4話 ep.3
少女の前に紙コップを置いて、トキは対面に座る。ぺこりと頭を下げた少女はそっとリンゴジュースに口をつけた。
「……おいしい」
ほっと一息ついた様子の少女は、紙コップをテーブルへ置いて姿勢を正した。
「改めまして、エニグマへようこそ。担当させていただきます、トキと申します」
形式的な挨拶を始めたトキは、変な緊張感を与えないように出来るだけ柔らかい笑みを浮かべて話す。
「しっかりとお話を聞く前に、キミの名前を教えてもらえる?」
「……スズ、です」
「ありがとう。じゃあ、スズちゃんって呼んでもいいかな?」
トキの問いかけに静かに頷いたスズは改めて店内を見回す。
「お客さん、他にいないの?」
「うぐ……うぅん……まあ、今はね。いや、ごめん。いつもこんなもん」
「お店、大丈夫なの?」
「それは俺も知りたいよ……」
スズの純粋な疑問に天を仰ぎ見たトキは気を取り直すように咳払いをひとつして話を進める。
「スズちゃん、今、見たいものとか、困っていることとか、ないかな?」
「……見たい、もの……?」
トキからの問いかけにスズは口元に人差し指を当て考え込む。じっと考えたスズは視線を彷徨わせ、逡巡しながら口を開いた。
「会いたい子なら、いる」
「会いたい子?」
「そう。前にいっかいだけ遊んだお友だちでね。でも、どれだけ探しても見つからないの」
スズの言葉に、恐らく彼女がこの店にたどり着いた理由がみえてくる。失せ物探しすらも領分としてるんだ。人探しだって出来るはず。そう期待を込めて話の続きを促した。
公園でひとり、地面に絵を描いて遊んでたときのこと。急に現れた女の子が声をかけてきてくれた。
「こぉんなところでなにしてるの?」
その子はすこしいたずらっぽく笑いながらわたしの手元を覗き込んできた。
「あぁ、絵を描いてたのね。すごく上手! みんなにも見せれば良いのに」
「……そんな、そんなこと……ないよ」
「え? でもあなたがあんまり絵が上手じゃないなら、あなたみたいに絵を描けないアタシはへたっぴってことになるけど?」
どうするの、と詰め寄った女の子に上手く言葉を返せなくて、しどろもどろになってしまった。黙ったわたしを見て、女の子はポケットをごそごそし始めた。
「しょうがないわねぇ。じゃあ、アタシの得意なこと一緒にやりましょ!」
そう言った少女の手には輪っかになった毛糸が握られていた。
「あやとり! ふたり用の技ってひとりじゃ練習出来ないでしょう? 付き合って」
強引な口ぶりだったけれど、どこか優しい言葉にわたしは自然と頷いていた。




