第24話 新しいスタート
話し合いの翌日。
狸狸亭の二階に、四人が集まった。
いつもの練習室。でも、空気が違った。
重苦しさが消えて、代わりに少しだけ温かい空気が流れている。
「おはよう」
片桐さんが、いつもの笑顔で言った。
でも、その笑顔は、昨日までとは違っていた。無理をしていない、自然な笑顔。
「おはよう!」
ふたばが、元気よく返事をする。その尻尾が、久しぶりにぶんぶんと揺れていた。
「おはよう」
理沙が、小さく微笑んだ。
「おはようございます」
僕も、自然に笑顔が出た。
昨日、全部を話した。本音を、全部。
片桐さんの気持ち。僕の気持ち。ふたばの気持ち。
それを知った上で、僕たちはもう一度、ここに立っている。
「じゃあ、練習始めよう」
片桐さんが、音楽を流す。
腹鼓ブラザーズが作ってくれた『明日も笑えるように』のイントロが流れ始めた。
三人が、ステップを踏む。
今日の動きは、違った。
ふたばのステップが、軽い。笑顔が、本物だった。
片桐さんの歌声が、のびのびとしている。無理に張り上げることなく、自然に響いていた。
理沙のダンスが、力強い。三人のバランスを取りながら、しっかりと踏みしめている。
サビで、三人が腹を叩く。
ぽん、ぽん、ぽん。
その音が、綺麗に揃った。
僕は、袖で見守りながら、胸が熱くなった。
(これだ)
これが、ぽんぽこ♡トリオの本当の姿だ。
無理をせず、お互いを信じて、前を向いて歌う姿。
曲が終わって、三人が息を切らしながら笑った。
「……すごい。今日、めっちゃ調子いい!」
ふたばが、目を輝かせた。
「うん。久しぶりに、楽しかった」
片桐さんが、少しだけ照れたように笑った。
理沙が、二人を見て、小さく笑った。
「……やっと、元のぽんぽこ♡トリオに戻ったね」
その言葉に、三人が頷いた。
僕も、頷いた。
休憩時間。
片桐さんが、窓際に座っていた。僕も、その隣に座った。
少しの沈黙。
でも、それは気まずい沈黙じゃなくて、心地いい沈黙だった。
「……ねえ、清水くん」
「はい」
「昨日、ありがとう」
片桐さんが、小さく笑った。
「清水くんの気持ち、聞けて……嬉しかった」
その言葉に、僕の胸が温かくなった。
「僕も、片桐さんの気持ち……聞けて、嬉しかったです」
片桐さんは、少しだけ頬を赤らめた。
「私……改めてアイドルとして頑張りたいって思ったの」
「はい」
「清水くんが見守ってくれるなら、私、もっと頑張れる」
片桐さんは、僕の目を見た。
「だから、これからも……一番近くで、見守っててね」
その言葉に、僕は頷いた。
「はい。片桐さんの一番のファンとして、一番近くで応援します」
片桐さんが、笑った。
その笑顔は、今まで見た中で一番輝いていた。
ふたばが、僕のところに来た。
「ねえ、清水くん」
「うん?」
「私ね、片桐さんと清水くんが幸せそうで、嬉しい」
ふたばは、少しだけ照れたように笑った。
「私も、清水くんのこと好きだったけど……それは、お兄ちゃんみたいな意味だったのかも」
「え?」
「清水くんに褒められるとくすぐったくなるの」
ふたばは、尻尾を揺らしながら言った。
「だから、私はこれからも……二人のこと、応援するね」
その言葉に、僕の胸が温かくなった。
「ありがとう、ふたばちゃん」
「えへへ」
ふたばは、無邪気に笑った。その笑顔は、本物だった。
練習が終わって、狸狸亭のカウンターに四人で座った。
マスターが、烏龍茶を差し出す。
「……やっと、いい顔になったな」
「はい」
片桐さんが、笑顔で頷いた。
「お前ら、次のライブはいつだ?」
「来週、対バンライブがあります」
僕が答えると、マスターは頷いた。
「よし。それまでに、もっと磨いてこい」
「はい!」
四人で、声を揃えた。
マスターは、満足そうに笑った。
その夜、帰り道。
月が、静かに光っていた。
僕の中の僕たちは、まだ静かだった。
でも――
胸の中は、温かかった。
片桐さんの笑顔。ふたばの笑顔。理沙の笑顔。
そして、これから進んでいく道。
新しいスタートが、切られた。
僕たちは、もう一度、前を向いて歩き始めた。
次のライブに向けて。
そして、その先の未来に向けて。
胸の中で、何かが静かに燃え始めていた。
それは、希望の炎だった。




