4話 ep.1
Optician”ENIGMA” そこは、顧客が求める視界を、見たいと望むものを見せるメガネ屋。大学終わり、今日もフロアの清掃にいそしむトキは、ふと顔を上げる。偶然目をやった入り口の扉。磨りガラスの隙間から小さな人影が覗くのが見えた。先日メジロが言っていた言葉思い出す。
『エニグマを見つけられるのは、”目的”がある人だけである』
トキはその言葉に引っ張られるようにして、小さな来訪者を出迎えた。
扉を開けた先には十歳ほどの少女が立っていた。突然開いた扉に目を丸くして固まった少女に声をかけた。
「良かったら、どうぞ」
トキの言葉を聞いて少女はぴくりと身体を跳ねさせる。恐る恐る会釈をした少女はトキの脇を通り抜け、店内に脚を踏み入れた。店内に入った少女は、目の前に広がった景色にまたしても固まってしまった。しかし、その数秒後には興味津々といった風にフレームを眺め始める。流行のおしゃれなフレームをそっと手に取り始める。トキは少女の様子を視界に留めながらもカウンターに出てきたメジロの元へ向かった。
「メジロさん、あの子……」
「本日のお客様ですか」
「え、いや……そ……すね……」
少女の姿を見ていつも通りの反応を返すメジロにトキは眉根を寄せる。お客様といっても年端のいかぬ少女だ。どう対応すべきかと考えていたが、メジロが何を考えているのかが分からなかった。
「……さすがにメガネ買わせるわけにはいかないでしょ。親もいないし……」
「ひとまずお話を聞いてきてください」
「……分かりました」
事もなげに言うメジロの言葉に渋々頷いたトキはフレームを見つめる少女のもとへ戻った。
「気になるフレームはありましたか?」
「ぁ……ぇ……っと……」
トキが声をかけると、少女はそっとフレームを元の位置へ戻し、もじもじと身体を縮こめた。視線を足下に落とし、黙りこくった少女に言葉を続けた。
「どれが好き?」
視線を合わせるように膝を折ってトキは少女を見上げた。ぱっと頬を染めた少女はおずおずと一本のフレームを指さす。
「これ? じゃあ、どうぞ」
少女が指さした太縁デミカラーのセルフレームを手に取って広げたトキは、そっと少女に差し出した。差し出されたフレームとトキの顔を交互に見た少女は瞳をキラキラさせながらフレームを受け取りフレームをかけた。
「どうですかね」
言いながらトキは少女の目線の高さに鏡を持って来てやる。自分の顔をいろいろな角度で見た少女はにっこりと笑って大きく頷いたのだった。