸を切られてしまった。だが、その理由はすぐに分かることになった。


「一対一の場で手を出してくるとは....」


 俺に攻撃したのは泣きそうになりながらも、俺に怒りを向けるハルジオンだった。


「うるさい!師匠!大丈夫ですか?!」

「ハルジオン様、申し訳ありません....」


(こいつら、俺とルビナ王女と同じような関係性か....)


 ハルジオンがマルコを師匠と呼んでいたことから、専属騎士でありながら、稽古をつけていることを理解した俺は、思考を巡らせていた。


(きっと皇族の能力だが.....一体)


 俺の胸がバッサリ切られたのは皇族の能力だろうが、一体どんな能力なんだ....


 ハルジオンを見るといつの間にか剣が抜かれていた。


(そういうことか...)


 こいつの能力は...斬撃を飛ばすことが出来る能力。


 それに加えて、パラシアスの王族と違い、剣自体も腕が立つと思われる。


「一対一は終わりか?」


 俺は少しでも時間を稼ぎ、対抗策を考えていたが、あまり意味の無いものに終わってしまった。


「一対一では師匠の負けでいい。だが、僕がいる限り師匠を殺させはしない!」


 そうして、ハルジオンは俺に届かないはずの位置から剣を振るった。俺はそれを見て斬撃を予測して外した。


「馬鹿な!もう気づいたというのか」


 斬撃を躱すことが出来たため、ハルジオンは動揺していたが、避け終わりの体制が悪かった。


「鬼よ、これは外せるかな」

「チッ」


 俺の後ろをマルコに取られてしまった。そして落ちてくる大剣を剣で抑えた。


「見事だな」

「この程度...」


 両手で抑えたことで眼前で、その刃を止めることが出来たが、後ろから空気を斬る音が聞こえた。


「もらった!」


 そして、俺はハルジオンに背中を切り裂かれた。


(これ以上はマズイ!)


「うおぉぉぉ!!」


 俺はその状態でも大剣を弾き、転がるように距離を取った。


 既に包囲されている俺は多少距離を取れただけだった。


(.....ここまでか)


 確実な劣勢、俺が退こうと次の一手を打とうとした時、後ろからミクラナ帝国の兵の悲鳴が聞こえた。


「まさか!」


 そして、後ろからやってきた人物は....


「助けに来たわ!リーヴァ」


 ルビナ王女達だった。


「っ!すぐにお逃げ下さい!皇子がいます!」


 今来られても、被害が増えてしまう可能性があった。だけれども、ルビナ王女達は引く気がなかった。そして、俺の周りの兵が弓矢によって射抜かれた。


「流石の貴方でも分が悪いようですね」


 その矢はシャーレさんのものだった。そして俺にユグラスが手を差し伸べた。


「立てるか?」


 俺は諦めてその手を取り立ち上がった。


「当たり前だ」


 だが、次の瞬間、ハルジオンがルビナ王女に向けて剣を振ろうとしていた。


「ルビナ王女!!!」

「えっ?」


 能力を知らないルビナ王女はそこから動いていなかったが、俺が間一髪で、覆い被さることが出来た。しかし、その代償は大きく俺の背中に灼熱の痛みが走った。


「あ....あ」


 俺はその一刀で力が抜けてしまった。


「リーヴァ!リーヴァ!」


 シャーレさん達が集まって俺の心配をしていたが、状況は最悪だった。


「鬼はこれで立てないだろう。師匠残りも早急に片付けましょう」

「流石、ハルジオン様だ」


 そんな声が聞こえて来る中で俺はある決断をした。


「シャーレさん....ユグラス聞いてくれ」


 吐血を抑えながら、声を絞り出し、2人に声をかけた。


「リーヴァさんはもう喋らない方が....」

「それは大丈夫....です.....それより、今から...あいつら全員を倒します」


 俺の発言に一同が驚愕していた。


「お前、そんな怪我で戦えないだろ」

「いや、大丈夫...だ。だから...王女を頼みます」


 俺の言葉を理解してシャーレさんとユグラスは首を縦に振った。


「リーヴァ...何をするの?」


 俺を支えてくれているルビナ王女は、心配そうにしているが、問題は無いはず....


「すぐに分かります」


 そして俺はゆるりと立ち上がった。


「その傷でまだ立ち上がれるのか、鬼よ!」


 ハルジオンからの咆哮を聴きながら、俺は剣を構えた。


(呼吸を乱すな、集中しろ)

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