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オプティシャン・エニグマ  作者: 塚口悠良
第1話:見れども視えず
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1話 ep.5

「……見えなかった」

「そうですか」

 いつもなら嫌でも視界に入るはずの女性の心の声が一切視界に入らなかった。それがたまたまでないことは、トキ自身が一番良く分かっている。このメガネがあれば、もしかしたら。そんな期待が押し寄せるのを、どうしてもつっぱねられない。普通になれる可能性を、捨てきれなかった。

「……これ、ください」

「では、もう一度中へ」

 メジロに促され、トキは素直に従った。

「フレームは、いかがなさいますか?」

「何でもいいんですか?」

「ええ。色、形、サイズ、どんなものでもお作りできます」

 言われた瞬間頭に浮かんだのは、入店してすぐ目についたシルバーのフレーム。クスリと笑ったメジロは立ち上がって件のフレームをトキの目の前に差し出した。

「こちら、ですかね? ご来店いただいた際に気にしてらっしゃいましたよね?」

「あ……、はい。これがいい、です」

「では、フレームはこちら。あとはレンズですが、今お試しいただいたものは99%あなたの特性を抑える仕様のものです。カット率はお選びいただけますが、いかがなさいますか」

 メジロは試験枠に填めることの出来るテストレンズを改めて差し出す。トキにはそのレンズの違いは分からなかったけれど、ほんの一瞬でも”見えなく”なったことに心が躍った。メガネがない状態でもメジロの心の声は見えない。それが、酷く心地良かった。

「このままで、お願いします」

「かしこまりました。お時間30分ほどでお作り出来ますが、店内でお待ちになりますか?」

「あ、じゃあ。はい」

 トレーに乗せたフレームを持ってメジロは店の奥へ姿を消す。特にやることのなくなったトキはスマホで適当なアプリゲームをして時間を過ごした。十数分後、メジロがもう一度トレーを手に席まで戻ってくる。

「お待たせいたしました」

「……早かったすね」

「不測の事態に備えるため、少々眺めにお時間いただいているので」

 いたずらっぽく笑ったメジロは、青いレンズのはめ込まれたシルバーフレームをトキにかける。鼻パッドの当たりやレンズの位置、耳のホールド感を確認していく。確認を終えるとメガネを外し、「調整をする」と言い残しカウンターの奥へ向かった。

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