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無能力の王女の専属騎士は最強の鬼人  作者: もぶだんご


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逃亡(リーヴァ視点)

(能力が消えた?)


 パラシアスの兵から帝国軍が攻めてきているという、報告をもらったすぐの事、王族どもの能力が消え去ったのだ。


「どうなっているんだ?!これ!」


 さっきまで、あしらっていた第2王子は能力を発動されられず、キレている様子。他の王族に関しても、能力を発動させれていないようで、かなり戸惑っている。


「まさか...能力を使えなくさせる能力....」


 シャーレさんの言葉を聞いた王族の顔色がどんどんと悪いものに変わっていく。


(さて、どうするか)


 このまま全員殺してしまっても、構わないが...


「リーヴァ.....私達が勝てる可能性はあるわよね.....」


 ルビナ王女は王族との戦いよりも、パラシアスの防衛を考えて、震えてしまっていた。


「正直な話、王族の力がない上に40万の軍に勝てる見込みはございません」


 この王都にいるのは精々10万程度の兵....単純に4倍の戦力差がある上に相手に皇族が居るなら、勝てる可能性は無い。


「ど、どうして!」

「この戦力差ではどうしようもないのです。それはルビナ王女も1度体験したはずです」


 ルビナ王女は俺と会う前、ミクラナ帝国との戦いで負けている。


 だからこそ、その言葉で表情を暗くしている。


(どうするべきか.....)


 逃げる一択ではあるが、逃げ切れるかの問題がある。


「シャーレ様、先にユグラスと合流しましょう。その後....皇族の居ないであろう裏門から残虐の森をめざします」

「ですが、ここで逃げてしまっては、この国を取り返すのがさらに厳しくなるのでは?」


 シャーレさんはこの場から逃げること自体は賛成の様子だが、その後の事についてはかなり疑問視しているようだった。


「そこは否定出来ません」

「なら!」


 ルビナ王女が声を出すが、ここで従う訳には行かない。専属騎士だとしても、貴方が目指す国を作るには...


「ここで確実に負ける道と、僅かにでも希望がある道。ルビナ王女が本当にこの国を良くしたいと思っているならば、どちらを選ぶべきかお考え下さい」


(貴方がここで死ねば...この国は本当に終わりだ)


 それでもパラシアスを防衛するのだとしたら、俺はもちろん文字通り命をかけて、戦うつもりだ。


 だが、ルビナ王女はその大きな決断を想定より早く下した。


「.......シャーレ、リーヴァ、今すぐに...逃げるわ」


 自身の無力感を噛み締めているように、拳を握りしめたルビナ王女は逃亡を選んだ。


「はい」「わかりました」


 俺とシャーレさんも、肯定した事により即刻行動を起こす。


 未だ騒いでいる王族に何を伝えるでもなく、俺達はユグラスの待機している家へと向かった。その道中、ルビナ王女は一言も発さなかった。


「ユグラス!今すぐに逃げるぞ!」


 俺はユグラスの家の前で大声を出すとユグラスは慌てたように家から飛び出してきた。


「どうしたんだリーヴァ、何かあったのか?」

「悪いが説明している暇はない。すぐにここから離れるぞ」

「え、まぁ、わかった」


 まだ状況を理解していないユグラスだったが、俺らの焦りように素直に従ってくれた。その次の瞬間、城門から戦いの音が聞こえ始め、城壁の上から弓矢を放つ音や怒声が鳴り響いた。


「予想より早い!急ぎます!」

「分かりました。ルビナ様こちらへ」


 俺が裏門へと先導しつつ、全員で逃走を測っていた。


「無理だな」

「裏門でもここまでの兵が...」


 裏門に着いた俺達だが、見えたのは先が見えないほどの数の大軍。


(8万程度か....)


「なぁ、リーヴァ...これやばいんじゃないか?王女が居ると言ってもこの数...」


 戦争に慣れていないユグラスは、既に諦めそうになっていた。俺はそんなユグラスの背中を叩いた。


「大丈夫だ、俺がいる。昔もそうだったろ?」

「何言ってんだ、お前のせいで怒られただろ」


 昔のことを思い出すことで、少し空気が緩んだ。


「リーヴァさん、笑うのは良いですが、どうしますか」


 シャーレさんが、裏門の敵を見て考えをめぐらせていた。


「少し危険ではありますが、突っ切るしかないでしょう。ユグラス、お前戦えるか?」


 一応、戦力になるかどうかの話だったが、あまり期待はしていない。


「あの数相手に俺は何も出来ないぞ?」

「...わかった」

「なら、この軍を切り抜けるまでは私が先頭その後ろにルビナ王女、ルビナ王女の左右にシャーレ様とユグラスを配置します」


 この場の全員が頷いた事を確認した俺は、そのまま作戦を伝える。


「この軍を抜けきれたら、シャーレ様を先頭その後ろにルビナ王女とユグラス、殿は私が努めます」

「それじゃあ、リーヴァの負担が大き過ぎないか?」


 俺の事を心配しているユグラスだが、これまで会っていなかったのだから当然か...


