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実らぬ恋の皮算用  作者: はらっぱ


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20/23

第20話 学園祭という舞台

学園祭当日


多摩女子大学のキャンパスは、朝から賑やかな空気に包まれていた。

模擬店の匂い、軽音楽部の音、笑い声。学園祭特有の、少し浮かれた雰囲気。

僕は、ぽんぽこ♡トリオの三人と一緒に、会場の楽屋に向かっていた。


「わぁ、すごい人!」


ふたばが目を輝かせる。


「緊張するね」


理沙が、少しだけ息を吸った。

片桐さんは、静かに前を見ていた。その横顔は、いつもより少しだけ緊張しているように見えた。

楽屋に入ると、衣装と化粧道具が並んでいた。


「じゃあ、準備始めましょう」


片桐さんが、リーダーとして声をかける。

三人が衣装に着替え始める。僕は外で待機していた。

しばらくして、扉が開く。

そこには、完璧に仕上がったぽんぽこ♡トリオがいた。

衣装に着替え、耳と尻尾を出した三人は、本当にアイドルだった。


「どう?」


片桐さんが、少しだけ照れたように聞く。


「……最高です」


僕の言葉に、三人が笑顔を見せた。


ステージ袖で片桐さんが、深く息を吸った。


「……行こう」


ふたばが、ぎゅっと拳を握る。

理沙が、静かに頷いた。

僕は、三人の背中を見送った。


「頑張ってください」


片桐さんが振り返って、小さく笑った。


「見ててね」


その一言が、胸に響いた。


照明が落ち、会場が暗闇に沈む。


ざわめきが静まり、期待が空気を震わせた。


学園祭のステージはキャンパスにあるホールで、前回の《森ノ音》よりも大きい。観客も多い。一般の学生も、狸サポーターたちも、そして狸腹鼓保存会のメンバーたちも、客席に座っていた。

木村先輩の姿も、後方に見える。


入場のSEが流れ始め、3人はステージに順に入っていく、狸らしく楽しそうに跳ねながら入場していくが、狸が森の中ではしゃいでいる姿が連想されるように、あえて照明を落として、暗闇の中を跳ねていくというスタイルを取っている。

これは、僕の提案で、メンバーにも好評だった。


そして、スポットライトが三人を照らした瞬間――


会場が、どよめいた。


ふわりと現れた狸の耳と尻尾。


「うわ、すごい……!」


「本物みたい!」


「めっちゃ可愛い!」


観客の声が、ステージに届く。


片桐さんが、マイクを口に寄せ、一曲目の歌いだしを観客に魅せつける。


片桐さんの歌声が、会場を包み込む。その声は、前回よりも力強く、そして優しかった。


ふたばが、笑顔で踊る。その動きはまだ少しぎこちないけれど、観客を笑顔にする力があった。


理沙が、ブレない軸でステップを刻む。その存在感は、圧倒的だった。


二曲目、三曲目。


ぽんぽこ♡トリオは、完璧だった。


MC中、ふたばが無邪気に喋り、理沙が冷静にフォローし、片桐さんがリーダーとして場を回す。


その姿は、本物のアイドルだった。


最後の曲が始まる。


『明日も笑えるように』


この曲は、腹鼓ブラザーズが作ってくれた、ぽんぽこ♡トリオの最新曲。


片桐さんが、歌い出す。


その歌声は、会場の隅々まで届いた。


そして、サビ。


三人が、腹を叩く。


ぽん、ぽん、ぽん。


観客が、リズムにあわせて手拍子を始めた。


ぽんぽこ、ぽんぽこ。


会場全体が、一つのリズムになっていく。


狸サポーターたちも、腹鼓保存会のメンバーたちも、みんなが腹を叩いている。


その光景を見て、片桐さんの目が、少しだけ潤んだ。


でも、彼女は笑顔を絶やさなかった。


歌い続けた。


踊り続けた


僕は、袖からその光景を見ていた。


胸の中で、何かが溢れそうになった。


片桐さんたちの夢が、叶っている。


この瞬間、確かに叶っている。


曲が終わり、照明が落ちる。


一瞬の静寂の後、割れるような拍手と歓声。


「ぽんぽこ♡トリオ!」


「最高!」


「また来てね!」


三人が、深々とお辞儀をする。


その姿を見て、僕の目頭が熱くなった。


ぽんぽこぽん。


胸の中で、心臓が鳴り続けていた。


観客は手を叩き、声援を送り、ぽんぽこ♡トリオの歌で会場は大いに盛り上がった。

片桐さんの歌声は、会場全体を包み込むように響き、ふたばの笑顔は観客を癒し、理沙のダンスは圧倒的な存在感を放っていた。


僕は、袖から三人を見守っていた。

胸の中で、ぽんぽこぽんと心臓が鳴り続けていた。

ステージが終わって、楽屋に戻る。

三人は汗を拭きながら、興奮した様子で話していた。


「すごかったね!」


「お客さん、めっちゃ盛り上がってた!」


「片桐さんの歌、鳥肌立った!」


僕も、笑顔で頷いた。


「本当に、最高でしたよ」


「ありがとう、清水くん」


片桐さんが、少しだけ照れたように笑った。


しばらくして、理沙が先に学園祭ちょっと回ってみたいと外に出た。

片桐さんも、トイレに行くと言って楽屋を出た。


楽屋には、ふたばと僕だけが残った。

ふたばは、鏡の前で耳と尻尾をしまいながら、ふと僕の方を見た。


「ねえ、清水くん」


「うん?」


「清水くんって……好きな人とか、いるの?」


僕の心臓が、ドクンと跳ねた。


「え……」


「もしかして、片桐さん?」


ふたばは、少しだけ不安そうな目で僕を見ていた。


僕は、少しだけ息を吸った。


「……僕は、マネージャーです」


なぜか敬語になってしまった。


「え?」


「マネージャーなので、アイドルにそんな感情は抱けません」


その言葉が、自分の口から出たことに、僕自身が驚いていた。

ふたばは、少しだけ目を伏せた。


「……そっか」


その声は、少しだけ寂しそうだった。


「ふたばちゃんは、なんでこんなこと聞いたの?」


「ううん、なんとなく……」


ふたばは、少しだけ笑った。


「清水くんが、片桐さんのこと好きなのかなって思って」


「そんなことないよ」


僕は、笑顔を作った。

でも、その笑顔が、どれだけ嘘くさいか、自分でもわかっていた。

ふたばは、少しだけ元気のない顔で頷いた。


「……そっか。ごめんね、変なこと聞いて」


「いえ」


楽屋が沈黙に包まれた。

その沈黙の中、楽屋の外で、誰かの足音が聞こえたような気がした。


その後、片桐さんが楽屋に戻ってきた。


「お疲れ様」


いつもの笑顔。


でも、その目は、少しだけ遠かった。


僕は、違和感を感じた。

でも、何も言えなかった。


学園祭が終わって、夜。

僕は一人で帰り道を歩いていた。


(僕は、マネージャーなので、アイドルにそんな感情は抱けません)


自分で言った言葉が、何度も頭の中で繰り返される。

それは、本当なのか。

それとも、ただの言い訳なのか。

月を見上げた。

いつもの、静かな光。

でも、今夜の月は、少しだけ寂しく見えた。

胸の中で、ぽんぽこぽんと心臓が鳴った。


僕の中の僕たちは、まだ静かだった。

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