第15話 広がる輪 初めての依頼
ライブから三日後の昼休み。
キャンパスのベンチで、コンビニの唐揚げ棒をかじりながらスマホをいじっていると、
突然メール通知が飛び込んできた。
件名:多摩女子大学 学園祭ステージ出演のご相談
「え……?」
手元の唐揚げ棒がポロッと落ちた。
本文には丁寧な文章で――
・ぽんぽこ♡トリオのライブ動画を見た
・学園祭ステージに出演してほしい
――そんな内容が並んでいた。
胸の中で何かが、小さく“跳ねた”。
とうとう、外の世界が『ぽんぽこ♡トリオ』を呼んできた。
昼の喧騒が一瞬遠のいて聞こえた。
放課後、狸狸亭。
提灯の灯りは、いつもよりほんの少し明るく見える。
「えぇぇぇ!?学園祭!?女大の!?」
ふたばが机に乗りそうな勢いで叫ぶ。
理沙は手帳を開きながら、珍しく口元に柔らかい笑みを浮かべていた。
「……すごいね。外部からの正式依頼なんて」
片桐さんは、しばらくメールを見つめていたが、
ふっと息を吸い、目を細めて言った。
「……やっと“外に届いた”って感じがする」
その声は、喜びでもなく誇りでもなく――
長く抱えてきた夢をそっと触るような、静かな響きだった。
ふたばが目をキラキラさせながら続ける。
「行こうよ!絶対行こうよ!学園祭って可愛い空気で、絶対ぽんぽこ向きだよ!」
「ステージの広さも確認しなきゃね」
理沙が冷静に現実に引き戻す。
「音響、照明、控室……大学って案外そこが甘いから」
その横で、片桐さんが僕を見る。
「……清水くんは、どう思う?」
鼓動が一瞬だけ止まった気がした。
目の奥にある期待を、まっすぐ受け止めるのが怖い。
でも。
「……行きましょう。ぽんぽこ♡トリオを、もっと広く届けるために」
自分の口から出た言葉なのに、
誰か別の人が言っているみたいだった。
片桐さんは、少し驚いた顔をして、すぐに笑った。
「ありがとう。そう言ってくれると思ってた」
胸が熱くなる。
その笑顔ひとつに、僕の心は簡単に振り回される。
ふたばは両手を挙げて喜び、
理沙は「じゃあ詳細詰めましょう」とノートを開く。
その姿を見ながら――
ぽんぽこ♡トリオが“見つかり始めている”現実に、僕だけが追いつけていないような感覚があった。
だって。
ぽんぽこ♡トリオの三人が光に近づくほど、
僕はその光の“端”に置いていかれそうで。
だけど同時に、片桐さんの夢が叶っていくのは、
何より誇らしい。
近づきたいのに、遠くなる。
遠くなるのに、もっと応援したい。
初めて味わう矛盾が、胸の奥をざわつかせていた。
そんな僕の心のざわめきなんて知らないふたばが、勢いよく言った。
「決まり!ぽんぽこ♡トリオ、学園祭デビューだね!」
片桐さんが僕の方をちらりと見る。
「また一歩、前に進めるね」
――うん。
そうだ。進んでいく。
ぽんぽこの輪は、もっと遠くへ、もっと広く。
僕の鼓動はまたひとつ、“ぽんぽこ”と跳ねた。