「安心しろ、さっき第2王子をあしらったところだ。この程度造作もないさ」

「おまっ!.....切り抜けたら色々聞くからな」

「ああ」


 聞きたいことがあるだろうが、状況を理解したユグラスは切り抜けたらと変えてくれた。


(とはいえ、厳しいな)


 あの王族を相手するより、100人から切りかかられる方が負ける可能性は高い。兵法というものは1番強いと言っても過言ではない。


 強いものを2人いれば倒せる可能性すらある。


「シャーレ様、置いてかれない程度で弓兵を射抜いてください。ですが優先はルビナ王女とご自身です」

「分かりました」

「ユグラス、お前は自分の身を守ることだけを優先しろ」

「俺も戦うと言いたいところだけど、足でまといにはなりたくないな」


 無力感を実感しているようだが、これに関しては仕方がない。


「最後にルビナ王女、貴方が殺られた瞬間、私達の負けです。何を捨ててでも、生き残ってください」


「.....私はまた」


 こちらも無力感を感じているが、落ち込んでいる暇は無い。


「その気持ちもルビナ王女を成長させます。今は堪えてください」

「...ええ、分かっているわ」


 そうして俺達は逃亡作戦を決行した。


「馬があるとはいえ流石にきついな」

「ルビナ王女しっかりついてきて下さい!」


 上から見て敵軍の少ない方を選んだが、それでも多くの兵がこちらを視認している。


「リーヴァさん!左から増援です!」

「右によります!ユグラス!」

「わかってる」


 今のところ良くも悪くも、進展は無し。

 時間はかけすぎたらまずい....


「これ以上時間をかけれません!多少の攻撃は無視して全力で走らせてください!王都が目的な以上、深い追いはありません!」

「はい!」「了解」


 俺は周りの敵兵を槍で突き刺し、移動出来る場所を確保しながら先導するが、ここで問題が起きてしまった。


「うわっ」

「ユグラス!!」


 ユグラスが敵の攻撃により、落馬してしまったのだ。


(助けないと...でも止まったら)


 止まってしまえば、切り抜けれる確率がさらに下がる。だが、盟友を....


 俺が一瞬迷っている時にはルビナ王女が動いていた。


「ユグラス!手を!」

「え?王女?」

「いいから!」


 そうしてルビナ王女は時間をかけずに、ユグラスを助け出すことに成功した。


「ルビナ王女....ありがとう...ございます」

「今はいいわ!それよりも」


 そうだ、俺は止まっちゃいけない!俺はさらに速度を上げて周りの敵兵を蹴散らし、そこからは問題なく包囲網を突破した。


「シャーレ様!先導お願いします」

「分かりました!」


 俺とシャーレさんは場所を移動して、ルビナ王女を挟むように前後についた。


 俺は後ろからの弓矢を撃ち落としつつ、騎馬兵を倒し切ると追撃が緩やかになって行った。


(何とかなった......)


 実際もう少し時間をかけていたら、危なかった。俺がルビナ王女にお礼を言おうとした時、先にユグラスが口を開いていた。


「どうして...俺を助けたんだ?」


 ユグラスはまだ王女を信じれていない。だからこそ、王都の王族のように身勝手な王女だと思っている。


「そんなの当たり前じゃない。リーヴァの盟友で私の仲間なんだから」


 後ろにいる俺にはユグラスがどんな表情をしているか分からないが、少しは理解したんだろう。


「.....リーヴァの言っていた事が、少し分かった気がします」


 最後、言葉遣いが綺麗になった事から、ユグラスもルビナ王女を他の王族とは違うと理解したのだろう。


「ルビナ王女....ユグラスを救ってくれて、本当にありがとうございます」


 俺は後ろに気を配りつつも、王女にお礼を言うが返ってきたのは、ルビナ王女らしい返答だった。


「今の私じゃあ、助けれる人は少ない....だからこそ目の前の....手の届く人は絶対に助けたい」


 ルビナ王女は全ての人を救いたいと言っていたが、きっとこれまでの経験で、それが今のままだと無理な事と分かって「今」できる事に思考を切り替えたんだ。


「でも、王女様には能力があるじゃないですか。それなら助けれる人は多いはずでは?」


 その疑問は正しかった。王族には能力があるからこそ、人を助けることも力を自分のために振るうこともできる。


 しかし....


「....私には能力がないの」


 悲壮感が漂うような声だったが、それを受け入れているようでもあるルビナ王女にユグラスは固まっていた。


「私はそれでも、パラシアスの王になるわ。初代パラシアス王を超えて、この国がさらに良くなるために」


 ルビナ王女のその言葉が嘘じゃないと分かったユグラスは、心を動かされたんだろう。


「王女様、こんな形で申し訳ありませんが、言わせていただきます」


 そしてユグラスは深呼吸をするように深い息を吐いたあと....


「このオスロブ・ユグラス、パラシアス第3王女パラシアス・ルビナ様に仕えさせて頂きたく存じます」


「....ありがとう、ユグラス。私はまた」


 その時、ルビナ王女から流れた涙を俺は見逃さなかった。


(ユグラス、ありがとう...そしてルビナ王女...良かったですね)


 シャーレさんと2人だったルビナ王女は今、仲間を増やし4人にまでなった。きっとここからもルビナ王女に着いてくる人間は増えるだろう。


 だからこそ、ここを乗り切ろうと俺は再度意気込んだ。

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