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オプティシャン・エニグマ  作者: 塚口悠良
第2話:思いの重み
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2話 ep.3

 目の前に並んでいるフレームを眺めているのか、ただぼーっとしているのか分からないたたずまいで女性はそこに立っていた。本日初めてのお客様に失敗は許されないという緊張感でそっと近づいたトキは、できうる限りで品の良い礼をする。胸元に手を当て、三十度の敬礼をし、口を開いた。

「何か、お探しでしょうか」

「あ……いえ……。すみません」

 ぼんやりとした返答をした女性は視線をくるりと巡らせて、脚を一歩後ろへ引いた。

「気付いたら、お店に入ってしまっていて……」

「そう、だったんですね。えっと……あー……な、なにか! お困りのこととか、ないですか」

 このままでは女性は踵を返してしまう。そんな確信めいた予感があった。だからこそ、なんとかつなぎ止めるために言葉を紡ぐ。

「困りごと……? いえ、特には。すみません冷やかしみたいになって」

「あっ……あー……いや、その……」

 これ以上にかける言葉が見当たらず、気まずい沈黙が落ちる。女性が小さく息をついたタイミングで声がかかる。

「見たいものがあるのでは?」

「え……?」

 にっこりと優しげな笑みを湛えたメジロがいつの間にかそばに来ており、女性に向き合った。

「気付いたらうちに入ってきていたのでしょう? でしたら、それなりの理由があるはずです。この店は、見たいもの、見なければいけないものを見せるメガネ屋ですから」

 メジロの言葉に女性はぴたりと動きを止める。

「見たいもの、を……?」

「ええ。よろしければ、こちらへ」

 促されるまま女性はメジロの後をついていく。トキはそれを呆然と見ているしか出来なかった。


 メジロと女性は連れ立って測定室へ入る。椅子に浅く腰掛けた女性は硬い表情でメジロを見つめていた。

「まず、カルテを作成いたしますのでこちらの設問にお答え願えますか?」

「……はい」

 女性にタブレットを手渡し測定室から出ると、眉を寄せたトキがそばに立っていた。

「こちらで話しましょうか」

 トキを手招きしてメジロは測定室から離れる。トキはそれに追随するように後を追った。

「不満、聞きましょう?」

「……俺を最初に行かせた理由はなに。まともに接客なんてできないって分かってただろ」

「まあ、そうですね。あなたの接客技術がどの程度なのか知りたかった、というだけです。それに、別段悪くなかったですよ。礼の角度も、所作も、言葉遣いも。ただ、お客様の琴線に触れることが出来なかっただけ」

「……琴線」

「難しいことは何もありませんが、目の前の人が何を求めているのか。ずっと正解を見てきたあなたは、そのレンズ越しになると途端に何も分からなくなってしまう」

 トキがかけているメガネのレンズを指さし、メジロは肩を竦める。この店でトキが作ったメガネは、人の心読めなくするメガネだった。人の思考が読めてしまうトキに、メジロが誂えたものだ。

「これから、”察する能力”、鍛えていきましょうね」

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