4話 ep.5
小学校は公立である限り、近辺の児童は同じ小学校に通うことがほとんどだ。探索範囲が学校だけなら、私立の可能性や、校区の境目の影響で違う学校になるというのも考えられるけれど、塾で聞いても誰も知らないというのだから、近辺に住んでいるわけではないのかもしれなかった。
「引っ越し……してしまったとか」
「そう思って、最近引っ越ししていなくなった子がいないかも聞きました。でも、ないって言われちゃった。近くの学校の子にはだいたい話を聞いたはずなの。でも、どれだけ探してもランがいない。誰も、ランのことを知らない……」
震える手をぎゅっと握って俯いたスズは、スカートのポケットを探り始める。ポケットから出した手に握られていたのは、糸の端を結び合わせた毛糸の輪だった。
「これ。これが、ランにもらった毛糸。わたし、あやとりすごく上手になったの。でも、ランがいないとふたり用の技は練習出来ない……!」
堰を切ったようにスズは涙を流す。どれだけ探しても友だちがいた事実すら認められず、幻でも見ていたかのような錯覚に陥ることに耐えられなかった。二年間必死で探したのに、何の成果も得られないというのは、耐えがたい苦痛だった。トキはハンカチを取り出し、スズの涙を拭いてやる。後から後から流れてくる涙をただ拭ってやりながらスズが落ち着くのを待った。
なんとか落ち着いたスズに温かいお茶を用意すると伝え、トキはバックヤードに戻る。ドリンクサーバーからお茶を抽出する間、カウンターでこちらを見ていたはずのメジロに声をかける。
「メジロさん、必要なレンズを、あの子に貸してあげることはできますか」
「構いませんよ。ただし、トキくんがしっかり見極めているなら、の話です」
「……はい」
「トキくん。あの子は、何を見るべきですか?」
試すような視線を向けられ、トキは思考を巡らせる。スズに必要なレンズを伝えることができれば、その用意をする、という条件にスズから聞いた話をつなぎ合わせる。二年間探し続けた同級生の少女。引っ越しの可能性は低い。誰も知らないその少女は、きっと。
「亡くなった人に会えるレンズを、用意してください」
「分かりました。では、彼女が気に入っていたフレームを持ってきてください」
合格を告げるように笑みを浮かべたメジロにトキは深々と頭を下げる。出来上がったお茶をスズに届けて、スズのお気に入りをメジロに届けたのだった。




